和ごころシンフォニー

森野ゆら

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3章

涼やかな音色

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 日当たりのいい南側の庭園。
 石畳があって、松の木が雄々しく生えていてここは鯉が泳ぐ池……だった。
 今は、松の木が茶色く枯れて、目の前にはゴミが泳いでる。

「きのう、とったのになぁ」

 誰もいない用務員室から取ってきた網をくぐらせると、お菓子の袋や紙ゴミがたくさんとれた。
 おおー、大漁……いや、大量だね。 
 水はドロドロに濁っていて、生き物が住めそうにない。
 昔は、ここにいた鯉たちに名前をつけて、よく眺めてたっけ。
 小さな鯉の成長を見るのが楽しかったり、エサをやりすぎてじいちゃんに怒られたり。
 早玖は茶色のブチ模様の鯉がお気に入りで、「ブッチー」って呼んでエサをあげてたなぁ。

 ……あの時は、早玖と仲良しだったのに。
 わたしと遊んだこと、もうどうでもいいのかな。
 わたしは、けっこうキラキラした大切な思い出だったのにな。
 早玖と一緒に遊ぶのは楽しくて、今日も来るかなって会いたくて。
 はぁ。ダメだ。ため息がでるよ。
 黒と緑の水面に映る、わたしの暗い顔。
 小石がぽちゃんと入って、水面がゆれたその時。

「……?」

 何かきこえる。どこからかきこえてくる、笛みたいな音。
 この音……尺八? 
 思わず立ち上がった。
 一瞬、じいちゃんのことを思い出してどきっとする。
 いや、ちがう。たぶんこれは、ちがう楽器。
 網を置いて、じーっと耳をすます。
 こっちだ。音色がきこえる方へ急いでかけだした。
 庭園を出て、武道館を横切り、プールの奥へ。
 音はどんどん近くなってくる。
 背丈ほどある雑草が壁みたいに生えていて、向こうからきれいな旋律がきこえてくる。
 なんていう曲だろう? 洋風っぽい、ファンタジーな雰囲気がするけど。
 この楽器、もしかしてフルートかな?
 雑草をかき分けようと足を踏み出したら、枝を踏んでぱきっと音が鳴った。
 音がぴたりと止まる。
 ガタガタっ、ぱこん。片づける音がした後、すぐに、走り出す気配がした。

「ま、待って!」

 急いで雑草の壁をより分けて抜け出す。
 でも、その先にはもうだれもいなかった。
 小花のついた草がたくさん生えていて、その向こうには塀が立ってる。
 この塀を乗り越えて、行っちゃったのかな。

「誰だったんだろう」

 とてもすてきな音色だったけど。
 こんな学園のすみっこで吹いていたってことは、人目を忍んでたってことだよね。
 そういえば、こっそり手芸やってる人たちがいるとか生徒会の人も言ってたっけ。
 じゃあ、今、ここにいた人も生徒会に見つからないように、楽器を演奏してたってこと?
 胸がとくんと小さく鳴った。
 いるんだ。この学園でも、自分のやりたいことをやろうとしてる人が。
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