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最終章 サウード夫妻よ永遠に
第35話 寝室にて
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手を繋ぎベッドに連れられたアリス。ウィリアムが腰掛けたので自分も並んで隣に座った。彼は絡ませていた指をほどいて妻の手の上にそっと重ね、蜂蜜色の目を細めた。
「アリス、また抱きしめてもいい?」
「もちろんよ」
アリスは両手を広げ夫に体を向けた。同じく自分を向いているウィリアムの腕にすっぽりと包まれる。ローブが無いので先ほどより彼の体が温かい。
「ねえアリス。キスしてもいい?」
「え、ええ。それももちろんいいわ」
一体彼はどうしたのだろう? そう思いながらアリスは目を閉じた。顔にかかっていた髪の毛が肩の後ろに流される。その手が頬を包み、顔がやや上を向く。そして唇に触れるウィリアムの唇。
「アリス、僕は君を愛してる」
「私もよ、ウィル」
唇が離れ目を開けると、自分を愛おしそうに見つめるウィリアムの姿が。彼はアリスの髪を撫でながら、少し眉尻を下げ、困ったように笑う。
「まだ見ぬ命と君を天秤にかけるなんて、できやしないんだ」
「ウィル……」
「わかってる。この前も言ったけど子供が嫌いということじゃないんだ。アリスと自分の子供なんて、愛おしいに決まってる。けど、やっぱり僕にはアリスの方が大切だ。君の命は何よりも、自分の命よりも重たいんだよ」
アリスは気の利いた返事ができずに黙るしかなかった。彼は今日一日、いや昨夜この部屋を出てからずっと考えてくれていたに違いない。それでも答えは変わらず、今、苦しそうに言葉を紡ぐしかないのだ。
「ウィル、ありがとう。きっと一生懸命考えてくれていたのね」
夫の艶やかな髪を撫でながら、彼の顔を覗き込む。その目には涙が滲んでいた。
「アリスのことが大好きなのに、君の願いを叶えると言えないことが辛いんだ。でもアリスだけは、絶対に失いたくない」
まるでその命に縋りつくように、ウィリアムにきつく抱きしめられる。アリスは彼の背中をポンポンと優しく叩いて彼を宥めた。
「ウィル、私はあなたに前から消えたりしない」
「本当は、一時だって離れたくない。ピエールがいなければ屋敷の外になんて出さなかった」
「大丈夫よ、ウィル。私は必ずあなたの元へ帰るわ」
ウィリアムが深い呼吸ののち、アリスから身を離した。そして両手を妻の小さな肩に乗せ、エメラルドの瞳をまっすぐに見つめる。
「ねぇアリス。僕の提案を聞いてくれる?」
「なにかしら?」
「君が子供をのではなく、どこかから養子として迎えるのはどうかな?」
「養子を……」
予想外の夫の言葉に、アリスは目を丸めた。問いかけると「うん」と言って頷き、ウィリアムは話を続ける。
「そう。僕のように。それなら君が出産で命を落とす心配もない。何人かいてもいいよ。ふたりでその子を大切に育てるんだ」
アリスは返事に悩んだ。やはり自分の子がほしい。しかし養子を否定すると、サウード家の養子として育ったウィリアムを否定してしまうことになりかねない。小さく唸り、口を開く。
「ウィル、いい提案だと思うわ。もし、私たちの間に子供を授かることが叶わなかったときは、養子を迎えることも考えたい。けれど今はまだ、決断できない」
「アリス……」
「子供を授かることを、はじめから諦めたくない。可能性の芽を摘み取る選択はしたくないわ」
見つめ合いウィリアムとの間には沈黙が流れた。ふたりの意見は完全に反発しあっている。けれどお互いに、昨夜のようにケンカ別れはしたくなかった。
ふうと息を吐き、沈黙を破ったのはウィリアムだった。
「なんとなく、こうなると思ってた。アリス、今日話したことをお互いの意見を踏まえてもう一度考えてみよう」
「わかったわ」
「それじゃ今日はもう休もう。手を繋いで眠ってもいい?」
「ええ、もちろん」
ふたりでベッドに入り、手を繋ぎ、キスをして目を瞑る。ああ、この手を離したくない。彼とずっと一緒に幸せに暮らしたい。けれど自分の気持ちを簡単に変えることもできない。思い悩みながら、アリスは眠りについたのだった。
>>続く
「アリス、また抱きしめてもいい?」
「もちろんよ」
アリスは両手を広げ夫に体を向けた。同じく自分を向いているウィリアムの腕にすっぽりと包まれる。ローブが無いので先ほどより彼の体が温かい。
「ねえアリス。キスしてもいい?」
「え、ええ。それももちろんいいわ」
一体彼はどうしたのだろう? そう思いながらアリスは目を閉じた。顔にかかっていた髪の毛が肩の後ろに流される。その手が頬を包み、顔がやや上を向く。そして唇に触れるウィリアムの唇。
「アリス、僕は君を愛してる」
「私もよ、ウィル」
唇が離れ目を開けると、自分を愛おしそうに見つめるウィリアムの姿が。彼はアリスの髪を撫でながら、少し眉尻を下げ、困ったように笑う。
「まだ見ぬ命と君を天秤にかけるなんて、できやしないんだ」
「ウィル……」
「わかってる。この前も言ったけど子供が嫌いということじゃないんだ。アリスと自分の子供なんて、愛おしいに決まってる。けど、やっぱり僕にはアリスの方が大切だ。君の命は何よりも、自分の命よりも重たいんだよ」
アリスは気の利いた返事ができずに黙るしかなかった。彼は今日一日、いや昨夜この部屋を出てからずっと考えてくれていたに違いない。それでも答えは変わらず、今、苦しそうに言葉を紡ぐしかないのだ。
「ウィル、ありがとう。きっと一生懸命考えてくれていたのね」
夫の艶やかな髪を撫でながら、彼の顔を覗き込む。その目には涙が滲んでいた。
「アリスのことが大好きなのに、君の願いを叶えると言えないことが辛いんだ。でもアリスだけは、絶対に失いたくない」
まるでその命に縋りつくように、ウィリアムにきつく抱きしめられる。アリスは彼の背中をポンポンと優しく叩いて彼を宥めた。
「ウィル、私はあなたに前から消えたりしない」
「本当は、一時だって離れたくない。ピエールがいなければ屋敷の外になんて出さなかった」
「大丈夫よ、ウィル。私は必ずあなたの元へ帰るわ」
ウィリアムが深い呼吸ののち、アリスから身を離した。そして両手を妻の小さな肩に乗せ、エメラルドの瞳をまっすぐに見つめる。
「ねぇアリス。僕の提案を聞いてくれる?」
「なにかしら?」
「君が子供をのではなく、どこかから養子として迎えるのはどうかな?」
「養子を……」
予想外の夫の言葉に、アリスは目を丸めた。問いかけると「うん」と言って頷き、ウィリアムは話を続ける。
「そう。僕のように。それなら君が出産で命を落とす心配もない。何人かいてもいいよ。ふたりでその子を大切に育てるんだ」
アリスは返事に悩んだ。やはり自分の子がほしい。しかし養子を否定すると、サウード家の養子として育ったウィリアムを否定してしまうことになりかねない。小さく唸り、口を開く。
「ウィル、いい提案だと思うわ。もし、私たちの間に子供を授かることが叶わなかったときは、養子を迎えることも考えたい。けれど今はまだ、決断できない」
「アリス……」
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「なんとなく、こうなると思ってた。アリス、今日話したことをお互いの意見を踏まえてもう一度考えてみよう」
「わかったわ」
「それじゃ今日はもう休もう。手を繋いで眠ってもいい?」
「ええ、もちろん」
ふたりでベッドに入り、手を繋ぎ、キスをして目を瞑る。ああ、この手を離したくない。彼とずっと一緒に幸せに暮らしたい。けれど自分の気持ちを簡単に変えることもできない。思い悩みながら、アリスは眠りについたのだった。
>>続く
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