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第五章 交差する陰謀

126、ジョージの密会1

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 一方、オリビアを待ち合わせの広場まで連れていき、彼女を恋人に引き渡したジョージはそのまま繁華街に向かって歩き出した。まだ準備中の札がかかった飲み屋の前を何軒も素通りし、繁華街の端までやってきた。

 そして、一軒の宿屋の前で足を止める。

「ここかあ」

 宿屋の中に入ると、カウンターに立つ無愛想な年配の女性が声をかけてきた。彼女の声は少し掠れていて言い捨てるように言葉を放つので、ジョージは思わず苦笑した。

「あんた、宿泊かい?」

「いや、俺は……」

「ジョージ!」

 言いかけたところで、客室につながる階段から自分の名を呼ぶ声が聞こえ、ジョージは視線をやや上方に移した。

「オリーブ姐さん」

「おばちゃん、この人はあたしのツレなんだ」

 階段を降りてジョージの隣に並んだオリーブがカウンターの女性にそう言って腕を絡めてきた。女性はオリーブに向かって頷くと、今度はジョージを見上げる。

 オリーブに肘で脇腹を小突かれ意味を理解したジョージは、ポケットから紙幣を取り出し女性に渡した。彼女は目にも止まらぬ早さでそれをむしり取ると、黄ばんだ歯を見せニヤリと笑みを浮かべた。

「……ごゆっくり」

 ジョージはそのままオリーブに引っ張られながら階段を登り彼女が宿泊する部屋に入っていった。

「悪いねえジョージ、こんなところで。けどここはこうやって何の詮索もなく後腐れもない都合のいい宿なのさ」

「俺は気にしないさ。なんで姐さんがこんなところを知っているのかは聞かないよ」

「いい心がけだ」

 オリーブが口角を上げ含み笑いをした。外観の怪しさのわりに、客室の中は清潔だったことに驚き、ジョージはしばし室内を見渡す。

「思ったよりキレイですしね」

「ああ、いろんな身分の人間が利用するからね。最低限の品質は必要なのさ」

「なるほど。これ以上は話さない方が良さそうだ」

 オリーブが静かに頷いた。

 それから程なくして彼女が淹れてくれた紅茶を飲むために、ジョージは室内の椅子に腰を下ろした。カップに口をつけ一口飲んだところで、オリーブの視線が真っ直ぐに突き刺さった。

「ジョージ。ハイランドシープの取扱店がわかったよ」

「本当っすか? さすがオリーブ姐さん、仕事が早いや」

「おだてても何も出ないよ。結構な大物が出てきたから、心して聞きな」

「はい……」

 オリーブの顔から笑みが消えた。ジョージは話の深刻さに身構えるかのように一度背筋を伸ばし姿勢を正す。

「ハイランドシープだけど、希少価値が高く現在取り扱っている店はジュエリトスに一店舗しかないんだ。その店を経営しているのが……ラピスラズリ侯爵家だった」

「ラピスラズリ侯爵家?」

「ああ、クリスタル出身の人間はあまり名前は聞かないだろう。領地も離れているし、交流もないからね」

「確かに、ラピスラズリが侯爵家というのは知ってますが……領地がどこにあるのかもいまいちっすね」

 ジョージはそう言って首を捻った。ラピスラズリ家の人間は学院にもいなかったため、知る機会がなかったのだ。オリーブがふうと息を吐き、話を続けた。

「ラピスラズリ家は純血主義だから、異国との交流や混血の多いクリスタル領には近づかないのさ。もちろん議会でもそれなりの地位にいるから、王都では高級ブティックや化粧品店を経営しているよ」

「なーんか、嫌な感じですね。けど、異国との交流は嫌なのにマルズワルトのハイランドシープは扱ってるんですか?」

「そうなんだ、それがおかしいんだよ」

 オリーブがジョージの疑問に目を見開き人差し指を前に出した。よほどいい質問だったようだ。彼女は紅茶を飲んで再び口を開いた。

「実は、ラピスラズリ家は直接マルズワルトと取引しているわけじゃないんだ」

「え、それってどういうことっすか?」

「ラピスラズリ家はジュエリトスの別な貴族からハイランドシープを買っているのさ」

「一体どこから……」

 ジョージはゴクリと喉を鳴らし、オリーブの返事を待った。

>>続く
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