和ごころシンフォニー

森野ゆら

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3章

お茶をいっぷく

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 短いサラサラの黒髪に、くりっとした目。
 小柄で制服が少しだぼっとしてる。でも、袖から黄色の和柄がのぞいてるから二年生だ。
 釜みたいなものの前に座った男の子はちょっとびっくりしたように、わたしを見つめていた。

 ああっ。ここ、もしかして茶室? 離れ屋にあった茶室と似てるもん。
 じいちゃん、ここにも茶室を作ってたなんて!
 あ、それよりも。ここからどうするんだっけ。
 そうだ。金髪男子は掛け軸のところまで行ってたよね。
 よし、そこで座って礼をすればいいのか!
 畳の上を歩きだしてハッとする。
 そうだ、へりを踏むなって言ってたっけ。へりって、この緑の畳のフチについた布だよね。
 もう少しで踏みそうになっていた足を寸前でよけ、つんのめりながら前へと歩く。
 ちょっと金髪男子が笑った気がしたけど、無視。
 掛け軸の前まで来て、静かに座った。
 掛け軸にはつぼみがついた木みたいな絵が描いてあって、花器には、長細い葉っぱとよく野原で見るピンクの花が生けてある。
 一礼して立ち上がり、ぴたっと止まる。で。ここからどこに行けばいいの?
 金髪男子を見ると、ポンポンと自分のとなりの畳をたたいた。
 よし。そこに座ればいいんだね。
 金髪男子のとなりに座ると、ちょうど正面が黒髪男子のいる方になった。
 目が合うと、黒髪男子がにこっと笑ってくれた。
 うわ。かわいい。あ、でも一つ上の先輩だっけ。
 黒髪男子の前には、壺みたいなものとか、お茶碗とか、ホウキのミニ版みたいな道具が並べられてる。
 黒髪男子はお茶碗や黒いころんとした入れ物を置き直した。
 スッと出してきたのは、赤い布。
 三角に折ったり、長細くしたりしてたたんで、入れ物や木の棒をふいたりしてる。
 道具を置いたり、布を折ったりという動作がとっても美しくて、ついつい魅入ってしまう。
 布を添えて釜のふたを開けると、ふわっと湯気が立ちのぼった。
 ひしゃくみたいなものを使ってお湯を茶碗に入れる。
 トポトポトポという音がとてもきれいに部屋に響く。
 静かな中で、心地よい音の波紋が広がる。
 お湯を他の器に移す音。シャカシャカと混ぜる音。
 茶道ってよく知らないけど、難しそうでかっこいい。
 順番とか全部覚えてるのかな。
 わたしだったら覚えられるかな? って思ってたら、足が痛くなってきた。
 うう。びりびりする。そっか。しびれるって言ってたのは、足のことか。
 足のしびれと格闘してると、お茶のにおいがふわっと漂ってきた。
 黒い入れ物から、お茶をすくって、お湯をいれて……
 また、シャカシャカといい音が聞こえてきた。
 しばらくすると、黒髪男子がわたしの前に来て、お茶碗を静かに置いてくれた。
 ええと。これ、どうするんだっけ?
 小さい頃、じいちゃんがお茶をたててくれて、一回飲んだことあるんだよね。
 ええと。この時、何か言ってた。確か……

「お点前ちょうだいいたします」

 ふわっと思い出して、自然に言葉になった。
 一礼をしてお茶碗を手に取った。
 たしか、自分の方にまわすんだよね。二回? 三回だっけ?
 くるくるとまわして、口にしてみた。
 に、にがっ。でも、喉かわいてたからぐびぐびいける!
 ぐぐーっと一気に飲み干して、お茶碗を畳に置くと、

「ぶはっ」

 横に座ってる金髪男子が吹き出した。

「な、なに?」

「ごめん、ごめん。豪快やな思って。口のまわり緑になっとるし」

「ひえっ?」

 黒髪男子がそっとわたしの口元に手を伸ばし、やわらかい紙でふいてくれた。

「三回くらいにわけて飲むといいよ」

 黒髪男子が優しく笑ってくれて、金髪男子が横でぎゃはぎゃは笑ってる。
 えーっと。何この状況?
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