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第六章 事件発生

154、帰ってきたリタ2

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 二十三時。貴族学院女子寮、オリビアの部屋。
 バン! と大きな音とともに入り口のドアが開く。

 リアムに身を預けたまま、いつのまにかうたた寝をしていたオリビアは音に反応して目を開いた。

「お嬢様、戻りましたよ」

「オリビア嬢、ジョージが戻ったぞ!」

「ジョージ!」

 恋人に促されドアに注目する。オリビアは跳ねるように立ち上がり、入り口に立っているジョージに駆け寄った。主人との約束を守った彼は、リタを背負っている。

「……約束、守りましたよ」

「リタ! ありがとう、ジョージ!」

「ジョージ、疲れただろう。リタをこちらへ」

「ありがとうございます」

「リアム様、それではリタは私のベッドに寝かせてください」

 リアムがリタを抱きかかえ、オリビアのベッドに寝かせる。

「ジョージ、リタはどこに? けがをしているみたいだし……」

「エルの店の前で倒れていたそうです。彼が手当てをして、今は眠っています」

「そうだったの……」

 オリビアはリタの髪をそっと撫でた。彼女が無事だとわかっていても、目が覚めるまで心の底からは安心できない。
 そんな気持ちを察したのか、リアムが背中に手を添え静かに微笑む。

「オリビア嬢、私の回復魔法に任せてくれないか?」

「リアム様……お願いいたします」

 リアムの申し出にオリビアは一歩後ろに下がってリタから離れ、彼に深々と頭を下げた。
 後頭部の部分にふわりと何かが触れる感触がして顔を上げると、リアムが柔らかな笑みを浮かべ一度頷いた。そして、彼はリタの額に手を乗せ魔力を解放する。

 その様子を見ながら、オリビアは祈るように呟いた。

「リタ……」

 リアムの手が触れているところから広がっていくように、リタの体が白い光に包まれる。

 数分後、光は消えリアムが振り向きオリビアの肩をそっと叩いた。

「オリビア嬢、終わったぞ。もう大丈夫だ」

「リタっ」

 リアムと入れ替わりにリタに寄り添う。回復魔法のおかげで額のけがはなくなっていて、オリビアは安堵の息を漏らした。振り向いてリアムに向かい、彼の手を両手で握りしめる。

「リアム様、本当にありがとうございます!」

「役に立ててよかった。すぐに目を覚すはずだから、ついていてあげるといい」

「はい」

 リアムに促されオリビアはベッド脇の椅子に腰掛けリタの手を握った。
 すると、すぐに彼女の指先がピクリと動く。

「リタ!」

「……オリビア様? ここは……」

「学院の私の部屋よ! よかった、目が覚めて」

 リタがうっすら目を開けてオリビアを見つめたあと、ぼんやりと室内を見渡している。オリビアは彼女の手をぎゅっと握りしめ笑顔を見せるが、同時に涙もボロボロと流していた。リタが目覚めたことで本当に安心し、緊張の糸が切れたのだと自覚する。

「皆様……ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。少々油断していたのだと思います」

 数分後、オリビアが用意した水を飲み完全に目を覚ましたリタが呟いた。その表情は暗く、彼女は目を伏せ申し訳なさそうに眉を下げている。

「いいえ、リタのせいではないわ。私も王都の生活に慣れて油断していたもの」

「そんなっ。オリビア様のせいなどではございません。私が……」

「まあまあ、ふたりとも落ち着くんだ」

「はい……」

 リアムが間に入り、オリビアはひとまず冷静さを取り戻した。リタも同様に呼吸を整えて気を落ち着かせようとしているようだった。

「とりあえず夜も遅い、今日はもうゆっくり休んで回復してから今回の件を話そう。いいね?」

「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません、リアム様」

 オリビアはいつもの冷静さを保てなかった自分を恥じながらリアムに頭を下げる。すると、頭上から優しい声と髪の毛を撫でる優しい手が返ってきた。

「迷惑なんかじゃないさ。いつでも頼ってくれていい。何をおいても力になると、そう誓っただろう?」

「リアム様……」

 顔を上げるとリアムが深緑の瞳に微笑みをたたえていた。彼はもう一度オリビアの髪の毛を撫で、その大きな手でオリビアの小さな両手を包み込んだ。

「オリビア嬢とジョージは明日学校を休んでゆっくりしなさい。帰りがけに私からシルベスタ先生に話しておく。週末、私のタウンハウスで待っているから三人で来てくれ」

「はい、かしこまりました」

 オリビアはリタ、ジョージと共にリアムを見送り、この日は恐縮し控え棟に戻ろうとするリタを引き止め、三人揃ってオリビアの部屋で休んだ。安心し気が抜けたからか、オリビアはベッドに入った瞬間に意識を手放した。

>>続く
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