152 / 230
第六章 事件発生
153、帰ってきたリタ1
しおりを挟む
一方、ジョージは急いで街の広場に来ていた。
時刻は二十一時三十分。この時間、店じまいをしている店も目につく。
そんな中リタとオリビアが行きつけている店を何軒かまわり、手がかりを探した。
しかし、リタの足取りは昼食以降わからなかった。
気になったのはリタが一人で行動していたことだ。エルと待ち合わせときいていたが、何かあったのだろうか?
「エルのとこにも行っておくか……」
ジョージは念のため、エルの店に走った。
繁華街の飲み屋などを通り過ぎ、彼の店の前に立つ。
看板は出ておらずドアは閉まっていたが、かすかに人の気配を感じた。
そっとドアを開け、中の様子を確認する。
「エル、いるのか?」
「あ、ジョージ様」
座っているエルの奥に、探し人が横たわっているのが見えた。そして、手前のテーブルには怪しい色の液体が入ったグラス。
「リタ!」
「ジョ、ジョージ様っ。ぐっ……!」
ジョージは店内に進むとエルに駆け寄り、彼の細い首を掴んで持ち上げた。苦しそうにエルが顔を歪めて唸っている。
「お前、リタに何をした!」
「う……ちが……」
「何をしたと聞いてるだろ!」
折ってしまいそうな力でエルの細い首を掴んでいるジョージ。ジタバタと手足をばたつかせ、エルが身を捩り、ジョージの手から逃れた。彼はその場に座り込み、咽び込んでいる。
「じ、違い……ます……。ゲホッ……うえっ……」
その間にジョージはリタの様子を確認する。彼女は額にケガをしているものの、顔色や呼吸は健康そのもので、頭にのぼっていた血がすうっと引いていった。
エルを見下ろすと、彼はやっとのことで息を整えたところだった。
「グラスの中身は……毒消しと気付け薬です……。念のために飲ませました……」
「エル、お前……助けてくれたのか?」
ジョージは慌ててしゃがみ込み、エルの背中をさすった。
「すみません、水を……」
カウンターの水差しを指差すエル。急いでジョージは水差しと新しいグラスを持って彼の元に戻り、グラスに水を注いで渡す。
エルが水を飲んで深呼吸をする。一度咳き込み、再び水を一口飲んでから話しはじめた。
「僕は今朝急用ができたので約束を夕方に変更してもらうよう手紙を出しました。夕方、待ち合わせの広場に行くと、今度はリタさんから伝言で「僕の店で待ち合わせ」と……。急いで向かうと、店の前にリタさんが倒れていたんです」
「そうだったのか……。エル、話も聞かずに乱暴して悪かった」
「いいえ。僕も気が動転していたとはいえ、リビー様とジョージ様にご連絡すべきでした」
よく見ると、エルとリタの口元にはわずかに青緑色の何かがついている。グラスの薬と同じ色だ。彼が本当にリタを助けようと必死だったことを悟り、ジョージは静かに首を横に振った。
「いや……。ひとりでリタを助けようとがんばってくれてたんだな。ありがとな、エル」
「ジョージ様……」
「さあて、お嬢様が心配してる。俺はリタを連れて帰るけど、お前首は大丈夫か? 結構強く掴んじまったし、医者に診せに行くか?」
「いいえ、僕は平気です! 早くリタさんをリビー様のところに連れて帰ってあげてください」
エルが立ち上がり、自分が平気であることを主張してみせる。ジョージは感謝の気持ちを込め、彼に頭を下げた。
「エル、本当にありがとな」
「いいえ、僕なんて大したことはしてないですよ」
「本当に助かったよ。落ち着いたら顔出すからな」
「はい、お待ちしています」
ジョージはリタの体を抱き上げ、改めてエルに挨拶し店を出る。
帰りがけに広場にいた騎士団員に事情を伝え、馬車に乗って学院を目指した。
>>続く
時刻は二十一時三十分。この時間、店じまいをしている店も目につく。
そんな中リタとオリビアが行きつけている店を何軒かまわり、手がかりを探した。
しかし、リタの足取りは昼食以降わからなかった。
気になったのはリタが一人で行動していたことだ。エルと待ち合わせときいていたが、何かあったのだろうか?
「エルのとこにも行っておくか……」
ジョージは念のため、エルの店に走った。
繁華街の飲み屋などを通り過ぎ、彼の店の前に立つ。
看板は出ておらずドアは閉まっていたが、かすかに人の気配を感じた。
そっとドアを開け、中の様子を確認する。
「エル、いるのか?」
「あ、ジョージ様」
座っているエルの奥に、探し人が横たわっているのが見えた。そして、手前のテーブルには怪しい色の液体が入ったグラス。
「リタ!」
「ジョ、ジョージ様っ。ぐっ……!」
ジョージは店内に進むとエルに駆け寄り、彼の細い首を掴んで持ち上げた。苦しそうにエルが顔を歪めて唸っている。
「お前、リタに何をした!」
「う……ちが……」
「何をしたと聞いてるだろ!」
折ってしまいそうな力でエルの細い首を掴んでいるジョージ。ジタバタと手足をばたつかせ、エルが身を捩り、ジョージの手から逃れた。彼はその場に座り込み、咽び込んでいる。
「じ、違い……ます……。ゲホッ……うえっ……」
その間にジョージはリタの様子を確認する。彼女は額にケガをしているものの、顔色や呼吸は健康そのもので、頭にのぼっていた血がすうっと引いていった。
エルを見下ろすと、彼はやっとのことで息を整えたところだった。
「グラスの中身は……毒消しと気付け薬です……。念のために飲ませました……」
「エル、お前……助けてくれたのか?」
ジョージは慌ててしゃがみ込み、エルの背中をさすった。
「すみません、水を……」
カウンターの水差しを指差すエル。急いでジョージは水差しと新しいグラスを持って彼の元に戻り、グラスに水を注いで渡す。
エルが水を飲んで深呼吸をする。一度咳き込み、再び水を一口飲んでから話しはじめた。
「僕は今朝急用ができたので約束を夕方に変更してもらうよう手紙を出しました。夕方、待ち合わせの広場に行くと、今度はリタさんから伝言で「僕の店で待ち合わせ」と……。急いで向かうと、店の前にリタさんが倒れていたんです」
「そうだったのか……。エル、話も聞かずに乱暴して悪かった」
「いいえ。僕も気が動転していたとはいえ、リビー様とジョージ様にご連絡すべきでした」
よく見ると、エルとリタの口元にはわずかに青緑色の何かがついている。グラスの薬と同じ色だ。彼が本当にリタを助けようと必死だったことを悟り、ジョージは静かに首を横に振った。
「いや……。ひとりでリタを助けようとがんばってくれてたんだな。ありがとな、エル」
「ジョージ様……」
「さあて、お嬢様が心配してる。俺はリタを連れて帰るけど、お前首は大丈夫か? 結構強く掴んじまったし、医者に診せに行くか?」
「いいえ、僕は平気です! 早くリタさんをリビー様のところに連れて帰ってあげてください」
エルが立ち上がり、自分が平気であることを主張してみせる。ジョージは感謝の気持ちを込め、彼に頭を下げた。
「エル、本当にありがとな」
「いいえ、僕なんて大したことはしてないですよ」
「本当に助かったよ。落ち着いたら顔出すからな」
「はい、お待ちしています」
ジョージはリタの体を抱き上げ、改めてエルに挨拶し店を出る。
帰りがけに広場にいた騎士団員に事情を伝え、馬車に乗って学院を目指した。
>>続く
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました
六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。
「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」
彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。
アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。
時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。
すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。
そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。
その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。
誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。
「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」
「…………え?」
予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。
なぜ、落ちぶれた私を?
そもそも、お会いしたこともないはずでは……?
戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。
冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。
彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。
美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。
そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。
しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……?
これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる