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1章
思いのちがい
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「できない……って、どうして」
「あきらめた方がいいよ。もうここは廃校が決まるってウワサだし」
「え……廃校が……決まる?」
ドクンと心臓がイヤな音をたてた。
「今度、市の委員会が視察に来て、廃校にするかどうか決めるって話だよ」
「そんな……」
手や足先の血がサーッと引いていく。
廃校……まさか、こんなに早く話が進んでたなんて。
「ごめん。入学したところなのに、こんな話して」
早玖がポンとわたしの肩を優しくたたいた。
わたしと早玖の間を冷たい風が通り抜ける。
しばらく沈黙の時間が流れて、木の葉がゆれる音がやけに大きく聞こえた。
早玖が気まずそうに、前髪をかきあげた。
早玖、手も大きくなったな。指も長い。
「あのさ、早玖……覚えてる?」
言うと、早玖が「何を?」というようにわたしの目を見た。
「ここでじいちゃんと一緒に、演奏したでしょ? 早玖が三味線でわたしが箏で」
「あぁ……そうだっけ。よく覚えてないな。おれ、もう弾いてないし」
早玖はわたしから目をそらして、ケヤキの木を見上げた。
ぱきっ。
自分の奥底で何かが割れるような感じがして、きゅっとくちびるをかむ。
……そうだよね。あれから何年も経ってるし、中学生になったらいそがしいし。楽器続けるのって大変だし。
そう自分に言い聞かせる。だけど、なんだろう? わたし、ショック受けてる?
「……るりは今も弾いてるの?」
早玖の声に我に返った。
「えっと。うん。時々気が向いたら家で弾いてるよ。おばさんのお古を貸してもらってるの。あのっ、あのね」
ゆれた気持ちをごまかすように、すうっと息を吸い込んだ。
「わたし、またここで早玖と一緒に弾きたいと思ってるんだ。昔みたいに!」
思い切って言うと、早玖がゆっくりまばたきをした。
「わたしね。音が風にのって飛んでいく感覚が大好きだったの。早玖も久しぶりにここで弾いたら思い出すと思うんだ。だからまた一緒に……」
「それはできないかもな」
「え」
「廃校工事の時に、この丘も更地にするらしいよ」
「この丘まで……?」
自分の声が遠くに感じる。
そんな……。この場所までなくなっちゃうの?
胸の奥をイヤな痛みが走って、ぐっと指先をにぎりこんだ。
「早玖はイヤじゃないの? この学園が廃校になることも丘がなくなることも」
きくと、早玖は静かに目をふせた。
「……仕方ないんじゃないか? 大人が決めることに、おれたちが口出ししたってムダなだけだし」
「そ、そんなことないよ! 先生に言ったら何とかしてくれるかもしれないよ。それに中学校は生徒会もあるでしょ? みんなで意見を出したら……」
「無理だよ。今のおれたちは何もできない」
急にぴしゃりと言われて、言葉が喉につまる。
何それ。あー。なんか、だんだん腹が立ってきた。
どうして? 無理とか仕方ないとか。
「何もできないって、どうして決めつけてるの? わたしはあきらめない。じいちゃんの学園を取り戻すんだから」
「……るり、余計なことはするな。もし、ここがイヤなら転校すればいい」
転校……? イヤならって、逃げろってこと?
それよりも、何よりも。早玖は……早玖にとってこの場所は大事じゃないの?
問いかけるように早玖の顔を見るけど、冷めたような目を返してくるだけ。
また、沈黙の時間になっちゃって、うううっ、もう!
「早玖のバカっ」
がまんできなくて、怒鳴りつけて走り出した。
丘を下っていく間も心臓がドキドキとうるさい。
なによなによ。せっかく久しぶりに会えて、うれしかったのに。
わたしと一緒で早玖はここが大事な場所なんだって思ってたのに。
協力してくれるって思ったのに!
早玖ってあんな冷たいこと言う子だったっけ?
「……いやだよ。ここがなくなっちゃうなんて」
校舎も、体育館も、丘も、じいちゃんとの思い出も消えちゃう。
泣きそうになる気持ちを押さえて、無我夢中で走った。
「あきらめた方がいいよ。もうここは廃校が決まるってウワサだし」
「え……廃校が……決まる?」
ドクンと心臓がイヤな音をたてた。
「今度、市の委員会が視察に来て、廃校にするかどうか決めるって話だよ」
「そんな……」
手や足先の血がサーッと引いていく。
廃校……まさか、こんなに早く話が進んでたなんて。
「ごめん。入学したところなのに、こんな話して」
早玖がポンとわたしの肩を優しくたたいた。
わたしと早玖の間を冷たい風が通り抜ける。
しばらく沈黙の時間が流れて、木の葉がゆれる音がやけに大きく聞こえた。
早玖が気まずそうに、前髪をかきあげた。
早玖、手も大きくなったな。指も長い。
「あのさ、早玖……覚えてる?」
言うと、早玖が「何を?」というようにわたしの目を見た。
「ここでじいちゃんと一緒に、演奏したでしょ? 早玖が三味線でわたしが箏で」
「あぁ……そうだっけ。よく覚えてないな。おれ、もう弾いてないし」
早玖はわたしから目をそらして、ケヤキの木を見上げた。
ぱきっ。
自分の奥底で何かが割れるような感じがして、きゅっとくちびるをかむ。
……そうだよね。あれから何年も経ってるし、中学生になったらいそがしいし。楽器続けるのって大変だし。
そう自分に言い聞かせる。だけど、なんだろう? わたし、ショック受けてる?
「……るりは今も弾いてるの?」
早玖の声に我に返った。
「えっと。うん。時々気が向いたら家で弾いてるよ。おばさんのお古を貸してもらってるの。あのっ、あのね」
ゆれた気持ちをごまかすように、すうっと息を吸い込んだ。
「わたし、またここで早玖と一緒に弾きたいと思ってるんだ。昔みたいに!」
思い切って言うと、早玖がゆっくりまばたきをした。
「わたしね。音が風にのって飛んでいく感覚が大好きだったの。早玖も久しぶりにここで弾いたら思い出すと思うんだ。だからまた一緒に……」
「それはできないかもな」
「え」
「廃校工事の時に、この丘も更地にするらしいよ」
「この丘まで……?」
自分の声が遠くに感じる。
そんな……。この場所までなくなっちゃうの?
胸の奥をイヤな痛みが走って、ぐっと指先をにぎりこんだ。
「早玖はイヤじゃないの? この学園が廃校になることも丘がなくなることも」
きくと、早玖は静かに目をふせた。
「……仕方ないんじゃないか? 大人が決めることに、おれたちが口出ししたってムダなだけだし」
「そ、そんなことないよ! 先生に言ったら何とかしてくれるかもしれないよ。それに中学校は生徒会もあるでしょ? みんなで意見を出したら……」
「無理だよ。今のおれたちは何もできない」
急にぴしゃりと言われて、言葉が喉につまる。
何それ。あー。なんか、だんだん腹が立ってきた。
どうして? 無理とか仕方ないとか。
「何もできないって、どうして決めつけてるの? わたしはあきらめない。じいちゃんの学園を取り戻すんだから」
「……るり、余計なことはするな。もし、ここがイヤなら転校すればいい」
転校……? イヤならって、逃げろってこと?
それよりも、何よりも。早玖は……早玖にとってこの場所は大事じゃないの?
問いかけるように早玖の顔を見るけど、冷めたような目を返してくるだけ。
また、沈黙の時間になっちゃって、うううっ、もう!
「早玖のバカっ」
がまんできなくて、怒鳴りつけて走り出した。
丘を下っていく間も心臓がドキドキとうるさい。
なによなによ。せっかく久しぶりに会えて、うれしかったのに。
わたしと一緒で早玖はここが大事な場所なんだって思ってたのに。
協力してくれるって思ったのに!
早玖ってあんな冷たいこと言う子だったっけ?
「……いやだよ。ここがなくなっちゃうなんて」
校舎も、体育館も、丘も、じいちゃんとの思い出も消えちゃう。
泣きそうになる気持ちを押さえて、無我夢中で走った。
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