タイム・ジャンプ!

森野ゆら

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1 十年後の未来

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「ありゃ? ここどこ?」

 まわりをぐるっと見まわす。
 人がたくさん歩いていて、にぎやかだ。両側にはたくさんのお店が並んでる。
 あ、そうか。
 場所を前のままにしてたから、あおぞら商店街に来ちゃったんだ。
 商店街……だけど、何かがちがう。
 もしかして!

「これが十年後のあおぞら商店街?」

 着物屋さんはそのままだけど、クレープ屋さんがあったところが、雑貨屋さんになってる。
 そらいろパン屋さんがあった場所はカフェになっていて、スーツを着たおじさんがコーヒーを飲んでいたり、お姉さんたちがメニューを見ながら楽しそうに話してる。

「ふえ~。ずいぶん変わっちゃうんだなぁ」

 カフェの横には、おしゃれなお菓子屋さん。
 ガラスの扉に真っ赤な壁。
 オープンしたてなのか、店の入り口にたくさんの花とお祝いの言葉が書かれたカードが飾られてる。

「かわいいお店……」

 吸い寄せられるように入り口の方へ歩いていくと、タイミングよくガラスの扉が開いた。

「よかったら、どうぞ。見て行ってください」

 ショートカットの店員さんがにこっと笑って、顔を出した。

「お、おじゃまします……」

 キョロキョロしながら中に入ると、ステキな店内にほおっとため息が出た。
 ショーケースには、ケーキがいっぱい。
 クリームのショートケーキ、フルーツ盛りだくさんのタルト……
 白い棚の上には、カップケーキやマドレーヌが入ったカゴが整然と並べられてる。
 うわぁ。このお店、ラッピングもすてき!
 それにケーキのトッピングの仕方がかわいい! センスいい!
 ケーキに夢中になって見ていると、女の人がかけこんできた。

「こんにちは! ゆり先輩! 開店おめでとうございます! きゃあぁ、中もステキ!」

「わぁっ、来てくれたんだぁ! ありがとう!」

 店員さんと女の人が手を取り合って、うれしそうに笑ってる。
 ん? ゆり先輩?
 そう思って店員さんの顔をじいっと見てみる。
 細く整えた眉にちょっと勝気な瞳。ニッと笑う顔も……
 似てる。ゆりちゃんに。
 ちらりと名札を見て驚いた。
 あっ! ゆりちゃんと一緒の名字!
 ま、まさかっ。 

「この配置とかステキ! ゆり先輩のセンスは専門学生の時から光ってましたもんね。さすがです」

「あははっ。そんなこと……あるかもね~」

 二人で笑って小突きあってる。
 ……まちがいない。
 ゆりちゃんだ。それも十年後の!
 ぼーっと見ていると、ゆりちゃんが私の視線にハッとした。

「ごめんなさい、お嬢さん。お客様がいらっしゃるのに私ったら」

 申し訳なさそうに言いながら、棚からカゴを持ってきた。

「これ、うちのオススメクッキーです。お味見どうぞ」

 目の前に出されたのは、いろんな形のクッキー。
 ほんのり茶色の焼き色に、甘いにおい。
 ひとつ、星型のクッキーを手に取って、口に入れた。

「おいしい……」

 サクサクしていて、優しく甘い。
 この前、ゆりちゃんちで作ったクッキーの味とちょっと似てる。

「どうですか? クッキーの詰め合わせ一つ二百円です」

 二百円! この量でこのおいしさ! 安いっ!
 買います! とスカートのポケットをさぐって、青ざめた。

「あ、あのっ、私、財布持ってくるの忘れてた! すみません、また今度来ます!」

 ぺこりと頭を下げて、逃げるように外へ出た。

「また来てくださいね」

 ゆりちゃんがガラスの扉を開けて叫んでくれた。
 私もブンブン手を振り返す。

 すごいすごいすごい!
 ゆりちゃん、夢かなってる! すごい!
 口の中に残ってる甘さになんだかじーんときて、ちょっと涙が出てきた。
 ずっとずっと、大人になるまでお菓子の勉強続けたんだね。
 すごいよ、かっこいいよ、ゆりちゃん!

 ――じゃあ、私は? 私は何になってる?

 十年後の私は何してるんだろう?
 どんな大人になってる? なんの仕事してる? 

 見たい。

 いてもたってもいられなくて、かけだした。
 大人の私は今、どこにいるの?
 自分の家の方へ向かって全力で走る。
 早く見たいのに、横断歩道の信号がチカチカ点滅した。
 仕方なく走るのをストップ。
 その場でやきもきしながら、足踏みをする。
 でも、信号の赤を見たら、急にズシンと心が重くなった。

 ちょっと待って。
 足踏みをやめて、立ちすくんだ。
 ……あれ? なんでだろう?
 大人の私がなにをしてるか、全然イメージできない。
 だって、今の私、将来の夢もないし、ゆりちゃんみたいになにかに向かって努力もしてない。
 もしかして、今の私と変わってないんじゃない? 
 なにをしたらいいのかわかんないって、大人の私がまだ悩んでたら……

 ……なんか、自分を見るのがこわくなってきた。
 信号が青になって、とぼとぼ歩き出す。
 自分の家に大人の私を見に行くのも、なんだか気がすすまなくなってきた。
 ゆりちゃんみたいに、夢をかなえてる自分なんて想像できない。
 力なく歩いてたら、いつの間にか公民館の前まで来ていた。
 公民館のとなりにある、小さな木造の建物。
 早瀬剣道教室と書かれた看板を目にして、私は足を止めた。

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