タイム・ジャンプ!

森野ゆら

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5 発明小屋とお兄ちゃん

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「お兄ちゃん! 私のプリン返して!」

 バーンと扉を開けると、薄暗い室内の奥で、グルグル眼鏡がキラリと光った。

「おお。帰ってたのか、未央。いや~プリンおいしかったよ。ちょうど甘いものが食べたくなってさ~」

 間の抜けた……もとい、のんびりした声。頭をガリガリかきながら、へらっと笑う。
 ボサボサ頭に牛乳瓶の底みたいな眼鏡、古びたジャージ姿。
 学校とは全くちがう兄がそこにいる。
 生徒会長、三条和都さんと同じ人だとは思えない。
 ステキ! なんて学校で言ってる女子も、家での姿を見たらゲンメツするよ?

「お兄ちゃん! 私のプリンって分かってたでしょ? 勝手に食べないでよ!」
「いや~、未央が食べてないからさ、おれに残してくれてるのかと思って。優しい妹だなぁって」

 わざとらしく、感動した真似をするお兄ちゃんをつっぱねる。

「そんな訳ないでしょ! だいだいね、いつもお兄ちゃんは……」

 つめよると、お兄ちゃんがニヤリと唇の端を持ち上げた。

「そう言えばさ、今日、数学のテスト返されただろ?」

 ぐっ、と出かかっていた言葉がのどの奥へ引っ込む。

「ど、どうしてそれを……」

「帰り際に未央の担任の先生に会った。妹の点数が良くないから、勉強教えてやってほしいって神妙な面持ちで言われてさ~。まいっちゃったよ♪」

「話をそらさないでよ、今は私のプリンの話でしょ?」

「……母さんに点数バラそうか?」

「……うっ」

 何も言えなくなった私に、お兄ちゃんは勝ち誇ったように笑う。

「いや~、プリンおいしかったなぁ」

 くうっ。腹立つ!
 家での姿を写真に撮って、学校新聞に載せてやろうか!
 三条生徒会長、プライベートはこんなにダサかった! っていう見出しで!
 でも、そんなことしたら後がこわすぎる。
 ……仕方ない。ここはおとなしく引き下がろう。
 テストの点数言われちゃったら、お母さんの怒りハリケーンが発動されちゃう。
 それこそ避けたい。絶対に。

「それで、また変なモノ作ってるの? これは……時計?」

 机にある作りかけの箱を指さすと、お兄ちゃんはうれしそうに顔をほころばせた。

「よくぞきいてくれた! これは時計に見えるかもしれないが、ただの時計じゃない! このネジをまわすと鳥が出てきたり……」

 小さなネジをクルクル回すと、ポッポー♪ とハトのような人形が出てきた。
 このハト、ちょっとたれ目で気味が悪い。

「へー。よくできたオモチャだね」

「未央、何だその冷めた目は……」

「じゃあ、これは? アクセサリー?」

 本の上に置いてある、茶色と灰色のしましま柄で、腕輪みたいなもの。
 お世辞にもセンスがいいとは言えないデザイン。
 指さすと、お兄ちゃんはうれしそうに自分の腕に通した。

「この腕輪をつけると、よく分からない日本語を通訳できて、お互いコミュニケーションができるというモノで……」

「よく分からない日本語って何?」

「いや~、この前さ、父さんが酔っぱらって帰ってきただろ? 何言ってるのか分からない! って母さんが激怒してたから、酔っぱらいの意味不明な言葉を通訳するモノを作ろうと思って」

「……そうなんだ。じゃ、明日粗大ごみの日らしいから」

 お母さんから手渡されたビニール袋を広げ、机にあるガラクタたちをザザザッと入れていく。

「待てぃ! 未央、それはゴミじゃなーい!」

 あわてて私の腕をつかむお兄ちゃんを振り払う。
 続けて机の引き出しを開けようとしたら、お兄ちゃんが前に立ちふさがった。

「ここにゴミはない! 開けるの禁止だっ」

 お兄ちゃんのメガネが鈍く光る。

「あやしいなぁ。悪い点数のテストでも隠してるの?」

「未央じゃあるまいし、そんなものはない」

 くうっ。痛いところをついてくるな。さすがお兄ちゃん。
 またテストの話になったらややこしい。ひいておくか。
 私は仕方なしに作業台の方へと方向転換する。

「分かった。とりあえず集めて、小屋の入り口に置いておくから、あとでいるモノいらないモノ、分けといてよね」

「全部いるんだよ~」

「片付けられない人って、すぐそんなこと言うんだよね」

 ブツブツ文句を言うお兄ちゃんをスルーして、私はパンパンになった袋を小屋の外へ出した。
 閉めたドアの向こうからは、シクシクとわざとらしい泣き声が聞こえてくる。

「はー。もう。手がかかるんだから」 

 辺りは暗くなりかけて、西の空のオレンジをもうすぐ夜の色が覆いつくしそう。
 庭の真ん中のコナラの木がサワサワとゆれる。
 この木の根元に座って、お兄ちゃんと志信と私でよく遊んだなぁ。
 ピクニック気分でおにぎりを食べたり、机を持ってきてお絵かきしたり、日が暮れるまで遊んだものだけど。
 今は三人で走りまわるなんて、しないもんなぁ。
 何だかなつかしくなって、ボコボコした根元に座ってみた。
 冷たい風が吹いてきた。
 長袖の体操服を着ていてもちょっと寒い。
 さすがに十月にもなると、夕方は冷えてくるなぁ。
 体操座りしてきゅっと身を縮こませていると、人の気配を感じた。

「未央?」
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