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14話 お盆編1
翌朝のこと。
「煙々羅?」
朝に出勤してきたカゲハさんに、煙々羅くんのことを相談する。
「いいわよ。ウチで雇いましょうか。燻製、いいわねぇ。自家製ベーコンなんかも作ろうかしら」
カゲハさんは楽しそうに、何を作ろうかしらとワクワクしている。
その日はお店の仕事の傍ら、空いた時間にカゲハさんと新商品の開発をして過ごした。
自家製ベーコンのペペロンチーノに、自家製燻製の盛り合わせ。特に件さんの牧場で作られたチーズの燻製はまったりと濃厚で香ばしくて最高だ。
実験的に燻製のピクルスなども仕込んだりした。これは漬け上がったら味見をするのが楽しみだ。
楽しい仕事はあっという間に終わってしまい、夜。
「どーしよー!」
お盆まで後もう少ししかない。
今から彼氏を作る? 無理無理! 出会いなんかないのに!
私は電話で山本くんに愚痴った。そもそも昔から「視える」のが原因で親とうまくいっていないのだ。こんなこと相談できるの、吸血鬼の山本くんぐらいしかいなかった。
「あー、確かにそれは厄介だな。視える上に色々言い当てちゃってたのか。ウチは理解がある親っていうか、そもそも先祖が吸血鬼なのも親は知っていたからそんなに困らなかったけど」
なんて羨ましい家庭環境なんだ。でも、先祖が吸血鬼ってどうして山本くんのご両親は信じていたんだろう? やっぱり長生きなご先祖さまがずっと山本家に出入りしていたとかだろうか?
それはそれで、なんだか漫画の世界みたいで面白い。
それに比べて我が家は私以外は何の変哲もない一般家庭だ。だからこそ受け入れられなかったのだろうけれど。
「そうなんだ。私はもう、物心つく前からこうだったからずっと色々言い当てちゃっててさ。そのせいで怖がられるし、お母さんなんか現実逃避してなんとか私が普通の人間だと思い込もうとして大変だよ」
「でも、お前には悪いけどちょっとその元婚約者との話は興味深いな。女癖が悪すぎて幽霊も寄りつかないなんて」
山本くんの声はちょっと笑いを含んでいる。
確かに私だって他人事だったら面白いなーって思っちゃうような出来事だけれど、当事者ともなると笑えないのだ。
「ちょっと! 面白がらないでよ。他人事だと思って」
「悪い悪い。……そうだ! お詫びに俺が彼氏のふりでもしてやろうか?」
「え? いいの?」
山本くんの提案は正直ありがたい。新しい彼氏ができたともなれば、流石に母といえども康平とよりを戻せなんて言ってこないだろう。
「お盆だろ? 百合絵さんもお盆は色々見えて鬱陶しいから休むらしいし、俺も休めるから協力できるよ」
「わあ! 助かる! 私もお盆の時期は鬱陶しいんだけど、百合絵さんも同じなんだねぇ」
「そりゃ、あやかし側からするとな、賑やかすぎて大変だよ。それで、設定はどうする? 出会いのキッカケとかは聞かれたらそのまんま答えればいいか」
そっか、彼氏のふりをしてもらうなら、色々設定は考えなきゃいけないものね。
とは言っても、山本くんは元々大学の同窓生だし、出会いのキッカケだって百合絵さんの映画の撮影で、松本に来ていたのは事実なのだ。そこまで嘘を盛らなくても、ただ事実をそのまま話して、その結果付き合うことになったと言えば大丈夫だと思う。
それに、母が納得できないでいるのは私に彼氏がいないことじゃない。
私が康平と付き合い始めてから、「視える」そぶりをしなくなったことに執着しているのだ。だから視えないふりさえちゃんとできれば大丈夫なはず。
でも、お盆。お盆かぁ。
指定されたタイミングが、厄介といえば厄介だった。なにせ亡くなったおじいちゃんおばあちゃんもこっちに来るはずなのだ。
彼氏(偽)なんて連れて行ったらやいのやいのと大騒ぎするに違いない。
それを根性で無視しないといけないのだから、大変といえば大変そうだった。
昔のことを思い出す。ある日、遠方に住んでいるはずのおじいちゃんが我が家の壁をすり抜けて現れたのだ。まだ幼稚園児だった私は「リビングにじぃじがいる!」と騒いでしまった。
「何を言っているの!」と母が混乱したその時、家の電話が鳴り、祖父が突然息を引き取ったことを知らされたのであった。
それは恐らく母の中で恐怖の記憶として根深く刻まれている。娘が突然不気味なナニカに見えるようになったのだろう。それまでは信じていなかった私の「あそこにお化けがいる」「こっちに変な女の人が浮かんでる」といった言葉も、全てが信憑性を増してしまったのだから。
それからずっと、母は私と目を合わせなくなった。
成長するにつれて私はそういうことを言わないよう気をつけるようになったけれど、それでも幽霊と気づかずに言ってしまうことはあったのだ。
それに、道端にあやかしや幽霊がいたら無意識にでもぶつからないように避けてしまう。何もないところをあえて避けて通る私に、母はいつも不気味そうな目を向けていた。
そう言ったことが全く無くなったのが、康平と付き合い始めてからである。
母にとっては、誰かとお付き合いしていれば、娘は「おかしな子」じゃなくなるというのが方程式になってしまっていた。
「煙々羅?」
朝に出勤してきたカゲハさんに、煙々羅くんのことを相談する。
「いいわよ。ウチで雇いましょうか。燻製、いいわねぇ。自家製ベーコンなんかも作ろうかしら」
カゲハさんは楽しそうに、何を作ろうかしらとワクワクしている。
その日はお店の仕事の傍ら、空いた時間にカゲハさんと新商品の開発をして過ごした。
自家製ベーコンのペペロンチーノに、自家製燻製の盛り合わせ。特に件さんの牧場で作られたチーズの燻製はまったりと濃厚で香ばしくて最高だ。
実験的に燻製のピクルスなども仕込んだりした。これは漬け上がったら味見をするのが楽しみだ。
楽しい仕事はあっという間に終わってしまい、夜。
「どーしよー!」
お盆まで後もう少ししかない。
今から彼氏を作る? 無理無理! 出会いなんかないのに!
私は電話で山本くんに愚痴った。そもそも昔から「視える」のが原因で親とうまくいっていないのだ。こんなこと相談できるの、吸血鬼の山本くんぐらいしかいなかった。
「あー、確かにそれは厄介だな。視える上に色々言い当てちゃってたのか。ウチは理解がある親っていうか、そもそも先祖が吸血鬼なのも親は知っていたからそんなに困らなかったけど」
なんて羨ましい家庭環境なんだ。でも、先祖が吸血鬼ってどうして山本くんのご両親は信じていたんだろう? やっぱり長生きなご先祖さまがずっと山本家に出入りしていたとかだろうか?
それはそれで、なんだか漫画の世界みたいで面白い。
それに比べて我が家は私以外は何の変哲もない一般家庭だ。だからこそ受け入れられなかったのだろうけれど。
「そうなんだ。私はもう、物心つく前からこうだったからずっと色々言い当てちゃっててさ。そのせいで怖がられるし、お母さんなんか現実逃避してなんとか私が普通の人間だと思い込もうとして大変だよ」
「でも、お前には悪いけどちょっとその元婚約者との話は興味深いな。女癖が悪すぎて幽霊も寄りつかないなんて」
山本くんの声はちょっと笑いを含んでいる。
確かに私だって他人事だったら面白いなーって思っちゃうような出来事だけれど、当事者ともなると笑えないのだ。
「ちょっと! 面白がらないでよ。他人事だと思って」
「悪い悪い。……そうだ! お詫びに俺が彼氏のふりでもしてやろうか?」
「え? いいの?」
山本くんの提案は正直ありがたい。新しい彼氏ができたともなれば、流石に母といえども康平とよりを戻せなんて言ってこないだろう。
「お盆だろ? 百合絵さんもお盆は色々見えて鬱陶しいから休むらしいし、俺も休めるから協力できるよ」
「わあ! 助かる! 私もお盆の時期は鬱陶しいんだけど、百合絵さんも同じなんだねぇ」
「そりゃ、あやかし側からするとな、賑やかすぎて大変だよ。それで、設定はどうする? 出会いのキッカケとかは聞かれたらそのまんま答えればいいか」
そっか、彼氏のふりをしてもらうなら、色々設定は考えなきゃいけないものね。
とは言っても、山本くんは元々大学の同窓生だし、出会いのキッカケだって百合絵さんの映画の撮影で、松本に来ていたのは事実なのだ。そこまで嘘を盛らなくても、ただ事実をそのまま話して、その結果付き合うことになったと言えば大丈夫だと思う。
それに、母が納得できないでいるのは私に彼氏がいないことじゃない。
私が康平と付き合い始めてから、「視える」そぶりをしなくなったことに執着しているのだ。だから視えないふりさえちゃんとできれば大丈夫なはず。
でも、お盆。お盆かぁ。
指定されたタイミングが、厄介といえば厄介だった。なにせ亡くなったおじいちゃんおばあちゃんもこっちに来るはずなのだ。
彼氏(偽)なんて連れて行ったらやいのやいのと大騒ぎするに違いない。
それを根性で無視しないといけないのだから、大変といえば大変そうだった。
昔のことを思い出す。ある日、遠方に住んでいるはずのおじいちゃんが我が家の壁をすり抜けて現れたのだ。まだ幼稚園児だった私は「リビングにじぃじがいる!」と騒いでしまった。
「何を言っているの!」と母が混乱したその時、家の電話が鳴り、祖父が突然息を引き取ったことを知らされたのであった。
それは恐らく母の中で恐怖の記憶として根深く刻まれている。娘が突然不気味なナニカに見えるようになったのだろう。それまでは信じていなかった私の「あそこにお化けがいる」「こっちに変な女の人が浮かんでる」といった言葉も、全てが信憑性を増してしまったのだから。
それからずっと、母は私と目を合わせなくなった。
成長するにつれて私はそういうことを言わないよう気をつけるようになったけれど、それでも幽霊と気づかずに言ってしまうことはあったのだ。
それに、道端にあやかしや幽霊がいたら無意識にでもぶつからないように避けてしまう。何もないところをあえて避けて通る私に、母はいつも不気味そうな目を向けていた。
そう言ったことが全く無くなったのが、康平と付き合い始めてからである。
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