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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
30、王都の夜1
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「さてと。これでいいかしら」
「ああ、疲れた! 美女に癒されたい! 娼館とかあるんすかね?」
「黙れ、クソジョージ」
オリビアはリタが壁に掛けてくれた姿見に手をかざした。姿見が光り、横にスライドしたのち何の変哲もない姿見に戻る。
それはクリスタル家のオリビアの部屋では時折見られる普通の光景だったが、これからしばらくは王都での出来事となる。
貴族学院入学まで一週間。寮のオリビアの部屋では荷解きが完了したところだった。
「引越し完了! ふたりともとも、お疲れ様。今日は王都の店で夕食にしましょうか」
「いいねえ! かわいい看板娘のいる店探しましょう」
「料理が美味しく、見目麗しいどこか儚げなマスターがいる店を探しましょう」
「あら、それだったらまずは逞しい肉体を持つ……例えば騎士団の皆さんが行きつけのお店なんてどうかしら?」
オリビアは全く意見の合わない部下二人と顔を見合わせ、小さく頷いた。店選びにおいて、三人の間では身分の違いがなくなる。
「オリビア様。本日は王都引越し後初の食事となりますが、よろしいのでしょうか?」
「もちろん。いつも通りにしましょう」
「そうこなくっちゃ。さすがお嬢様」
揃って利き手を握り、拳を作った。一度軽く反動をつけ、一気に目の前に突き出す。
「「最初はグー! ジャンケンポン!!」」
一人の拳が歓喜に震えている。そして敗者となった四本の指は力無く崩れ落ちていった。
「ええ~絶対勝てると思ったのに!」
「看板娘のかわい子ちゃんが……」
「決まりですね」
リタががっくりと肩を落とすオリビアとジョージを交互に見て、にっこりと微笑んだ。
こうして街へ出て店を探し始めたオリビア一行。
「ねえ、リタ。さすがにそろそろ決めましょうよ」
「申し訳ございません。どうかあと一軒だけお付き合いいただけないでしょうか?」
「いつまで選んでんだよ、もうさっきの店で良くない? そこそこイケてる兄ちゃんだったじゃん。俺には劣るけど?」
最初は周りを見ながら都会を楽しんでいたオリビアとジョージは、だらしなく背中を曲げ駄々をこね始める。リタはオリビアに恐縮しつつも、ジョージには冷たい視線で一蹴した。
「うるさい、クソジョージ」
「わ、わかったわ、リタ。今日はあなたに従うわよ」
「ありがとうございます!」
すでに五軒の店を見たがリタのお眼鏡には敵わない状況だった。そろそろ王都の中心部からも離れてきている。
日中の引越しで体力を使っていたオリビアは、そろそろ限界だったが、リタの「見目麗しいどこか儚げなマスターがいる店」探しにとことん付き合うことを決めた。ジョージも観念したのかため息をつきつつ、二人についてきている。
「あら、今からオープンのお店もあるのね」
「本当ですね。飲み屋でしょうか?」
「キャバクラ行きたいっすね~」
オリビアはリタと共にジョージのことを完全に無視し、前方で誰かが店の看板に明かりを灯そうとする様子を眺めながら会話していた。
距離が遠く、男性か女性かもわからない。少しくすんだ、おそらく灰色の髪が明かりを灯した照らされ鈍い光を放つ。
その人物が店内に戻ろうとした時、店の前まで歩みを進めていたオリビアと目が合った。
「ここは飲み屋なのかしら?」
「いえ、お酒も出しますが一応食堂です」
「あなたの店? もうオープンしているの?」
「はい。私の店です。良かったら寄って行かれませんか?」
彼は首を少し傾け、美しい顔を崩さない程度に微笑んだ。身長はリタと同じくらいで男性にしては少し低い。
華奢で透き通るような白い肌はどこか儚げだった。さらに髪の毛と同じ灰色の瞳は鮮やかさはないが、何色にも染まらずミステリアスな印象だ。
リタに至っては先程からうっとりと彼を見つめながら言葉が出ない状態だった。その様子を見て、オリビアが口角を上げる。
「リタ、ジョージ。ここに決まりね」
「へいへい」
「は、はいっ!」
「ありがとうございます! どうぞこちらへ」
オリビアは「見目麗しいどこか儚げなマスター」に案内され、リタとジョージと共に店内へ入っていった。
>>続く
「ああ、疲れた! 美女に癒されたい! 娼館とかあるんすかね?」
「黙れ、クソジョージ」
オリビアはリタが壁に掛けてくれた姿見に手をかざした。姿見が光り、横にスライドしたのち何の変哲もない姿見に戻る。
それはクリスタル家のオリビアの部屋では時折見られる普通の光景だったが、これからしばらくは王都での出来事となる。
貴族学院入学まで一週間。寮のオリビアの部屋では荷解きが完了したところだった。
「引越し完了! ふたりともとも、お疲れ様。今日は王都の店で夕食にしましょうか」
「いいねえ! かわいい看板娘のいる店探しましょう」
「料理が美味しく、見目麗しいどこか儚げなマスターがいる店を探しましょう」
「あら、それだったらまずは逞しい肉体を持つ……例えば騎士団の皆さんが行きつけのお店なんてどうかしら?」
オリビアは全く意見の合わない部下二人と顔を見合わせ、小さく頷いた。店選びにおいて、三人の間では身分の違いがなくなる。
「オリビア様。本日は王都引越し後初の食事となりますが、よろしいのでしょうか?」
「もちろん。いつも通りにしましょう」
「そうこなくっちゃ。さすがお嬢様」
揃って利き手を握り、拳を作った。一度軽く反動をつけ、一気に目の前に突き出す。
「「最初はグー! ジャンケンポン!!」」
一人の拳が歓喜に震えている。そして敗者となった四本の指は力無く崩れ落ちていった。
「ええ~絶対勝てると思ったのに!」
「看板娘のかわい子ちゃんが……」
「決まりですね」
リタががっくりと肩を落とすオリビアとジョージを交互に見て、にっこりと微笑んだ。
こうして街へ出て店を探し始めたオリビア一行。
「ねえ、リタ。さすがにそろそろ決めましょうよ」
「申し訳ございません。どうかあと一軒だけお付き合いいただけないでしょうか?」
「いつまで選んでんだよ、もうさっきの店で良くない? そこそこイケてる兄ちゃんだったじゃん。俺には劣るけど?」
最初は周りを見ながら都会を楽しんでいたオリビアとジョージは、だらしなく背中を曲げ駄々をこね始める。リタはオリビアに恐縮しつつも、ジョージには冷たい視線で一蹴した。
「うるさい、クソジョージ」
「わ、わかったわ、リタ。今日はあなたに従うわよ」
「ありがとうございます!」
すでに五軒の店を見たがリタのお眼鏡には敵わない状況だった。そろそろ王都の中心部からも離れてきている。
日中の引越しで体力を使っていたオリビアは、そろそろ限界だったが、リタの「見目麗しいどこか儚げなマスターがいる店」探しにとことん付き合うことを決めた。ジョージも観念したのかため息をつきつつ、二人についてきている。
「あら、今からオープンのお店もあるのね」
「本当ですね。飲み屋でしょうか?」
「キャバクラ行きたいっすね~」
オリビアはリタと共にジョージのことを完全に無視し、前方で誰かが店の看板に明かりを灯そうとする様子を眺めながら会話していた。
距離が遠く、男性か女性かもわからない。少しくすんだ、おそらく灰色の髪が明かりを灯した照らされ鈍い光を放つ。
その人物が店内に戻ろうとした時、店の前まで歩みを進めていたオリビアと目が合った。
「ここは飲み屋なのかしら?」
「いえ、お酒も出しますが一応食堂です」
「あなたの店? もうオープンしているの?」
「はい。私の店です。良かったら寄って行かれませんか?」
彼は首を少し傾け、美しい顔を崩さない程度に微笑んだ。身長はリタと同じくらいで男性にしては少し低い。
華奢で透き通るような白い肌はどこか儚げだった。さらに髪の毛と同じ灰色の瞳は鮮やかさはないが、何色にも染まらずミステリアスな印象だ。
リタに至っては先程からうっとりと彼を見つめながら言葉が出ない状態だった。その様子を見て、オリビアが口角を上げる。
「リタ、ジョージ。ここに決まりね」
「へいへい」
「は、はいっ!」
「ありがとうございます! どうぞこちらへ」
オリビアは「見目麗しいどこか儚げなマスター」に案内され、リタとジョージと共に店内へ入っていった。
>>続く
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