ミュージック・れいん

森野ゆら

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7章

内緒の話

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 月が丘公園での一件があってから三日後。
 青白い顔で登校してきたすずちゃんに、放課後の体育館裏に呼び出された。
 もちろん、佐倉くんも一緒に。
 実はあの時、すずちゃんが目が覚めるまでついてたんだ。
 あれからしばらくして、すずちゃんはゆっくり目を覚ましたんだけど。

「……あれ? 私……? え、あれ?」

 私と佐倉くんの姿を見て、少しの間状況がのみこめなかったみたい。
 だけど、佐倉くんがネコのお面を手に持ってるのを見て、すずちゃんは顔色をなくした。

「ひゃあ! ごめんっ、それ……私の……」

 佐倉くんからお面を奪い取って、ギターを抱えてすごい勢いで走り去ったんだ。
 たぶん、自分がRANってバレたって気づいて逃げたんだろうな。

「……あの……ばれてる……よね?」

 すずちゃんが震えた声で言う。

「倉橋さんがRANだったんだね」

 佐倉くんが何でもないように言うと、すずちゃんががっくりと肩を落とした。
 でも、観念したのかうつむきながら小さな声で答えた。

「……うん。そう」

 すずちゃんが気まずそうに黙り込む。
 あああ、なんて言ったらいいんだろう。
 普段、おとなしいすずちゃん。近い存在の私だからこそ、絶対知られたくなかったよね。

「すごいな、倉橋さん。あんなきれいな声の持ち主だなんて、知らなかった。歌も倉橋さんが作ってるのか?」

 にこにこ顔の佐倉くんに、すずちゃんは面食らった顔をした。

「あの……変って思わないの? 学校では影が薄い私が……あんなことしてるって」

「変? どうして?」

 佐倉くんはキョトンとする。

「かっこいいなと思ったよ。能ある鷹は爪を隠すってこのことなんだな」

 佐倉くんが腕組みをして、うんうんとうなずく。

「ほんと、すごいよ! そりゃあ、びっくりしたけど……私、RANの歌声きいて、一瞬でファンになっちゃったんだ。それがすずちゃんだったなんて、奇跡みたいな話だよ!」

 テンション高く言うと、すずちゃんが困ったように目をふせた。

「私ね、あがり症っていうか。人前だと何でもこわくて、ふるえちゃって、うまくいかないんだ。そんな自分が嫌いで仕方なくて。……だけどね。歌を歌って曲を作るのだけは大好きで……家にいる時だけ歌ってたの」

 すずちゃんがゆっくり、言葉を選ぶように話す。

「そのうち、作った歌をきいてほしいっていう気持ちが出てきちゃって。でも、人前は絶対無理だから、RANになって動画配信することを思いついたの。最初はすぐやめるつもりだったんだけどね。感想とか反応もらえるのが楽しくなっちゃって」

 うんうん。RANのコメント欄すごいもんね。
 元気が出ましたとか、心ひかれましたとか、応援のメッセージでいっぱいだもん。

「私、RANになる時が心の中を表現できる時間なんだ。RANは私の大事な一部なの。だから、あの……私がRANってこと、内緒にしてほしいんだけど……」

「もちろんだよ! 私、絶対誰にも言わないから。ね、佐倉くん」

「うん。そりゃ、そうだ」

 うなずきあう私と佐倉くんを見て、すずちゃんはほっとしたように笑った。
 よかった。やっとすずちゃんの元の笑顔だ。

「ところでさ、倉橋さん。倒れる前の記憶ってある? 誰かと会ったとか……」

 佐倉くんが遠りょがちにすずちゃんにきいた。
 そうだ! オトダマ食いのこと、すっかり忘れてた!
 すずちゃんは、うーんと考えた後、頭をおさえた。

「……ごめん。覚えてない」

「そっか。いいよ。ごめん、変なこときいて」

 佐倉くんは優しく言って、息をついた。

「でも……ギターの中にこんなの入ってたんだ」

 すずちゃんがポケットから、小さな丸い物を出してきた。

「これ……倒れる前に会った人のものかな? だって、家に出る前はギターにこんなの入ってなかったもん」

「ちょっと見せてくれる?」

 佐倉くんは、すずちゃんから受け取ったものをじいっと見た後、首を傾けた。

「うーん。ただのボタンだな。春名さん、見覚えある?」

 佐倉くんから渡されたもの。それを手のひらにのせた瞬間、背中に寒気が走った。

「……あっ。これは……」
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