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キュキュキュッとバッシュを鳴らしてレイアップシュートを決めると歓声が上がる。
合宿が終わってからすぐに他校チームと練習試合が決まっていた。
キャプテンは練習の成果を見せるぞと意気込み満々で負けたら土日返上だと言われている。
『回せ回せ!』
スリーポインターの薮が相手チームのディフェンスをくぐり抜けシュートを決めるとそこで試合時間は終了した。
並んで向き合い挨拶をするとキャプテンと副キャプテンが相手チームと握手をしている。
『キャアッ』
相手チームのエース、黒坂がキャプテンと握手をすると副キャプテンの元山とハグをしていた。それを見た数人の女の子達が黄色い声を上げ興奮した様子を他人事のように見上げた。
『黒坂すげぇよな、一応公式のファンクラブらしいぞ』
『公式ってなんだよ、ただの高校生だろ』
薮がスポドリをグビグビ飲み干しニヤっと笑う。
『あちこちでファンクラブが出来ちゃってあんまりにも収集がつかないから公式作ったんだってさ~、俺らには1ミリも関係ない話しだな』
黒坂は優しげな目元に短い黒髪が爽やかな印象で、まあモテるよなって感じのスポーツマンだ。
さっきチラッと見えた腹筋もバキバキでスタイルも良いし声のトーンも落ち着いていてなんだか普通の高校生とは一線超えている雰囲気だ。
『噂だとモデルにならないかー?ってスカウトされたらしいぞ』
『チャラついてんなあ』
『でも付き合ってる子の噂は全然無くって、それがまた人気なんだとー』
気に食わないヤツだなとその姿をもう1度見てみると元山の耳に顔を寄せ何か話している。元山はにこりと笑うと、うんと親しげに頷いてバイバイと手を振っていた。
『黒坂と仲良いの?』
学校に戻り部室で片付けをしている元山を見つけ声をかけた。
『ん?ああ、同じ中学だったんだ』
1年生が他に洗濯するものありますか?と聞いているそれに答えると部室から出ていき、2人きりになってしまった。
『ハグなんかしてさ…ファンクラブの子達に憎まれるんじゃない』
『黒坂は誰にでもあんな感じだから、別に…僕だけじゃないし』
『ふうん…爽やかイケメンだよなー、元山もそう思うだろ?』
『まあ、かっこいいとは思うけど』
『じゃあさ、キスしたいとか、思った?』
得点表をまとめる鉛筆が止まる。
『は、はあ? そんなこと、思うわけないじゃん…』
ベンチに腰掛けている元山の隣へにじり寄ると体を反対側へ向けベンチを跨ぎ明らかに避けられた。
『あいつだってさ高校生なんだから、えっちな事考えてることもあるんだよな~』
『そうなんじゃない? 知らないけど』
2日前、合宿最終日の夜に見せたいやらしい元山の姿を思い出し唾液が溢れてくる。
『まあでも、田島ほどすけべじゃない事はわかるよ』
『は? すけべなの元山だろ』
『いやらしい事ばっか言ってた』
『それは元山がやらしいからだろっ』
『なんだよスケベミルクって、エロ漫画の読みすぎじゃない?』
あははっと笑う元山の肩を掴み顔をこちらに向かせる。笑っていたと思っていたらムスッとした顔を見せた。
『痛いよ』
『俺のちんこ咥えたくせに』
『上に乗られて押しつけられたら仕方ないだろ』
『一緒に寝よって甘えてきただろ』
『田島が浴衣脱がせたりするから寒くなったんだもん』
『熱いって言い出したのは元山の方じゃん』
手に力が入って元山が顔を歪ませる。
『なんだよ、また口でして欲しいの?』
『…いいや、それより』
スル、と手を落として胸元を撫でると元山がきつく睨んでくる。
『やめろよスケベ』
『吸って欲しいんじゃねえの?』
『おっぱい吸いたいのは田島だろ、変態』
『うるせぇよ、変態なのは元山の方だって』
ベンチに跨る体に擦り寄ってうなじに顔を埋めると元山が前へ足をずらし逃げようとした。
『この間気持ち良かったんじゃねえの? なあ』
『こんなとこで、やめろってば…!』
後ろから腕を回しギュウと抱きしめ逃げられないように捕まえる。
『めっちゃ可愛かった、マジで、』
『だ、だからなんだよ、やめろってば…っ』
『本当に可愛いって思ってんだよ、元山だってあんなこと嫌なやつにやらせねぇだろ?』
『酔ってたから覚えてない…っ』
その時ガチャッとドアノブが回って元山が体を離し立ち上がる。
『颯?ノートまとめたか?』
キャプテンが鍵をチャラチャラと鳴らしながら様子を伺っている。2人の少し異様な雰囲気に勘付いたのか次の言葉を待っているようだった。
『あ、うん、ノート出来たよ。鍵閉めたら帰るでしょ?』
『あ~、うん。』
『はい、ノート』
部室から出ると鍵とかけ最後にガチャガチャと確認するとキャプテンがおずおずと口を開いた。
『えーっと、一緒に帰んの? 2人』
『ん?ううんっ、一緒に帰ろって隆(りゅう)約束してたじゃん。じゃあね田島』
そう言うと元山はキャプテンのジャージの裾を握って歩き出した。
なんだよその仲良いですアピール。
キャプテンの事を隆なんて呼び捨てにしてるのは副キャプテンの元山だけだ。2人は同じクラスで部活以外でも一緒に帰ったりしている事を知っている。
1人で電車に乗っていると元山の可愛い姿がまた脳裏に蘇ってきた。頭の裏側がうずうずしてくる。
バスケをしている時の真剣な顔や、キャプテンと話してる時のあどけない表情、真夏日の下流水で顔を洗っていた時の艶かしい腕。ちょっとの間だったけれど全部手の中に居たはずなのに。
土曜日の部活終わり、入り口から誰かが覗いていて1年達がザワザワし始めた。
『うわ、イケメン、誰?』
『知らねぇの?黒坂だよ』
『モデル?』
『○○のエース!』
ただでさえ体育館は蒸し暑いのに騒ぐ1年にイライラが重なる。
『オイっ、まだ片付け終わってねえだろ!喋ってねえで手動かせ1年!』
大きな声に1年達が一斉に返事をする。
『どしたん田島~?いつも怒ったりしねぇのに』
『別に…早く帰りたいだけ』
嘘だ。本当は黒坂が元山と何か2人だけにしか分からないアイコンタクトをしていたのを見てしまったからだ。
片付けが終わり全員で点呼をすると解散になる。元山はトタトタと黒坂のところに行って何か話しをすると並んで歩き帰って行った。
『薮ー、この後遊び行かねえ?』
『ごっめん、俺この後チサちゃんとデートなんだ~』
『毎週じゃん、俺の事も愛してよぉ~、体だけが目当てだったの?ひどい…』
『もお~純の事も愛してるって♡』
『本当に~?』
『本当本当~』
ぷははっと笑いが溢れ出る。チサちゃんは薮と中学の時から付き合ってる彼女だ、姉御肌で俺と会ったときも元気か!?といつも肩をバシバシ叩いてくる。仲良い2人を見ているとなんだかほんわかして恋人っていいなぁ~としみじみ思ったりもした。
はあ~あ、土曜の駅はどこもかしもカップルだらけだ。そのまま帰るのもなんだか虚しくて駅ビルに入ってみたけどハロウィーンの飾りが自分の心とは反対にやけに眩しく見えてますます哀しくなる。
カシャカシャとそこかしこで写真を撮っている人混みに紛れて後ろの女の子がキャアっと声を上げた。
『ねえねえ、あの人めっちゃかっこいい~!』
『わっ、本当だー、モデルかな?』
『背高いよね?180あるかな』
視線を辿ると黒坂がスマホでハロウィーンの飾りを写真に収めている。被写体として目の前にいるのは…元山だ。
『僕だけ撮って楽しいのー?』
『うん。あ、でも一緒に撮ろうか?』
2人が肩を寄せ合って目玉が飛び出ているゾンビを背景に自撮りをしている。
完全にデートじゃん。なにが誰にでもそうだよ、だ。お前だけにしか見せないだろってくらい甘い笑顔を輝かせている。
ふと元山と目が合った。
なのにフイッと目線を逸らした態度にイライラが込み上げてくる。
何も目的は無いが2人の後を付けて歩く。だけどしばらくして週末の人混みに紛れたその姿は見失ってしまった。
何してんだろ…
家に帰ると誰もいなくてまた寂しくなってくる。暗い部屋でスマホを見ていたらいつの間にか寝てしまっていたらしく、ご飯よ!という母親の声で飛び起きた。
合宿が終わってからすぐに他校チームと練習試合が決まっていた。
キャプテンは練習の成果を見せるぞと意気込み満々で負けたら土日返上だと言われている。
『回せ回せ!』
スリーポインターの薮が相手チームのディフェンスをくぐり抜けシュートを決めるとそこで試合時間は終了した。
並んで向き合い挨拶をするとキャプテンと副キャプテンが相手チームと握手をしている。
『キャアッ』
相手チームのエース、黒坂がキャプテンと握手をすると副キャプテンの元山とハグをしていた。それを見た数人の女の子達が黄色い声を上げ興奮した様子を他人事のように見上げた。
『黒坂すげぇよな、一応公式のファンクラブらしいぞ』
『公式ってなんだよ、ただの高校生だろ』
薮がスポドリをグビグビ飲み干しニヤっと笑う。
『あちこちでファンクラブが出来ちゃってあんまりにも収集がつかないから公式作ったんだってさ~、俺らには1ミリも関係ない話しだな』
黒坂は優しげな目元に短い黒髪が爽やかな印象で、まあモテるよなって感じのスポーツマンだ。
さっきチラッと見えた腹筋もバキバキでスタイルも良いし声のトーンも落ち着いていてなんだか普通の高校生とは一線超えている雰囲気だ。
『噂だとモデルにならないかー?ってスカウトされたらしいぞ』
『チャラついてんなあ』
『でも付き合ってる子の噂は全然無くって、それがまた人気なんだとー』
気に食わないヤツだなとその姿をもう1度見てみると元山の耳に顔を寄せ何か話している。元山はにこりと笑うと、うんと親しげに頷いてバイバイと手を振っていた。
『黒坂と仲良いの?』
学校に戻り部室で片付けをしている元山を見つけ声をかけた。
『ん?ああ、同じ中学だったんだ』
1年生が他に洗濯するものありますか?と聞いているそれに答えると部室から出ていき、2人きりになってしまった。
『ハグなんかしてさ…ファンクラブの子達に憎まれるんじゃない』
『黒坂は誰にでもあんな感じだから、別に…僕だけじゃないし』
『ふうん…爽やかイケメンだよなー、元山もそう思うだろ?』
『まあ、かっこいいとは思うけど』
『じゃあさ、キスしたいとか、思った?』
得点表をまとめる鉛筆が止まる。
『は、はあ? そんなこと、思うわけないじゃん…』
ベンチに腰掛けている元山の隣へにじり寄ると体を反対側へ向けベンチを跨ぎ明らかに避けられた。
『あいつだってさ高校生なんだから、えっちな事考えてることもあるんだよな~』
『そうなんじゃない? 知らないけど』
2日前、合宿最終日の夜に見せたいやらしい元山の姿を思い出し唾液が溢れてくる。
『まあでも、田島ほどすけべじゃない事はわかるよ』
『は? すけべなの元山だろ』
『いやらしい事ばっか言ってた』
『それは元山がやらしいからだろっ』
『なんだよスケベミルクって、エロ漫画の読みすぎじゃない?』
あははっと笑う元山の肩を掴み顔をこちらに向かせる。笑っていたと思っていたらムスッとした顔を見せた。
『痛いよ』
『俺のちんこ咥えたくせに』
『上に乗られて押しつけられたら仕方ないだろ』
『一緒に寝よって甘えてきただろ』
『田島が浴衣脱がせたりするから寒くなったんだもん』
『熱いって言い出したのは元山の方じゃん』
手に力が入って元山が顔を歪ませる。
『なんだよ、また口でして欲しいの?』
『…いいや、それより』
スル、と手を落として胸元を撫でると元山がきつく睨んでくる。
『やめろよスケベ』
『吸って欲しいんじゃねえの?』
『おっぱい吸いたいのは田島だろ、変態』
『うるせぇよ、変態なのは元山の方だって』
ベンチに跨る体に擦り寄ってうなじに顔を埋めると元山が前へ足をずらし逃げようとした。
『この間気持ち良かったんじゃねえの? なあ』
『こんなとこで、やめろってば…!』
後ろから腕を回しギュウと抱きしめ逃げられないように捕まえる。
『めっちゃ可愛かった、マジで、』
『だ、だからなんだよ、やめろってば…っ』
『本当に可愛いって思ってんだよ、元山だってあんなこと嫌なやつにやらせねぇだろ?』
『酔ってたから覚えてない…っ』
その時ガチャッとドアノブが回って元山が体を離し立ち上がる。
『颯?ノートまとめたか?』
キャプテンが鍵をチャラチャラと鳴らしながら様子を伺っている。2人の少し異様な雰囲気に勘付いたのか次の言葉を待っているようだった。
『あ、うん、ノート出来たよ。鍵閉めたら帰るでしょ?』
『あ~、うん。』
『はい、ノート』
部室から出ると鍵とかけ最後にガチャガチャと確認するとキャプテンがおずおずと口を開いた。
『えーっと、一緒に帰んの? 2人』
『ん?ううんっ、一緒に帰ろって隆(りゅう)約束してたじゃん。じゃあね田島』
そう言うと元山はキャプテンのジャージの裾を握って歩き出した。
なんだよその仲良いですアピール。
キャプテンの事を隆なんて呼び捨てにしてるのは副キャプテンの元山だけだ。2人は同じクラスで部活以外でも一緒に帰ったりしている事を知っている。
1人で電車に乗っていると元山の可愛い姿がまた脳裏に蘇ってきた。頭の裏側がうずうずしてくる。
バスケをしている時の真剣な顔や、キャプテンと話してる時のあどけない表情、真夏日の下流水で顔を洗っていた時の艶かしい腕。ちょっとの間だったけれど全部手の中に居たはずなのに。
土曜日の部活終わり、入り口から誰かが覗いていて1年達がザワザワし始めた。
『うわ、イケメン、誰?』
『知らねぇの?黒坂だよ』
『モデル?』
『○○のエース!』
ただでさえ体育館は蒸し暑いのに騒ぐ1年にイライラが重なる。
『オイっ、まだ片付け終わってねえだろ!喋ってねえで手動かせ1年!』
大きな声に1年達が一斉に返事をする。
『どしたん田島~?いつも怒ったりしねぇのに』
『別に…早く帰りたいだけ』
嘘だ。本当は黒坂が元山と何か2人だけにしか分からないアイコンタクトをしていたのを見てしまったからだ。
片付けが終わり全員で点呼をすると解散になる。元山はトタトタと黒坂のところに行って何か話しをすると並んで歩き帰って行った。
『薮ー、この後遊び行かねえ?』
『ごっめん、俺この後チサちゃんとデートなんだ~』
『毎週じゃん、俺の事も愛してよぉ~、体だけが目当てだったの?ひどい…』
『もお~純の事も愛してるって♡』
『本当に~?』
『本当本当~』
ぷははっと笑いが溢れ出る。チサちゃんは薮と中学の時から付き合ってる彼女だ、姉御肌で俺と会ったときも元気か!?といつも肩をバシバシ叩いてくる。仲良い2人を見ているとなんだかほんわかして恋人っていいなぁ~としみじみ思ったりもした。
はあ~あ、土曜の駅はどこもかしもカップルだらけだ。そのまま帰るのもなんだか虚しくて駅ビルに入ってみたけどハロウィーンの飾りが自分の心とは反対にやけに眩しく見えてますます哀しくなる。
カシャカシャとそこかしこで写真を撮っている人混みに紛れて後ろの女の子がキャアっと声を上げた。
『ねえねえ、あの人めっちゃかっこいい~!』
『わっ、本当だー、モデルかな?』
『背高いよね?180あるかな』
視線を辿ると黒坂がスマホでハロウィーンの飾りを写真に収めている。被写体として目の前にいるのは…元山だ。
『僕だけ撮って楽しいのー?』
『うん。あ、でも一緒に撮ろうか?』
2人が肩を寄せ合って目玉が飛び出ているゾンビを背景に自撮りをしている。
完全にデートじゃん。なにが誰にでもそうだよ、だ。お前だけにしか見せないだろってくらい甘い笑顔を輝かせている。
ふと元山と目が合った。
なのにフイッと目線を逸らした態度にイライラが込み上げてくる。
何も目的は無いが2人の後を付けて歩く。だけどしばらくして週末の人混みに紛れたその姿は見失ってしまった。
何してんだろ…
家に帰ると誰もいなくてまた寂しくなってくる。暗い部屋でスマホを見ていたらいつの間にか寝てしまっていたらしく、ご飯よ!という母親の声で飛び起きた。
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