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第六章 事件発生

153、帰ってきたリタ1

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 一方、ジョージは急いで街の広場に来ていた。
 時刻は二十一時三十分。この時間、店じまいをしている店も目につく。
 そんな中リタとオリビアが行きつけている店を何軒かまわり、手がかりを探した。

 しかし、リタの足取りは昼食以降わからなかった。

 気になったのはリタが一人で行動していたことだ。エルと待ち合わせときいていたが、何かあったのだろうか?

「エルのとこにも行っておくか……」

 ジョージは念のため、エルの店に走った。
 繁華街の飲み屋などを通り過ぎ、彼の店の前に立つ。
 看板は出ておらずドアは閉まっていたが、かすかに人の気配を感じた。
 そっとドアを開け、中の様子を確認する。

「エル、いるのか?」

「あ、ジョージ様」

 座っているエルの奥に、探し人が横たわっているのが見えた。そして、手前のテーブルには怪しい色の液体が入ったグラス。

「リタ!」

「ジョ、ジョージ様っ。ぐっ……!」

 ジョージは店内に進むとエルに駆け寄り、彼の細い首を掴んで持ち上げた。苦しそうにエルが顔を歪めて唸っている。

「お前、リタに何をした!」

「う……ちが……」

「何をしたと聞いてるだろ!」

 折ってしまいそうな力でエルの細い首を掴んでいるジョージ。ジタバタと手足をばたつかせ、エルが身を捩り、ジョージの手から逃れた。彼はその場に座り込み、咽び込んでいる。

「じ、違い……ます……。ゲホッ……うえっ……」

 その間にジョージはリタの様子を確認する。彼女は額にケガをしているものの、顔色や呼吸は健康そのもので、頭にのぼっていた血がすうっと引いていった。
 エルを見下ろすと、彼はやっとのことで息を整えたところだった。

「グラスの中身は……毒消しと気付け薬です……。念のために飲ませました……」

「エル、お前……助けてくれたのか?」

 ジョージは慌ててしゃがみ込み、エルの背中をさすった。

「すみません、水を……」

 カウンターの水差しを指差すエル。急いでジョージは水差しと新しいグラスを持って彼の元に戻り、グラスに水を注いで渡す。
 エルが水を飲んで深呼吸をする。一度咳き込み、再び水を一口飲んでから話しはじめた。

「僕は今朝急用ができたので約束を夕方に変更してもらうよう手紙を出しました。夕方、待ち合わせの広場に行くと、今度はリタさんから伝言で「僕の店で待ち合わせ」と……。急いで向かうと、店の前にリタさんが倒れていたんです」

「そうだったのか……。エル、話も聞かずに乱暴して悪かった」

「いいえ。僕も気が動転していたとはいえ、リビー様とジョージ様にご連絡すべきでした」

 よく見ると、エルとリタの口元にはわずかに青緑色の何かがついている。グラスの薬と同じ色だ。彼が本当にリタを助けようと必死だったことを悟り、ジョージは静かに首を横に振った。

「いや……。ひとりでリタを助けようとがんばってくれてたんだな。ありがとな、エル」

「ジョージ様……」

「さあて、お嬢様が心配してる。俺はリタを連れて帰るけど、お前首は大丈夫か? 結構強く掴んじまったし、医者に診せに行くか?」

「いいえ、僕は平気です! 早くリタさんをリビー様のところに連れて帰ってあげてください」

 エルが立ち上がり、自分が平気であることを主張してみせる。ジョージは感謝の気持ちを込め、彼に頭を下げた。

「エル、本当にありがとな」

「いいえ、僕なんて大したことはしてないですよ」

「本当に助かったよ。落ち着いたら顔出すからな」

「はい、お待ちしています」

 ジョージはリタの体を抱き上げ、改めてエルに挨拶し店を出る。
 帰りがけに広場にいた騎士団員に事情を伝え、馬車に乗って学院を目指した。

>>続く
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