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7章
4 サイリの目的
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かすかに聞こえる重低音は、水族館の奥から。
展示室を横切って、お土産屋さんと遊園地を抜けて、海岸の方へと歩いていく。
水族館の敷地の終わり。海がすぐそば。
堤防の壁際に誰かが立っていた。
手にポットのようなものを持っていて、そこから緑の液体が流れ落ちていく。
花に水をやるように、その人物は地面に緑の液体を流していた。
流れ落ちていく下には渦を巻いた小さなスパイラル。
緑の液体を吸収して、少しずつ大きくなっていく。
「河本さん!」
手に持っていたポットの先が上がって、緑の液体が止まった。
おかっぱの髪をゆらして、河本さんがゆっくりと振り返る。
「河本さんがサイリだったの?」
かけつけた私たちに、河本さんがかすかにくちびるを動かした。
「なんのこと?」
きき返してくる河本さんの表情は、機械みたいに冷たい。
「河本さん、前にこれを落としたでしょ?」
ショルダーポーチのポケットから、ネジを出して見せると、河本さんの眉がピクリと上がった。
「ひなり、なんでそれを」
リゼが驚いて、私とネジを凝視する。
「図書館で河本さんが落としたネジを私が拾ったんだ。返すの忘れてて……。それで……さっき、リゼの時間移動機のネジと同じ部品だって分かったの。だから……」
「リゼ以外に時間移動機を持ってる人は、サイリの確率が高いってことか」
瑞希が付け足すように言って、私はうなずいた。
「それ探してた。返して」
河本さんがメガネのフチを持ち上げて、私を見つめてきた。
「あなたがサイリだったら、返せない。もう一度きくけど、河本さん、あなたがサイリなの?」
「そのネジ、返して」
河本さんは私の質問は無視して、一歩、二歩と私に近づいてくる。
ダメだ。
このネジを渡したら、河本さんに時間移動して逃げられちゃう。
河本さんがもし本当にサイリだったら、これからどんどんスパイラルを作るつもりだ。
そんなの、ほっておくことなんてできないよ。
「サイリ。人工スパイラルを作った罪で、お前は時間警察に指名手配されている。おとなしく自首しろ」
リゼが私の前に立って、かばうように手を広げた。
河本さんがピタリと足を止める。
「それはできない。私の目的はまだ達成されていない」
「目的?」
リゼがきくと、河本さんがふっと口元をゆるめた。
「私の目的は……この先にある、将来を滅ぼすスパイラルをつぶすこと」
びゅうっと風が吹いて、河本さんの髪がなびいた。
「将来を滅ぼすスパイラル……?」
リゼは初めて聞いたのか、力が抜けたように広げていた両手をくたりとおろす。
「河本、どういうことだ?」
瑞希がきくと、河本さんの茶色の瞳がきゅっと濃くなった。
「……私は未来から来た。その時間修復士がいる未来よりも、もっと先の未来から」
リゼよりも未来から……?
思わず、私と瑞希はリゼを見る。
リゼは紫の目を大きくしたまま、立ちすくんでる。
「私がいた未来は、放置されていたスパイラルが爆発し、世界が混乱している」
河本さんがニュースを読むみたいに、淡々と言った。
「放置されていたスパイラル? そんなことあるわけない……おれたちが全部修復してるはずなのに」
リゼが信じられないというように、眉をひそめる。
「歴代の時間専門職たちは、見つけることができなかった。なぜならその危険スパイラルは、空間と空間の複雑な場所にできていて、どの専門家も観測できなかったから」
複雑な場所にスパイラルがあって、未来のすごい人も見つけられなかったってこと?
そのスパイラルがどんどん大きくなって、河本さんの世界は取り返しがつかなくなった……ってことなのかな?
「私は長年スパイラルを観測してきた研究員だ。危険スパイラルの可能性を指摘してきたが、時間専門職の者たちは可能性が低いとして、聞き入れてくれなかった。よって、悲劇が起きた」
河本さんがそこまで言って、うつむいた。
すぐそばから聞こえる波の音と潮のにおい。
それが遠くに感じられるくらい、ぶっ飛んだ話だ。
「滅びる寸前の世界をなんとかしたくて、この時代に来た。この時代のどこかに危険スパイラルの始まりが発生しているのを知ったから」
「だけど、どうして河本はスパイラルを作ってたんだ? 危険スパイラルを見つけるのが目的なら、スパイラルをムダに作る必要はないはずだけど」
瑞希がきくと、河本さんはメガネのつるを持ち上げながら、茶色の目をきょろっと向けた。
「最初に言った。『気づいてほしかった』と。私が作った人工的スパイラルなら、見つけやすいし、目立った行動をすれば時間警察もマークしてくれる。それにより、危険スパイラルにも気づいてもらえればと思った」
機械的に言う河本さんだけど、なんだか表情にはいつもにはない、「必死さ」が浮かんでるような気がした。
リゼと瑞希もそれを感じ取ってるのか、河本さんをじっと見つめてる。
「あと……危険スパイラルがある場所につながりそうな時間壁を探すのも目的だった。それで、やっと、見つけた。私の分析によると、このスパイラルの先の世界に危険スパイラルの元が存在する。場所は不明だ。だが……」
そう言って、河本さんが私に向き直った。
「ひなり。君なら分かるんじゃないか?」
「えっ?」
「スパイラルの音が分かるんだろう?」
展示室を横切って、お土産屋さんと遊園地を抜けて、海岸の方へと歩いていく。
水族館の敷地の終わり。海がすぐそば。
堤防の壁際に誰かが立っていた。
手にポットのようなものを持っていて、そこから緑の液体が流れ落ちていく。
花に水をやるように、その人物は地面に緑の液体を流していた。
流れ落ちていく下には渦を巻いた小さなスパイラル。
緑の液体を吸収して、少しずつ大きくなっていく。
「河本さん!」
手に持っていたポットの先が上がって、緑の液体が止まった。
おかっぱの髪をゆらして、河本さんがゆっくりと振り返る。
「河本さんがサイリだったの?」
かけつけた私たちに、河本さんがかすかにくちびるを動かした。
「なんのこと?」
きき返してくる河本さんの表情は、機械みたいに冷たい。
「河本さん、前にこれを落としたでしょ?」
ショルダーポーチのポケットから、ネジを出して見せると、河本さんの眉がピクリと上がった。
「ひなり、なんでそれを」
リゼが驚いて、私とネジを凝視する。
「図書館で河本さんが落としたネジを私が拾ったんだ。返すの忘れてて……。それで……さっき、リゼの時間移動機のネジと同じ部品だって分かったの。だから……」
「リゼ以外に時間移動機を持ってる人は、サイリの確率が高いってことか」
瑞希が付け足すように言って、私はうなずいた。
「それ探してた。返して」
河本さんがメガネのフチを持ち上げて、私を見つめてきた。
「あなたがサイリだったら、返せない。もう一度きくけど、河本さん、あなたがサイリなの?」
「そのネジ、返して」
河本さんは私の質問は無視して、一歩、二歩と私に近づいてくる。
ダメだ。
このネジを渡したら、河本さんに時間移動して逃げられちゃう。
河本さんがもし本当にサイリだったら、これからどんどんスパイラルを作るつもりだ。
そんなの、ほっておくことなんてできないよ。
「サイリ。人工スパイラルを作った罪で、お前は時間警察に指名手配されている。おとなしく自首しろ」
リゼが私の前に立って、かばうように手を広げた。
河本さんがピタリと足を止める。
「それはできない。私の目的はまだ達成されていない」
「目的?」
リゼがきくと、河本さんがふっと口元をゆるめた。
「私の目的は……この先にある、将来を滅ぼすスパイラルをつぶすこと」
びゅうっと風が吹いて、河本さんの髪がなびいた。
「将来を滅ぼすスパイラル……?」
リゼは初めて聞いたのか、力が抜けたように広げていた両手をくたりとおろす。
「河本、どういうことだ?」
瑞希がきくと、河本さんの茶色の瞳がきゅっと濃くなった。
「……私は未来から来た。その時間修復士がいる未来よりも、もっと先の未来から」
リゼよりも未来から……?
思わず、私と瑞希はリゼを見る。
リゼは紫の目を大きくしたまま、立ちすくんでる。
「私がいた未来は、放置されていたスパイラルが爆発し、世界が混乱している」
河本さんがニュースを読むみたいに、淡々と言った。
「放置されていたスパイラル? そんなことあるわけない……おれたちが全部修復してるはずなのに」
リゼが信じられないというように、眉をひそめる。
「歴代の時間専門職たちは、見つけることができなかった。なぜならその危険スパイラルは、空間と空間の複雑な場所にできていて、どの専門家も観測できなかったから」
複雑な場所にスパイラルがあって、未来のすごい人も見つけられなかったってこと?
そのスパイラルがどんどん大きくなって、河本さんの世界は取り返しがつかなくなった……ってことなのかな?
「私は長年スパイラルを観測してきた研究員だ。危険スパイラルの可能性を指摘してきたが、時間専門職の者たちは可能性が低いとして、聞き入れてくれなかった。よって、悲劇が起きた」
河本さんがそこまで言って、うつむいた。
すぐそばから聞こえる波の音と潮のにおい。
それが遠くに感じられるくらい、ぶっ飛んだ話だ。
「滅びる寸前の世界をなんとかしたくて、この時代に来た。この時代のどこかに危険スパイラルの始まりが発生しているのを知ったから」
「だけど、どうして河本はスパイラルを作ってたんだ? 危険スパイラルを見つけるのが目的なら、スパイラルをムダに作る必要はないはずだけど」
瑞希がきくと、河本さんはメガネのつるを持ち上げながら、茶色の目をきょろっと向けた。
「最初に言った。『気づいてほしかった』と。私が作った人工的スパイラルなら、見つけやすいし、目立った行動をすれば時間警察もマークしてくれる。それにより、危険スパイラルにも気づいてもらえればと思った」
機械的に言う河本さんだけど、なんだか表情にはいつもにはない、「必死さ」が浮かんでるような気がした。
リゼと瑞希もそれを感じ取ってるのか、河本さんをじっと見つめてる。
「あと……危険スパイラルがある場所につながりそうな時間壁を探すのも目的だった。それで、やっと、見つけた。私の分析によると、このスパイラルの先の世界に危険スパイラルの元が存在する。場所は不明だ。だが……」
そう言って、河本さんが私に向き直った。
「ひなり。君なら分かるんじゃないか?」
「えっ?」
「スパイラルの音が分かるんだろう?」
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