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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
66、名探偵オリビア2
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オリビアには「秘密」がある。ごく限られた信頼のできる人間しか知らない「秘密」が。それを彼は知っているというのだろうか?
一気に疑心暗鬼になり、オリビアは口を一文字に結び警戒の表情を浮かべる。
ふと教室の入り口に立っている護衛のジョージを見ると、彼もまたいつもの軟派な薄ら笑いではなく、厳しい目つきでシルベスタを警戒していた。
すると、オリビアの警戒と殺気にも近いジョージの眼差しに気付いたのか、シルベスタが両手を軽く上げ降参のようなポーズをとった。眉は下がり、困ったような顔でオリビアを見つめている。
「ああ、言い方が悪かった。すまない。その、秘密というのはリアム・アレキサンドライトのことだよ」
「え? リアム様……ですか?」
オリビアは何度も瞬きをしながら結んでいた口をポカンと開き、一部裏返った間の抜けた声で返事をした。
先日レオンと舌戦を繰り広げたときよりずっと気を張っていたいたので、シルベスタの答えがあまりにも拍子抜けだったのだ。
全身の緊張が一気に緩み、立っているのもやっとなくらい体の力が抜けた。
「そうだ。リアム・アレキサンドライト公爵家次男。君は彼の婚約者になるんだろう? 騎士団時代の私の部下なんだ。今でも慕ってくれていて、先日このお土産の服と共に報告に来てくれてね。君をよろしく頼むと言われたよ」
「そ、そうでしたか……」
腑抜けた声で、オリビアは何の気もきいていない言葉を呟いた。
そういえばリアムと自分が経営するカフェ『バルク』に行った。気付かぬうちに彼がTシャツを買ったのだろう。
オーナーの連れであればスタッフもおそらく購入拒否はしない。オリビアは全てに納得がいき、安堵の表情を浮かべた。
「ああ、リアムは騎士団員としても優秀で部隊の隊長として部下からの信頼も厚い。筆頭公爵家の人間なのに奢ることもなく真面目で誠実な人間だ。それに色男だしね。君は見る目がある。発表を楽しみにしているよ」
シルベスタが再び白い歯を見せて微笑んだ。白い歯に白いTシャツと袖から覗く彫刻のような素晴らしい筋肉が彼の爽やかさを演出していた。
オリビアは満面の笑みで「はい!」と元気よく頷いた。
シルベスタの問題が解決し、オリビアはジョージと並んでAクラスの教室へ戻るべく廊下を歩いていた。授業が終わり昼休みに入ったので立ち話をしていたり、食堂へ向かって歩いている生徒たちをぼんやりと眺め、次に視線を廊下の窓の外へ移す。
「あ……」
「どうしたんですか?」
視線の先には、クラブ棟があった。
ジョージが突然立ち止まった主人の顔を覗き込んだ。オリビアはジョージに視線を合わせ、彼の手を握りしめた。
「ねえジョージ、クラブ教室の鍵は持っている?」
「あ、それならここにありますけど」
ジョージが制服の内ポケットからレオンにもらった古びた鍵を出した。
「ナイス! じゃあお昼はクラブ教室でとりましょう!」
「え、食いもんなんてないですよ。食堂じゃだめですか?」
オリビアはクラブ棟に向かおうと歩き出すと、ジョージが顔をしかめ頭を掻き廊下の壁に体を預け、明らかに面倒だと全身で表現していた。
しかしオリビアは気に留めることなく、スタスタと歩いて校舎の出口を目指した。
「うーん、いい天気。さあ、行きましょう」
「ええー。せっかくの食堂の豪華ランチが……。かわい子ちゃんたちも俺を待っていただろうに」
「ジョージ。あなたのそのブレない女好き、いっそ清々しいわね」
「別に嬉しくありませんよ」
ジョージがため息をついて歩き始めた。
校舎を出るとオリビアは両手を上げ背伸びをして外の爽やかな空気を吸い込んだ。
薄青色の空の高い位置に太陽が輝き、明るいものはより明るく、影はより黒く濃くそれぞれ際立っていた。オリビアの美しい銀髪も輝きを増し、絹糸のような滑らかさを物語っている。
今日はいつもよりすれ違う生徒の視線を感じた。リタがおらず自分でなんとなく髪留めを使っているので髪型が若干崩れているせいか思い、オリビアはジョージに小声で話しかけた。
「ねえジョージ、私の髪型、そんなにおかしいかしら? さっきからすれ違う人の視線が痛いわ。こんなの見つかったらリタにお説教されちゃう」
「そういう意味の視線じゃないと思いますけど、まあ崩れてますね」
護衛のはずのジョージが体の力を抜きながら、気怠そうに答えてオリビアの隣を歩いていた。校内なので安全なはずだが、何かあった時すぐに対応できるのかとオリビアは訝しげに思った。
彼の返事の半分は意味がよくわからなかったが、夕方帰宅する予定のリタの説教の方が恐ろしかったので深くは追求しなかった。
「クラブ教室に着いたらこの髪を直してくれる?」
「しょうがないですねえ。今期はボーナス弾んでくださいよ」
「わかったわよ!」
「話のわかるご主人様だ、お嬢様は」
>>続く
一気に疑心暗鬼になり、オリビアは口を一文字に結び警戒の表情を浮かべる。
ふと教室の入り口に立っている護衛のジョージを見ると、彼もまたいつもの軟派な薄ら笑いではなく、厳しい目つきでシルベスタを警戒していた。
すると、オリビアの警戒と殺気にも近いジョージの眼差しに気付いたのか、シルベスタが両手を軽く上げ降参のようなポーズをとった。眉は下がり、困ったような顔でオリビアを見つめている。
「ああ、言い方が悪かった。すまない。その、秘密というのはリアム・アレキサンドライトのことだよ」
「え? リアム様……ですか?」
オリビアは何度も瞬きをしながら結んでいた口をポカンと開き、一部裏返った間の抜けた声で返事をした。
先日レオンと舌戦を繰り広げたときよりずっと気を張っていたいたので、シルベスタの答えがあまりにも拍子抜けだったのだ。
全身の緊張が一気に緩み、立っているのもやっとなくらい体の力が抜けた。
「そうだ。リアム・アレキサンドライト公爵家次男。君は彼の婚約者になるんだろう? 騎士団時代の私の部下なんだ。今でも慕ってくれていて、先日このお土産の服と共に報告に来てくれてね。君をよろしく頼むと言われたよ」
「そ、そうでしたか……」
腑抜けた声で、オリビアは何の気もきいていない言葉を呟いた。
そういえばリアムと自分が経営するカフェ『バルク』に行った。気付かぬうちに彼がTシャツを買ったのだろう。
オーナーの連れであればスタッフもおそらく購入拒否はしない。オリビアは全てに納得がいき、安堵の表情を浮かべた。
「ああ、リアムは騎士団員としても優秀で部隊の隊長として部下からの信頼も厚い。筆頭公爵家の人間なのに奢ることもなく真面目で誠実な人間だ。それに色男だしね。君は見る目がある。発表を楽しみにしているよ」
シルベスタが再び白い歯を見せて微笑んだ。白い歯に白いTシャツと袖から覗く彫刻のような素晴らしい筋肉が彼の爽やかさを演出していた。
オリビアは満面の笑みで「はい!」と元気よく頷いた。
シルベスタの問題が解決し、オリビアはジョージと並んでAクラスの教室へ戻るべく廊下を歩いていた。授業が終わり昼休みに入ったので立ち話をしていたり、食堂へ向かって歩いている生徒たちをぼんやりと眺め、次に視線を廊下の窓の外へ移す。
「あ……」
「どうしたんですか?」
視線の先には、クラブ棟があった。
ジョージが突然立ち止まった主人の顔を覗き込んだ。オリビアはジョージに視線を合わせ、彼の手を握りしめた。
「ねえジョージ、クラブ教室の鍵は持っている?」
「あ、それならここにありますけど」
ジョージが制服の内ポケットからレオンにもらった古びた鍵を出した。
「ナイス! じゃあお昼はクラブ教室でとりましょう!」
「え、食いもんなんてないですよ。食堂じゃだめですか?」
オリビアはクラブ棟に向かおうと歩き出すと、ジョージが顔をしかめ頭を掻き廊下の壁に体を預け、明らかに面倒だと全身で表現していた。
しかしオリビアは気に留めることなく、スタスタと歩いて校舎の出口を目指した。
「うーん、いい天気。さあ、行きましょう」
「ええー。せっかくの食堂の豪華ランチが……。かわい子ちゃんたちも俺を待っていただろうに」
「ジョージ。あなたのそのブレない女好き、いっそ清々しいわね」
「別に嬉しくありませんよ」
ジョージがため息をついて歩き始めた。
校舎を出るとオリビアは両手を上げ背伸びをして外の爽やかな空気を吸い込んだ。
薄青色の空の高い位置に太陽が輝き、明るいものはより明るく、影はより黒く濃くそれぞれ際立っていた。オリビアの美しい銀髪も輝きを増し、絹糸のような滑らかさを物語っている。
今日はいつもよりすれ違う生徒の視線を感じた。リタがおらず自分でなんとなく髪留めを使っているので髪型が若干崩れているせいか思い、オリビアはジョージに小声で話しかけた。
「ねえジョージ、私の髪型、そんなにおかしいかしら? さっきからすれ違う人の視線が痛いわ。こんなの見つかったらリタにお説教されちゃう」
「そういう意味の視線じゃないと思いますけど、まあ崩れてますね」
護衛のはずのジョージが体の力を抜きながら、気怠そうに答えてオリビアの隣を歩いていた。校内なので安全なはずだが、何かあった時すぐに対応できるのかとオリビアは訝しげに思った。
彼の返事の半分は意味がよくわからなかったが、夕方帰宅する予定のリタの説教の方が恐ろしかったので深くは追求しなかった。
「クラブ教室に着いたらこの髪を直してくれる?」
「しょうがないですねえ。今期はボーナス弾んでくださいよ」
「わかったわよ!」
「話のわかるご主人様だ、お嬢様は」
>>続く
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