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4月
2−2初めての会話
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入学から三週間が経過したある日、新堂とマリは竜崎に雑用を頼まれていた。
「新堂くん。で、これどうしたらいい?」
マリが新堂を見上げる。茶色がかった瞳に覗き込まれ、新堂はドクン、と自分の胸が弾む音を聞いた。
「一二種類一枚ずつを綴じて四〇部作るって」
「わかった。まずは一二枚ずつセットにしようか」
「そうだな。で、最後にまとめて綴じよう」
「うん」
手順を確認し、新堂がプリントに手を伸ばした。その間にクラスメイトたちはゾロゾロと教室から出て帰宅していく。
「マリ、俺もやるよ!」
ユージがマリの元へやってきて、にこりと白い歯を見せ笑みを向けた。
「いい。先に帰ってて。トモたちは?」
「トモは彼女とデートで、ユアとさくらは部活~。俺暇だからさ、さっさと終わらせてどっか行こ?」
マリの手を取り、ユージが首を軽く傾けた。マリはすぐにその手を振り払う。
「今日は私もこれが終わったら寄り道しないで帰るから。先帰りなよ」
「え~マリも用事あるの~? 俺、寂しいなぁ」
ユージがいることによって、一気にこの場の異物のようになった自分の立場にいたたまれず、新堂はふたりに話しかけた。
「急いでいるなら俺がやっておくからいいよ」
その言葉に、ユージが目を輝かせる。
「え、いいの? 新堂くんだっけ? ありがとう! マリ、寄り道しなくていいから一緒に帰ろ?」
「竜崎先生にやるって言ったからサボりたくない。そういうの嫌なのわかってるよね? 今日は先に帰って」
そう言ってマリは不機嫌そうに口元を一文字に結んだ。ユージはまるで親に怒られた小さな子供のような顔をしている。
「……わかった。ごめん。明日ね」
「うん。じゃあね」
ユージが教室から出ていく。新堂とすれ違う瞬間、彼からの視線を感じた。実はユージとは入学以来何度も目が合っていた。
新堂がマリに視線を向けると、必ずと言っていいほどユージと視線が交わった。いつもは警戒心を帯びていた視線に、今日は嫉妬も混ざっている。
「手強そうだな」
声にもならない小さな声で、新堂がつぶやいた。何も聞こえていないマリが彼に話しかける。
「ごめんね新堂くん。作業始められなくて」
「いいよ、急いでいるわけじゃないし。俺も変に口出してごめん。マリさんは用事あるんだよね? 急ごうか」
新堂がマリに返事をすると、彼女はフッと息を漏らした。
「マリさんって……」
「いや、俺が新堂くんなら、マリさんかなって思うだろ」
新堂はマリに背を向けてプリントを並べ始めた。ほんの少し、目を細めた彼女を直視できなかった。自分の耳が熱くなるのを感じる。
「じゃあ新堂って言うから、マリって呼んでよ。さんは変な感じがするから」
新堂の事情には気づかず、並べられたプリントを一枚ずつ重ねながらマリが唇をわずかに尖らせた。また彼女の新たな表情を知ってしまった。新堂は静かに深呼吸をして冷静になろうと必死になった。大した返事はできない。
「ああ、わかった」
しかし、思いがけないチャンスに欲は出る。
「じゃあ……マリ」
「なに?」
返事をしてマリが新堂を覗き込む。彼は慌てて顔を逸らした。先ほどの耳に加えて頬も熱い。
「ただの練習」
「何それ。じゃあ私も、新堂」
再び新堂を覗き込むマリ。ほんの少し口角が上がり、微笑程度だが笑っている。新堂はさらに首まで熱くなるのを感じた。
「……はい」
絞り出すのが精一杯だ。新堂は雑用を押し付けてきた竜崎様への感謝が止まらなかった。
「新堂くん。で、これどうしたらいい?」
マリが新堂を見上げる。茶色がかった瞳に覗き込まれ、新堂はドクン、と自分の胸が弾む音を聞いた。
「一二種類一枚ずつを綴じて四〇部作るって」
「わかった。まずは一二枚ずつセットにしようか」
「そうだな。で、最後にまとめて綴じよう」
「うん」
手順を確認し、新堂がプリントに手を伸ばした。その間にクラスメイトたちはゾロゾロと教室から出て帰宅していく。
「マリ、俺もやるよ!」
ユージがマリの元へやってきて、にこりと白い歯を見せ笑みを向けた。
「いい。先に帰ってて。トモたちは?」
「トモは彼女とデートで、ユアとさくらは部活~。俺暇だからさ、さっさと終わらせてどっか行こ?」
マリの手を取り、ユージが首を軽く傾けた。マリはすぐにその手を振り払う。
「今日は私もこれが終わったら寄り道しないで帰るから。先帰りなよ」
「え~マリも用事あるの~? 俺、寂しいなぁ」
ユージがいることによって、一気にこの場の異物のようになった自分の立場にいたたまれず、新堂はふたりに話しかけた。
「急いでいるなら俺がやっておくからいいよ」
その言葉に、ユージが目を輝かせる。
「え、いいの? 新堂くんだっけ? ありがとう! マリ、寄り道しなくていいから一緒に帰ろ?」
「竜崎先生にやるって言ったからサボりたくない。そういうの嫌なのわかってるよね? 今日は先に帰って」
そう言ってマリは不機嫌そうに口元を一文字に結んだ。ユージはまるで親に怒られた小さな子供のような顔をしている。
「……わかった。ごめん。明日ね」
「うん。じゃあね」
ユージが教室から出ていく。新堂とすれ違う瞬間、彼からの視線を感じた。実はユージとは入学以来何度も目が合っていた。
新堂がマリに視線を向けると、必ずと言っていいほどユージと視線が交わった。いつもは警戒心を帯びていた視線に、今日は嫉妬も混ざっている。
「手強そうだな」
声にもならない小さな声で、新堂がつぶやいた。何も聞こえていないマリが彼に話しかける。
「ごめんね新堂くん。作業始められなくて」
「いいよ、急いでいるわけじゃないし。俺も変に口出してごめん。マリさんは用事あるんだよね? 急ごうか」
新堂がマリに返事をすると、彼女はフッと息を漏らした。
「マリさんって……」
「いや、俺が新堂くんなら、マリさんかなって思うだろ」
新堂はマリに背を向けてプリントを並べ始めた。ほんの少し、目を細めた彼女を直視できなかった。自分の耳が熱くなるのを感じる。
「じゃあ新堂って言うから、マリって呼んでよ。さんは変な感じがするから」
新堂の事情には気づかず、並べられたプリントを一枚ずつ重ねながらマリが唇をわずかに尖らせた。また彼女の新たな表情を知ってしまった。新堂は静かに深呼吸をして冷静になろうと必死になった。大した返事はできない。
「ああ、わかった」
しかし、思いがけないチャンスに欲は出る。
「じゃあ……マリ」
「なに?」
返事をしてマリが新堂を覗き込む。彼は慌てて顔を逸らした。先ほどの耳に加えて頬も熱い。
「ただの練習」
「何それ。じゃあ私も、新堂」
再び新堂を覗き込むマリ。ほんの少し口角が上がり、微笑程度だが笑っている。新堂はさらに首まで熱くなるのを感じた。
「……はい」
絞り出すのが精一杯だ。新堂は雑用を押し付けてきた竜崎様への感謝が止まらなかった。
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