ミュージック・れいん

森野ゆら

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5章

ゆれる音符

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「やっぱ、オトダマ食いが実際に出ないと、タクトもやる気でないのかな~」

 そう言いながら、佐倉くんがツンツンとタクトをさわる。

「じゃあ、練習のしようがないよね」

 ラッキー。
 これで終われるかなって思ったら、コハクが一枚の紙を出してきた。

「れいん、モード変えてるか?」

「え? モード?」

「おう。この前、棚を掃除してたらタクトの説明書が出てきたんだ。持ち手についてる石で練習モードと本番モードを変えられるらしい」

「それを早く言えよ!」

 佐倉くんがコハクをあきれた目で見る。

「きゃきゃきゃ。紫の石が本番モード。緑の石が練習モードだと書いてあるぞ」

「オッケー。じゃあ、今は緑の石を押したらいいんだね」

 緑の石をぐっと押したら、「カチッ」と音がした。
 そう言えば、公園で初めてタクトを使ったときも、「カチッ」っていう音がしたっけ。
 きっと、知らない間に紫の石を押してたのかな。

「よーし。振ってみるよ。えいっ!」

 思い切りタクトを振ると、きら、きらん ♪♪
 黒丸に旗がついたような音符が二つ出てきた。

「わー! 出てきた! これってえーと。何音符だっけ?」

「八分音符だろ! さっき教えたのに!」

 コハクがシャッと牙を出して、ブツブツ言う。

「ごめん、ごめん。そうだった。八分音符だ」

 ふよふよ宙を浮いてる音符たちをあらためて見たら、すっごくかわいい。

「れいん、右に振ってみろ」

 コハクに言われて、タクトを右に振ってみた。
 そしたら、二つの音符がゆっくりと右に行く。左に振ると、左へ。

「おおおお~! すごい!」

 音符ちゃんたち、ちゃんと言うこときいてくれる!
 すごい。音符を操れるなんて。私、魔法使いみたい! 
 よーし。もう一回!

「えいっ」

 きらん
 ふってみたら、びよびよんって伸びた線が一つ出てきた。

「あっ。これは、えーと。さっき佐倉くんに教えてもらった四分休符だ!」

 私たちの頭上をキラキラ輝く音符たちが舞う。

「うわぁ、かわいい! きれい! この休符たちも動くかな。えいっ」

 タクトを振ると、四分休符がひゅーんと飛んでいって、コハクのおなかに張りついた。
 ぴたっ。コハクの動きが止まる。

「なるほど。一拍休みだから、動きが止まるのか」

「おもしろーーい」

 タクトを振ると、四分休符が五つほどぽんぽん出てきた。
 ひゅーんとコハクの方に飛んでいって、おなかにぺたぺたくっつく。
 そのたびにコハクの動きがぴた、ぴたと止まる。

「わはははっ、これ、おもしろいな。おれもやりたいなー」

 佐倉くんがゆかいそうに笑い出した。

「こら! 遊ぶな!」

 全部の休符が消えたコハクが、毛を逆立てた。

「ごめん、ごめん。でも、こんなことができるなんてすごい」

 タクトをくるくるまわしていると、ふと気がついた。

「あれ? 四分休符が出てきたのって、もしかしてさっき勉強したから?」

「そうだな。れいんの中にインプットされたから、使えるようになったんだ」

 コハクがおなかの毛についたホコリをパンパン払いながら言う。

「そっかぁ」

 じゃあ、これからいっぱいインプットしたら、いろんな音符や記号が出てきてくれるかな。
 よーし。音符と仲良くなるためにも、勉強いっぱいしなきゃ。

「あ、そうそう。なんだか不穏なウワサをきいたぞ」

 コハクがピンとしたヒゲをなでながら、私と佐倉くんを見た。

「駅の近くにロンドホールっていうのがあるだろ? そこで倒れる人が数人出たって。しかも音楽関係の人間ばかり」

「ロンドホールと言えば、今度、まりんが出るピアノコンクールの会場だよ」

「もしかしたら、オトダマ食いがピアノコンクールに出る人を狙うかもしれないな。ピアノに情熱を持った人が多いから、立派なオトダマを持った人も多いし」

 佐倉くんがそう言って、考え込み始めた。

「春名さん、行こうか。ピアノコンクールに」

「いいよ。まりんの演奏、ききに行くでしょってお母さんから念押しされてたし」

 ほんとは気がのらなかったけど、仕方ない。
 だって、もうメイちゃんみたいな思いをする人が増えてほしくないもん。
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