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15話 お盆編2
特急あずさで、私は東京まで来ていた。
久々に降りた東京駅は、人でごった返していてなんとなく別世界へ来たような気分だ。
人並みを避けて歩くのも、しばらくの長野暮らしで下手になっているような気がする。
時間の流れがこんなに忙しなかったっけと感じるような有様だ。
山本くんとは、八重洲口で待ち合わせをしていた。なんとか人を避けつつたどり着くと、山本くんはすぐに見つかった。
長身で派手な顔立ちだから、目立っている。「ねえ、あの人芸能人かな?」としきりに囁き合う高校生が私の横を通り過ぎていった。
——もしかしてこれ、私の彼氏というにはあまりに派手すぎるのでは?
今更ながらにそんな思いも湧いてくるけれど、ここまで来てくれたのにやっぱりいいですというわけにもいかない。
私は人待ち顔で立ち尽くす山本くんに手を振った。
「お待たせ、今日はわざわざありがとう」
「ん。お前も大変だな、あずみ。じゃあ行くか」
そう言って山本くんは歩き出す。足が長いけれど、歩幅は私の歩くスピードに合わせてくれていた。こういうところ、気がきくんだよなぁ。
大学時代は女慣れしてるが故の仕草だと思っていたそれは、親しく話すようになった今、純粋に他人に対して思いやりがある故の行動なのだとわかった。
私たちは、「人」とは少し違うところがある。
例えば山本くんは、一般的な成人男性と比べても力がものすごく強い。だからこそ色んなことに気をつけなければ、人を傷つけてしまう。
それは、私のような特殊な「視る力」を持った人間にとっても、学ぶべき美点だった。
駅を乗り継いで、懐かしい街並みを歩いていく。
なんの変哲もない、下町。そこにあるマンションが、私の生まれ育った場所だった。
「へぇ。あずみってこの辺出身だったんだな」
「うん。生まれた時から下町生まれ下町育ち」
「ああ、なんか納得」
「ええ。そう言われるとなんか複雑な気分なんだけど」
「悪い意味じゃねぇよ。お前、大学時代から俺のこと特別扱いしなかったじゃん。なんかいつもボケーっとしてて、能天気でさ」
悪い意味にしか聞こえない軽口を叩いている。
「どーいう意味よ、それ」
「俺みたいなイケメンだと何かと苦労するんだよ。お前はその点、俺を特別扱いしなくてなんか楽だった」
私は当時山本くんのことを誤解していたから苦手に思っていたけれど、そういえば山本くんは「あずみー、あずみー」と、何かにつけて私にかまってきていたっけ。
確かに日本人離れした顔立ちで、いつも人に囲まれている山本くんは、日差しのことを抜きにしても疲れていそうな様子だったように思う。
「正直私、事故死体の幽霊とかしょっちゅう見てるから、生きてる人間の美醜にこだわる余裕なかったんだよね」
これは事実だ。正直美醜よりも生きているかどうかの方がよほど大事だった。うっかり見た目が生者に近い幽霊だと、ぶつかりそうになった時に「あ、すみません」とか謝ってしまったりする。はたから見れば何もないところに謝るへんな人だし、「視える」と幽霊に気づかれれば取り憑かれたりする。
イケメンがどうとか、美人がこうとか、それどころじゃなかったのだ。
「何? 俺事故死体と比べられてたの? きちぃー」
そう言いながらも、山本くんは楽しそうに笑っていた。
このくらい、普通のことみたいに視えることを話せると良いんだけどな。家族とも。
それが難しいのは自分でもよくわかってはいるけれど、そう思わずにはいられなかった。
ピンポーン。
実家にたどり着き、なんとなくチャイムを鳴らしてしまう。鍵は持っているけれど、それで入るのは躊躇われた。
ガチャリ、と扉が開き、お母さんが出てきた。
「いらっしゃい、あずみ。よく来たわね。それから彼氏さんも、どうも」
あ、よそ行きの笑顔だ。お母さんはよく、私が変なことを言うたびにこの笑顔で周囲に会釈して誤魔化していた。
母なりの、世間に対する自衛の笑顔。
「ただいまー。あとでちゃんと紹介するね、私の彼氏、山本翔吾くん」
母のその笑顔に対して、私もよそ行きの顔で返す。多分そうすることを母は望んでいるだろうから。
微妙に気まずいギクシャクとした雰囲気の中、私は数年ぶりに実家のリビングへ足を踏み入れた。
「久しぶりだな、あずみ。よく帰ってきたな」
特によく帰ってきたとは思っていなさそうな顔で、父がそう言う。
なんだかさっきから「家族」と題された下手くそな芝居を演じているような気分だ。
けれど、そんな私のうんざりした気持ちは、リビングの宙に浮いている存在によってあっさりと打ち砕かれた。
(うわぁ、やっぱり居る。ニヤニヤしながら宙に浮いている。おじいちゃんとおばあちゃんだ)
お盆だからもしかしたらいるかな、と思ったけれど、やっぱりいた。
なるべくそちらの方を見ないようにしながら、山本くんに合図をする。山本くんも視えているようで、小さく頷いた。
私が彼氏を連れてきたということで盛り上がっているらしく、なんだか騒がしい。
うっかり反応してしまえば母がまた動揺するに違いない。私は細心の注意を払って何も反応しないように努めた。
久々に降りた東京駅は、人でごった返していてなんとなく別世界へ来たような気分だ。
人並みを避けて歩くのも、しばらくの長野暮らしで下手になっているような気がする。
時間の流れがこんなに忙しなかったっけと感じるような有様だ。
山本くんとは、八重洲口で待ち合わせをしていた。なんとか人を避けつつたどり着くと、山本くんはすぐに見つかった。
長身で派手な顔立ちだから、目立っている。「ねえ、あの人芸能人かな?」としきりに囁き合う高校生が私の横を通り過ぎていった。
——もしかしてこれ、私の彼氏というにはあまりに派手すぎるのでは?
今更ながらにそんな思いも湧いてくるけれど、ここまで来てくれたのにやっぱりいいですというわけにもいかない。
私は人待ち顔で立ち尽くす山本くんに手を振った。
「お待たせ、今日はわざわざありがとう」
「ん。お前も大変だな、あずみ。じゃあ行くか」
そう言って山本くんは歩き出す。足が長いけれど、歩幅は私の歩くスピードに合わせてくれていた。こういうところ、気がきくんだよなぁ。
大学時代は女慣れしてるが故の仕草だと思っていたそれは、親しく話すようになった今、純粋に他人に対して思いやりがある故の行動なのだとわかった。
私たちは、「人」とは少し違うところがある。
例えば山本くんは、一般的な成人男性と比べても力がものすごく強い。だからこそ色んなことに気をつけなければ、人を傷つけてしまう。
それは、私のような特殊な「視る力」を持った人間にとっても、学ぶべき美点だった。
駅を乗り継いで、懐かしい街並みを歩いていく。
なんの変哲もない、下町。そこにあるマンションが、私の生まれ育った場所だった。
「へぇ。あずみってこの辺出身だったんだな」
「うん。生まれた時から下町生まれ下町育ち」
「ああ、なんか納得」
「ええ。そう言われるとなんか複雑な気分なんだけど」
「悪い意味じゃねぇよ。お前、大学時代から俺のこと特別扱いしなかったじゃん。なんかいつもボケーっとしてて、能天気でさ」
悪い意味にしか聞こえない軽口を叩いている。
「どーいう意味よ、それ」
「俺みたいなイケメンだと何かと苦労するんだよ。お前はその点、俺を特別扱いしなくてなんか楽だった」
私は当時山本くんのことを誤解していたから苦手に思っていたけれど、そういえば山本くんは「あずみー、あずみー」と、何かにつけて私にかまってきていたっけ。
確かに日本人離れした顔立ちで、いつも人に囲まれている山本くんは、日差しのことを抜きにしても疲れていそうな様子だったように思う。
「正直私、事故死体の幽霊とかしょっちゅう見てるから、生きてる人間の美醜にこだわる余裕なかったんだよね」
これは事実だ。正直美醜よりも生きているかどうかの方がよほど大事だった。うっかり見た目が生者に近い幽霊だと、ぶつかりそうになった時に「あ、すみません」とか謝ってしまったりする。はたから見れば何もないところに謝るへんな人だし、「視える」と幽霊に気づかれれば取り憑かれたりする。
イケメンがどうとか、美人がこうとか、それどころじゃなかったのだ。
「何? 俺事故死体と比べられてたの? きちぃー」
そう言いながらも、山本くんは楽しそうに笑っていた。
このくらい、普通のことみたいに視えることを話せると良いんだけどな。家族とも。
それが難しいのは自分でもよくわかってはいるけれど、そう思わずにはいられなかった。
ピンポーン。
実家にたどり着き、なんとなくチャイムを鳴らしてしまう。鍵は持っているけれど、それで入るのは躊躇われた。
ガチャリ、と扉が開き、お母さんが出てきた。
「いらっしゃい、あずみ。よく来たわね。それから彼氏さんも、どうも」
あ、よそ行きの笑顔だ。お母さんはよく、私が変なことを言うたびにこの笑顔で周囲に会釈して誤魔化していた。
母なりの、世間に対する自衛の笑顔。
「ただいまー。あとでちゃんと紹介するね、私の彼氏、山本翔吾くん」
母のその笑顔に対して、私もよそ行きの顔で返す。多分そうすることを母は望んでいるだろうから。
微妙に気まずいギクシャクとした雰囲気の中、私は数年ぶりに実家のリビングへ足を踏み入れた。
「久しぶりだな、あずみ。よく帰ってきたな」
特によく帰ってきたとは思っていなさそうな顔で、父がそう言う。
なんだかさっきから「家族」と題された下手くそな芝居を演じているような気分だ。
けれど、そんな私のうんざりした気持ちは、リビングの宙に浮いている存在によってあっさりと打ち砕かれた。
(うわぁ、やっぱり居る。ニヤニヤしながら宙に浮いている。おじいちゃんとおばあちゃんだ)
お盆だからもしかしたらいるかな、と思ったけれど、やっぱりいた。
なるべくそちらの方を見ないようにしながら、山本くんに合図をする。山本くんも視えているようで、小さく頷いた。
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うっかり反応してしまえば母がまた動揺するに違いない。私は細心の注意を払って何も反応しないように努めた。
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