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第4話
甘い味、苦い味 (7)
しおりを挟む甘い甘い、デートになった。
撫子がエスコートをしながら入った高品質志向のスーパー。
カートを押しながらも撫子にべったりの宗一郎は物珍しさと自分でも知っているものを見つけては楽しそうに話かける。
「撫子さん、お菓子買って良い?」
「もう、子供じゃないんだから」
カートには既にちょっとした野菜などさっと茹でて食べる用のものや下処理されている肉や魚のパックが入れられていた。
次にお菓子、とポテトチップスや軽いスナックからクッキー、海外では定番だと言う軽食寄りのシリアルバーまで色々と揃っている棚を宗一郎は吟味し始める。
撫子からすれば彼は今でも可愛い子。
確かにヒグマみたいに大きいがしげしげと棚を見ている姿は昔から何も変わっていない。
「ベジタブルオーガニック商品が多いから動物性のたんぱく質や脂肪分を抑えたい時とか良いかもね」
「確かに。俺、知り合いにトレーニングメニューは作って貰ってるんですけどメシに関しては自分じゃあまりコントロール出来なくて」
人付き合いでの食事が多い宗一郎はその見た目から肉料理を出される事が多いと言う。彼自身は何でも食べるがどうやら『何でも』と言うのは『まんべんなく』の意味の方が多く含まれていた。撫子に作って貰いたい料理の中で魚料理を挙げていたのも肉や魚をまんべんなく食べたい、という意識から来るものなのかもしれない。
買い物の最後にアイスどうしよっか、と二人で縦型の冷凍ケースの前に立てば光の反射で肩を寄せている自分たちの姿を撫子は見てしまう。
これでは本当に夫婦が互いの仕事帰りに待ち合わせをして買い物来たように見える。
「これってパイントのサイズですよね」
「宗君なら一個食べちゃいそう」
「あー、高校生くらいの時それやってて流石に太ったことが」
「やったことあるんだ」
「お風呂上りのアイスは格別ですからね。でも撫子さんと食べるなら小さいやつで、色んな味のにしましょう」
いつの間にかカートは目一杯。
半分はお菓子の包装の膨らみだが結構な量になってしまった。
(まあ、いっか)
なんとなくこなれてきている宗一郎との生活。
今日は帰ったら座ってしまうよりはこのまま夕飯の支度を早めにしようかな、と考えていた矢先だった。
ドライバーが購入した荷物を積み込み、宗一郎は撫子を車内に積み込んで自身もシートに座った時。彼はぴく、と何かに勘付いたようにスーツのジャケットからスマートフォンを取り出す。どうやら誰かから直に着信があったようだった。
「親父だ」
隣に撫子がいても気にせず出てしまった宗一郎の声のトーンが会話が進むにつれてどんどん落ちて行く。通話が切られる頃には項垂れてしまっていた。
まさしく、しょんぼり。
これは夜に急遽、断れないような予定が入ったな、と勘付いた撫子の考えていた通りに「親父の名代で……行かなきゃ……」と宗一郎が呟く。
「そっか。じゃあお夕飯は明日ね」
「ええ……こればかりは」
はあ、と落ち込む彼をどう励まそうか。
車は二人の住む中層マンションへと静かに走り出すが気乗りしない宗一郎は「撫子さんのごはん……」とぐずっていた。
「うーん、宗君が今夜いないとなると……こういうのはどう?先にお肉と野菜をポトフみたいに煮込んでおくから、とか。明日は味がなじんで美味しくなってると思う」
シーズニングが買って来てあるのでそれを使ってさっぱりとしたスープを作っておけば良いし、何より撫子の明日の手間が無くなる。
「アイス食べながらまったりしたかったのに」
「それもまた明日、ね?」
二人は以前のような短すぎる一夜を過ごしている訳じゃない。
「丁寧に作っておくから楽しみにしてて」
うん、と頷く宗一郎も父親である熊井組長に未だ全くと言って良いほど逆らえない様子を見る。まあ、仕方がないのだ。龍堂と熊井が万事、合併をして博堂内部どころか関東の一大派閥にのし上がるには……。
「宗君のお父さんも元気……よね。うちの父とこんなこと企ててるくらいには」
「ええ。俺が婿に、とのことなのに恥ずかしい話ですが」
「私はこのお試しの同棲、最初のときより楽しんじゃってる。宗君とこんなに長くいること無かったから新しい発見とか色々あって」
「俺はホントにもう、撫子さんに迷惑を掛けていないかだけが」
宗一郎の移動車はマンションの前に到着し、買い込んだ物をいそいそと宗一郎が抱え、共用カートも借りずにエレベーターに乗り込んでしまう。
時間に余裕が無いのかな、とも思えないまだ夕方に差し掛かってもいない時間帯。
「アイスが溶けちゃうと悲しいですからね」
「それは確かに……っく、ふふ。駄目、宗君が可愛くて」
そして、愛しくて堪らない。
目を細める撫子に見上げられた宗一郎は「撫子さんといると子供っぽい部分が出ちゃう」と言う。
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