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6章
早玖の三味線
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川面がキラキラしてとってもきれい。
おつかいをすませて、川沿いを歩いていると、心地よい風が吹いてきた。
文化祭まであと三週間弱。
あれから、学園長から「お茶でもしましょう」ってお誘いが何回かあったけど、文化祭の用意や練習がいそがしいって理由で断った。
「まぁ、そんなに大変なの? さぞかし立派な文化祭になりそうね。期待してるわ」って、嫌味っぽく言われたけど。
はー。今度こそは完璧に弾けるようにならないとな。
どうしても同じところをまちがっちゃうんだよね。
中指と親指で同時に弾く合わせ爪の前。
グッと弦を押して一音を上げる押し手の所。
苦手だって思ってるところは、やっぱり指も動かない。
でも、正直、また一人で弾くのかって思ったら不安。
学園長の部屋で弾いたあの時間を思い出すと、きゅっと胸が苦しくなる。
桜宮さんが協力するって言ってくれて、ミドリくんも走りまわってくれて。
自分もがんばらなきゃって思ったのに。
こわい。弾くのが。
だって、学園長や生徒会の他に視察の人もいる。あの時よりもっと大勢の前で弾くんだ。
そのことを考えただけで、高い所から下を見た時みたいに、すくむような気持ちになる。
川沿いの公園には、小さい子がいる家族や、小学生たちが遊んでる。
その中を歩いていく一人の男子が見えた。
背中に長細い黒いバッグを背負っていて、早足で歩いていく。
あ。……早玖だ。
どきっと胸が鳴る。
どこに行くんだろう。しかも、あの背中のバッグって……
早玖は、河川敷の公園を通りぬけて、橋の方へ歩いていく。
き、気になる。
土手の階段を下りて、早玖の後を追った。
見つからないように、距離を取って追いかける。
早玖は橋の近くにあるベンチにカバンを置くと、中身を出し始めた。
そっと近くの木の陰に隠れて様子をうかがう。
あ! 三味線だ。
早玖は三味線を構えてチューニングを始めた。左手で弦を押しながら、音を合わせてる。
撥っていうイチョウの葉っぱみたいなものを右手で持って、手首を動かしてウォーミングアップを始めた。
そう言えば、早玖は家にあったっていう三味線を持ってきて、おじいちゃんに教えてもらってたっけ。あの頃はまだ身長も低くて手も小さくて、構えるのも弾くのもいっぱいいっぱいだったのに。
あの時からずいぶん背が伸びて、さまになってる。
ぼんやり見てると、曲が始まった。
ゆっくり確かめるように弾いたり、一音一音、高さを調整したり。
メロディを弾き始めたけど、まちがえたみたいで顔をしかめた。
きゅっと眉が上がって、くちびるをひきつらせる。
ふふっ。昔と変わってない。まちがえたら、すごく悔しそうな顔をするんだよね。
しばらく同じフレーズを練習していたけど、一回、深呼吸して肩の力をぬき、ちがう曲を弾き始めた。
ちょっとアップテンポな現代っぽい曲。
棹って呼ばれてる長細いところを左手がいそがしく動く。
なつかしい弦の音と元気な撥の音。
早玖が三味線を弾いてる。
そう思うだけで、心がきゅうっと熱くなってくる。
何の曲かは分からないけど、勢いがある旋律に気持ちがたかぶってくる。
弾き終わった後、早玖は息をふうっと吐いてベンチに腰かけた。
声……、かけてみようか?
一瞬、迷う。でも、早玖はもう昔の早玖じゃない。
学園長の味方だし、生徒会の一員。わたしのこと、助けてくれなかったし。
話すことなんて……ない。
帰ろう。そう思ってきびすを返した時、
おつかいをすませて、川沿いを歩いていると、心地よい風が吹いてきた。
文化祭まであと三週間弱。
あれから、学園長から「お茶でもしましょう」ってお誘いが何回かあったけど、文化祭の用意や練習がいそがしいって理由で断った。
「まぁ、そんなに大変なの? さぞかし立派な文化祭になりそうね。期待してるわ」って、嫌味っぽく言われたけど。
はー。今度こそは完璧に弾けるようにならないとな。
どうしても同じところをまちがっちゃうんだよね。
中指と親指で同時に弾く合わせ爪の前。
グッと弦を押して一音を上げる押し手の所。
苦手だって思ってるところは、やっぱり指も動かない。
でも、正直、また一人で弾くのかって思ったら不安。
学園長の部屋で弾いたあの時間を思い出すと、きゅっと胸が苦しくなる。
桜宮さんが協力するって言ってくれて、ミドリくんも走りまわってくれて。
自分もがんばらなきゃって思ったのに。
こわい。弾くのが。
だって、学園長や生徒会の他に視察の人もいる。あの時よりもっと大勢の前で弾くんだ。
そのことを考えただけで、高い所から下を見た時みたいに、すくむような気持ちになる。
川沿いの公園には、小さい子がいる家族や、小学生たちが遊んでる。
その中を歩いていく一人の男子が見えた。
背中に長細い黒いバッグを背負っていて、早足で歩いていく。
あ。……早玖だ。
どきっと胸が鳴る。
どこに行くんだろう。しかも、あの背中のバッグって……
早玖は、河川敷の公園を通りぬけて、橋の方へ歩いていく。
き、気になる。
土手の階段を下りて、早玖の後を追った。
見つからないように、距離を取って追いかける。
早玖は橋の近くにあるベンチにカバンを置くと、中身を出し始めた。
そっと近くの木の陰に隠れて様子をうかがう。
あ! 三味線だ。
早玖は三味線を構えてチューニングを始めた。左手で弦を押しながら、音を合わせてる。
撥っていうイチョウの葉っぱみたいなものを右手で持って、手首を動かしてウォーミングアップを始めた。
そう言えば、早玖は家にあったっていう三味線を持ってきて、おじいちゃんに教えてもらってたっけ。あの頃はまだ身長も低くて手も小さくて、構えるのも弾くのもいっぱいいっぱいだったのに。
あの時からずいぶん背が伸びて、さまになってる。
ぼんやり見てると、曲が始まった。
ゆっくり確かめるように弾いたり、一音一音、高さを調整したり。
メロディを弾き始めたけど、まちがえたみたいで顔をしかめた。
きゅっと眉が上がって、くちびるをひきつらせる。
ふふっ。昔と変わってない。まちがえたら、すごく悔しそうな顔をするんだよね。
しばらく同じフレーズを練習していたけど、一回、深呼吸して肩の力をぬき、ちがう曲を弾き始めた。
ちょっとアップテンポな現代っぽい曲。
棹って呼ばれてる長細いところを左手がいそがしく動く。
なつかしい弦の音と元気な撥の音。
早玖が三味線を弾いてる。
そう思うだけで、心がきゅうっと熱くなってくる。
何の曲かは分からないけど、勢いがある旋律に気持ちがたかぶってくる。
弾き終わった後、早玖は息をふうっと吐いてベンチに腰かけた。
声……、かけてみようか?
一瞬、迷う。でも、早玖はもう昔の早玖じゃない。
学園長の味方だし、生徒会の一員。わたしのこと、助けてくれなかったし。
話すことなんて……ない。
帰ろう。そう思ってきびすを返した時、
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