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第三章 アレキサンドライト領にて
92、デートが始まる3
しおりを挟む一方その頃、アレキサンドライト家で夕食を終えたオリビアは、ゲストルームに戻ろうとしていた。
「オリビア嬢、部屋まで送ろう」
「はい。ありがとうございます、リアム様」
「リアム兄様、オリビア義姉様! ちょっと待って~」
オリビアがリアムに挨拶し、食堂前まで迎えに来ていたリタと歩き出そうとしたとき、背後から自分を引き止める声が聞こえた。振り向くとそこにいたのはリアムの弟、サイラスだった。
「サイラス、どうした?」
「明日なんだけど、僕も同じ馬車で王都に行っていいかな?」
予想外のサイラスの言葉に、オリビアはリアムと顔を見合わせた。王都に用でもあるのだろうか。
なんにせよこの家に招待されているだけの自分には決定権はないので、オリビアは、お好きにどうぞの意思を伝えるべく控えめに笑みを浮かべた。
「お願い! 王都にある友達の家に遊びにいきたいんだ。ね、いいでしょ兄様?」
「しかたないな……。オリビア嬢、いいだろうか?」
「もちろんですわ。ご一緒しましょう、サイラス様」
大きく息を吐いたあと、リアムが申し訳なさそうにオリビアに問いかけた。もちろんそれには優しい笑顔で答える。
すると、サイラスは「やった!」と肩を弾ませ、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! それじゃあみんな、また明日。おやすみなさい!」
「おやすみなさい、サイラス様」
サイラスが手を振りながら小走りで去っていく。彼の無邪気な笑顔を見ていると自然とこちらも笑顔になる。
歳はほぼ変わらないが、オリビアはサイラスをまるで幼子を見かけたときに近い感情でかわいいと思った。
「全く遠慮を知らないヤツだ。オリビア嬢、ありがとう」
「いいえ。お気になさらないでください。帰りは賑やかになりますね」
「少しうるさいくらいかもしれないな。サイラスはオリビア嬢のことを気に入ったようだ」
「まあ、嬉しいですわ」
「初日でここまで打ち解けるなんて、妬けてしまうな」
「リアム様……」
オリビアは慌ててリアムを見上げる。拗ねた言葉とは裏腹に、彼は優しい笑みを浮かべていた。わずかに下がった眉がほんの少しの寂しさを表現している。が、それもすぐに明るさを取り戻した。
「……冗談だ。安心してくれ。それじゃ一旦外出の準備をして迎えに来るよ。外に出るから暖かい格好で待っていて」
「はい。楽しみにしています」
リアムと笑顔を交わし、オリビアは部屋に戻った。リタが大急ぎでオリビアの髪を結い直し、ショールと帽子を用意した。間も無くして、ドアをノックする音が聞こえた。
「オリビア様、きっとリアム様ですわ。どうぞ楽しんできてくださいませ」
「ありがとう、リタ」
リタが仕上げにオリビアと同じ薄紫の宝石でできたブローチでショールをとめ、笑顔でドアを開けに早歩きをする。
開いたドアの先には、ランプを持ったリアムが立っていた。
「オリビア嬢、行こうか」
「はい」
返事をする声が若干上擦った。アレキサンドライト家との初対面とはまた違う緊張感だ。
オリビアは胸の高鳴りを携えて、リアムの立つ部屋の入り口に歩いていった。
>>続く
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