スパイラル・ワープ!

森野ゆら

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5章

2 地図記号

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 居間に通されて、小さなローテーブルの前に座った。
 きちんと片付けられた部屋。むつ子さんがいた時のままだ。
 向かいにある木のイスにむつ子さんが座って、よく本を読んでたなぁ。
 なつかしさにひたってると、階段をおりる音がして、香さんが入ってきた。

「母の部屋を整理してたら、写真が出てきたのよ。これ、ひなりちゃんでしょ? それからこっちは瑞希くん」

 香さんが指さしてるのは、小学二年生の私と瑞希。
 あ、これ。ぶどう狩りに行った時の写真だ。
 瑞希がとれたてのぶどうを持って笑顔でポーズしてて、私はハムスターみたいに頬をふくらませて、ぶどうをモグモグ食べてる。
 その横で目がなくなりそうなくらい笑ってるのは、むつ子さんだ。

「あ、そういえば、ぶどう食べたの覚えてる! すっごく甘くておいしかったんだよね」

「母さんもうれしそうに笑ってるわねぇ」

 香さんがなつかしそうに、優しく笑った。

「ひなりちゃん、この写真もらってくれる? しまいこんでるの、もったいないし」

「えっ、いいの?」

「もちろん」

 香さんがにっこりうなずいて、写真を渡してくれた。
 手に取って見ると、ますますその時の情景が頭に浮かんできた。
 木陰で食べたぶどうが甘くて、暑さを忘れるくらいおいしかったっけ。

「ここ、花もきれいだったわよね? 私も息子を連れて行ってみようかな。なんていう所だったっけ?」

「ええと、確か……星山フルーツ公園だったかな」

「星山……どこかしら? 確か、引き出しに地図があったわね」

 香さんがタンスの引き出しを開けて地図を出してきた。
 地図をテーブルに広げた香さんが、指でたどってフルーツ公園の文字を探す。

「星山、星山……あ、あった。へぇ。意外と近くにあったんだ。電車で行く方が便利よさそうね。今度の休みに行ってみようかしら」

「うん。広くてちょっとした遊具もあったよ。ぶどう狩りじゃないシーズンでも、お花がきれいだし、ピクニックにはオススメ!」

 ……と、地図を見ながらふと、気がついた。

「あ、あれ……これ」

 この星山フルーツ公園についてる、丸に棒がついてるこのマーク。
 これ……似てる。何かに。なんだっけ?
 ええっと、どこかで見たよね。
 そうだ!
 サイリのメモデータにあったあの記号だ!

 〇-のマーク。

 これをくるっとひっくり返すと、地図に書いてある記号と一緒だ!

「あのっ、このマークって」

「あぁ、果樹園の地図記号ね」

 香さんがそんなのもあったわねーと笑った。
 果樹園! そう言えば、小学生の時に習った!(気がする)
 それがサイリのメモにあったってことは……
 もしかして、サイリはここにスパイラルを作ろうとしてるのかも! 
 気づいたら、いてもたってもいられなくて立ち上がった。

「香さん、ありがとっ。私、ちょっと用を思い出した!」

「え? そうなの? ごめんね、呼び止めちゃって」

「ううん。写真ありがと! おじゃましましたー!」

 あわててむつ子さん家を飛び出した。
 リゼに教えなきゃ! この辺りで果樹園って言えば、星山フルーツ公園しかないもん。
 サイリがスパイラルを作ろうとしてる場所候補、その1だ!
 早く伝えなきゃ!
 ……って、あれ。リゼって普段はどこにいるんだっけ?
 どこかのマンションに住んでるって言ってたけど……どこ?

 交差点に来て、いったん立ち止まる。
 とりあえず、手に持ったままだった写真をポシェットに入れたら、中でコロンと青いブローチがころがった。
 あ、そっか。こういう時にリゼからもらった通信機を使えばいいんだ!
 ポシェットから通信機を出して、青のボタンをピッと押した。
 だけど、ジジジジッって言うだけで通信機が通じない。

「もうっ、使えないじゃん、この通信機」

 通信機をポシェットに再びつっこんで、はぁっと息をつく。
 とりあえず、一人だけど星山フルーツ公園に行ってみようか。
 果樹園にスパイラルがあるかどうか確認してから、リゼに報告しよう!
 きゅっとポシェットの紐をにぎりしめて、駅に向かった。
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