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3章
ミドリくんと月都くん
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キッチンのある部屋に戻ったわたしは、長机の前に座っていた。
金髪男子が鼻歌を歌いながら、洗い物をしてる。
部屋を見まわしてたら、黒髪男子がやってきた。
「いやー、びっくりしたなぁ。急に女の子が入ってきたから」
「あ、すみません。突然、お邪魔して」
「ううん。いいんだよ。お客さんが来るなんて思わなかったから。あ、そうだ」
黒髪男子は部屋のすみにある戸棚に行って、何かを持ってきてくれた。
「ごめんね、さっき用意してなかったら出せなくて。はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」
机に出されたのは、和菓子。
淡いグリーンに黄色の小花がついた和菓子が黒い器にちょこんとのってる。
「うわー、和菓子だぁ」
「うん。菜の花をイメージした和菓子だよ。口に合えばいいんだけど」
「月都の家は和菓子屋さんやねん。ほら、この学園に来るまでの坂道をおりたところにある……」
金髪男子がぬれた手をハンカチでふきながらやってきて、わたしの正面に座った。
この学園の近くで坂道をおりたところ……
「あーーーっ、知ってる! もしかして月都和菓子店?」
こくっと黒髪男子がうなずいた。
「知ってくれてるなんてうれしいな」
「知ってるも何も。じいちゃんがいつも買ってきてくれてたの。わたし、小さい時からここのお店の和菓子が大好きで」
「へぇ。うれしいな。おじいさん、常連さんだったのかな?」
「うん。昔、じいちゃんが文化部のみなさんに差し入れしてたの。あ、じいちゃんっていうのは、この学園の前の学園長で……」
「えっ、留五郎さん?」
黒髪男子がびっくりしたように声を大きくした。
「うん。じいちゃんを知ってるの?」
「知ってるよ。うちの店によく来てたから。そっか。だから、ミドリくんが連れてきたのか」
納得がいったように黒髪男子が言うと、金髪男子が「ちゃうちゃう」って手を横に振った。
「前の学園長の孫とは知らんかったで。この子、離れの小屋に茶室があるの、知っとってな。掃除してくれとってん。茶道のことも大事に思ってくれてそうやから、大丈夫やと思て」
うなずいて「なるほど」と言った黒髪男子は、ぴっと背すじを伸ばした。
「ぼくは二年の月都薫単語。さっき言ったとおり、月都和菓子屋の息子だよ」
「ほいほーい。おれは三年の川村翠。ミドリって呼んでくれてええで。さっきは無理に引っ張ってきてごめんな」
「わたしは一年の北川るりです。あの……。月都くんとミドリくんはどうしてここで茶道をしてるの?」
「見てのとおり、おれたちはここで茶道の活動をしてるんや。こっそりな」
「こっそり……」
「ウワサで知ってると思うけど、部活動らしいことをすると、生徒会に目をつけられるんだ。だから、見つからないようにここで茶道部の活動をやってる」
「すごいやろ、この部屋。おれと月都は『地下の茶の間』って呼んでる。絶対見つからへんと思うわ」
ミドリくんが胸を張ると、月都くんがぴっと人差し指を立てた。
「ミドリくん、油断は禁物だよ。生徒会や学園長に知られたら終わりだ。何人も退学になってきたの、見てきただろ?」
「そうやな」
「あの、どうしてそこまでして茶道をしてるんですか?」
きくと、ミドリくんと月都くんが顔を見合わせた。
「だって、おもんないやろ」
「そうそう。中学生活、ただただ学園に来て、時間を過ごすだけなんてね。体育祭や文化祭のイベントもないし。何かをやりたいって思うんだよ」
「おれ、この小屋で授業バックレとったら、偶然地下の茶室見つけてな。道具もそろっとったし、びっくりしたわ」
そりゃあ、びっくりだよね。
わたしだって、じいちゃんに何も聞いてなかったから驚いたもん。
「昔、ばーちゃんが一回だけ連れて行ってくれたお茶席思い出してなぁ。茶道やるの、おもろそうやなって思ったんやけど、何も知らんし……」
ミドリくんが和菓子を切って、一口食べる。
「で、好物の和菓子買いにいったら、ちょうど月都がおってな。隠された茶室があるって話したら、ほな、そこで茶道やろうってなってん」
「月都くんは茶道してたの?」
「うん。ちょっとだけうちのおじいさんに教えてもらってたんだ。そうそう。うちのおじいさん、留五郎さんと同級生で仲良かったんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。だから、留五郎さんが亡くなったってきいて、かなり落ち込んでた」
「そっかぁ」
そう言えば、じいちゃん、しょっちゅうお店に遊びに行ってたっけ。
和菓子が好きだからかと思ってたら、月都くんのおじいちゃんに会いに行ってたんだね。
「北川さん、入学してびっくりしたやろ?」
「うん。ウワサには聞いてたけど、これほどひどいとは思わなかった。廃校の話もあるって言うし……」
廃校……。やっぱり悪いウワサが、市の委員会とかえらい人の耳に入ったんだろな。
下を向いてると、月都くんがトンとわたしの肩をたたいた。
「でも、今すぐ廃校にはしないと思うよ」
「どうして?」
「学園長は宝を探してるから」
金髪男子が鼻歌を歌いながら、洗い物をしてる。
部屋を見まわしてたら、黒髪男子がやってきた。
「いやー、びっくりしたなぁ。急に女の子が入ってきたから」
「あ、すみません。突然、お邪魔して」
「ううん。いいんだよ。お客さんが来るなんて思わなかったから。あ、そうだ」
黒髪男子は部屋のすみにある戸棚に行って、何かを持ってきてくれた。
「ごめんね、さっき用意してなかったら出せなくて。はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」
机に出されたのは、和菓子。
淡いグリーンに黄色の小花がついた和菓子が黒い器にちょこんとのってる。
「うわー、和菓子だぁ」
「うん。菜の花をイメージした和菓子だよ。口に合えばいいんだけど」
「月都の家は和菓子屋さんやねん。ほら、この学園に来るまでの坂道をおりたところにある……」
金髪男子がぬれた手をハンカチでふきながらやってきて、わたしの正面に座った。
この学園の近くで坂道をおりたところ……
「あーーーっ、知ってる! もしかして月都和菓子店?」
こくっと黒髪男子がうなずいた。
「知ってくれてるなんてうれしいな」
「知ってるも何も。じいちゃんがいつも買ってきてくれてたの。わたし、小さい時からここのお店の和菓子が大好きで」
「へぇ。うれしいな。おじいさん、常連さんだったのかな?」
「うん。昔、じいちゃんが文化部のみなさんに差し入れしてたの。あ、じいちゃんっていうのは、この学園の前の学園長で……」
「えっ、留五郎さん?」
黒髪男子がびっくりしたように声を大きくした。
「うん。じいちゃんを知ってるの?」
「知ってるよ。うちの店によく来てたから。そっか。だから、ミドリくんが連れてきたのか」
納得がいったように黒髪男子が言うと、金髪男子が「ちゃうちゃう」って手を横に振った。
「前の学園長の孫とは知らんかったで。この子、離れの小屋に茶室があるの、知っとってな。掃除してくれとってん。茶道のことも大事に思ってくれてそうやから、大丈夫やと思て」
うなずいて「なるほど」と言った黒髪男子は、ぴっと背すじを伸ばした。
「ぼくは二年の月都薫単語。さっき言ったとおり、月都和菓子屋の息子だよ」
「ほいほーい。おれは三年の川村翠。ミドリって呼んでくれてええで。さっきは無理に引っ張ってきてごめんな」
「わたしは一年の北川るりです。あの……。月都くんとミドリくんはどうしてここで茶道をしてるの?」
「見てのとおり、おれたちはここで茶道の活動をしてるんや。こっそりな」
「こっそり……」
「ウワサで知ってると思うけど、部活動らしいことをすると、生徒会に目をつけられるんだ。だから、見つからないようにここで茶道部の活動をやってる」
「すごいやろ、この部屋。おれと月都は『地下の茶の間』って呼んでる。絶対見つからへんと思うわ」
ミドリくんが胸を張ると、月都くんがぴっと人差し指を立てた。
「ミドリくん、油断は禁物だよ。生徒会や学園長に知られたら終わりだ。何人も退学になってきたの、見てきただろ?」
「そうやな」
「あの、どうしてそこまでして茶道をしてるんですか?」
きくと、ミドリくんと月都くんが顔を見合わせた。
「だって、おもんないやろ」
「そうそう。中学生活、ただただ学園に来て、時間を過ごすだけなんてね。体育祭や文化祭のイベントもないし。何かをやりたいって思うんだよ」
「おれ、この小屋で授業バックレとったら、偶然地下の茶室見つけてな。道具もそろっとったし、びっくりしたわ」
そりゃあ、びっくりだよね。
わたしだって、じいちゃんに何も聞いてなかったから驚いたもん。
「昔、ばーちゃんが一回だけ連れて行ってくれたお茶席思い出してなぁ。茶道やるの、おもろそうやなって思ったんやけど、何も知らんし……」
ミドリくんが和菓子を切って、一口食べる。
「で、好物の和菓子買いにいったら、ちょうど月都がおってな。隠された茶室があるって話したら、ほな、そこで茶道やろうってなってん」
「月都くんは茶道してたの?」
「うん。ちょっとだけうちのおじいさんに教えてもらってたんだ。そうそう。うちのおじいさん、留五郎さんと同級生で仲良かったんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。だから、留五郎さんが亡くなったってきいて、かなり落ち込んでた」
「そっかぁ」
そう言えば、じいちゃん、しょっちゅうお店に遊びに行ってたっけ。
和菓子が好きだからかと思ってたら、月都くんのおじいちゃんに会いに行ってたんだね。
「北川さん、入学してびっくりしたやろ?」
「うん。ウワサには聞いてたけど、これほどひどいとは思わなかった。廃校の話もあるって言うし……」
廃校……。やっぱり悪いウワサが、市の委員会とかえらい人の耳に入ったんだろな。
下を向いてると、月都くんがトンとわたしの肩をたたいた。
「でも、今すぐ廃校にはしないと思うよ」
「どうして?」
「学園長は宝を探してるから」
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