R18/SS 『その男は本当に■■■だったのか』

緑野かえる

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夏の二人

犬塚は会社員なのか、ヤクザなのか

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 海のある田舎の夏は鬱陶しい。
 シーズンオフは見向きもされない場所に人が溢れかえる。
 現地の人間にとってはいつものスーパーでの買い物でさえ一苦労。どこに行ったって余所者だらけで買い物はしにくいし、そもそも行き着くまでの道のりも混むし。
 今、私が訪れているのは田舎で一番大きいスーパー。どこかの大学生の一団は大声ではしゃぎ散らして男性店員から注意を受けていた。

(うるさ……)

 大型のお買い物カートを押しながらメモに書かれている食材などをカゴ二つに放り込む。

 今、私は買い出しバイトの最中だ。
 同じ市内とは言え市街地にある実家に住んでいる私とは違って海の近くに住んでいる親戚の伯父さんちにどうやらお客さんが泊まりに来るそうで。
 営業許可は取っていないけれど「知り合い」にタダで貸すテイで夏の間、バイトをしないかと数日前に連絡が来た。
 伯父さんちは少し裕福で、今は内陸側に本宅があって。海に近い土地にあったセカンドハウスのロッジを最近、内装をコンドミニアム風にリノベーションをして……だ。もとから二階建てだったけれど久しぶりに来てみれば新築と見間違えるようなおしゃれなロッジに仕上がっていた。民泊でもやればいいのに、と冗談半分で言ってみたら「やるか?」とフランクに言って来たので「考えとく」とだけ言って。

 私はつい最近、都会から逃げ帰って来た敗残兵だ。
 頑張ったんだけどね、ある程度は。都会なんて所詮は田舎者の寄せ集め、みんなが似たり寄ったりなんだ、って言い聞かせた。でも私は僅かな貯金を後生大事に握り締め、惨めにも田舎に逃げ帰ってきてしまった。
 そんな私に高額バイトを持ちかけて来たのが伯父さんだった。昔から羽振りのいい人で、でもそれなりに苦労もしていたのだと私自身が大人になってから分かった人。しみったれた田舎づきあいもあんまりしないさっぱりとした人だった。なんか、都会の人みたいだなって。

 (今回の件、本当は違法なんだろうな)

 でもまあ、誰にも喋らにゃ良いだけの話。知り合いなのは本当みたいだし。

 大型カートで大学生の集団を轢き殺す妄想をしながらその端を横切り、精肉コーナーの前で高い牛肉を放り込む。三十にもならない女の若造がぽいぽいとそのスーパーで一番高い肉をカートにぶち込んでいればじろじろと視線を喰らうのは必然。ここはそう言う田舎。
 これは伯父さんから言われたのだ。値段に糸目は付けないから良さそうな肉を買ってこい、と。

(牛脂で胃がやられそう。私は絶対に赤身派だけどね)

 美味しい赤身肉も今は食えないシケた財布の私。一枚くらいステーキ肉をちょろまかしても分からないんじゃないか?と思ってしまった買い出しだった。

 ・・・

 伯父さんに買って来た物を軽く見せてみれば「仕込みも出来るか?」と問われたので頷く。こっちで飲食のバイトをした事があるので大体は分かる。
 どうやらバーベキューセット的なのを作って欲しいらしく、スマホで上げ膳据え膳のグランピング施設のセットなどを見ながら私は見様見真似で食材の調理に取りかかる。
 伯父さんは私が買い出しに行ってる間にも掃除やリースのお布団とかのセッティングをして、今はもう外でバーベキューの支度をし始めていた。買い物以外、終始私はそのロッジのキッチンに立って支度をしていた。食中毒を出したら大変だからそりゃあもう、慎重に。

「伯父さんも少し休んで」

 途中で麦茶と少ししょっぱい系のつまみの小皿を出せば喜んでくれた。
 しかし、なのだ――伯父さんは私に今日の宿泊者が誰なのかを教えてくれない。なんか、ずっとはぐらかされている。
 お酒もさっき地元のリカーショップが配達しに来てくれたんだけど一人じゃ運べないような大きな保冷ケースに氷と缶ビール、缶チューハイがぎっしりと詰まっていた。ケースごとのリースサービスらしいけれど他にも冷えた日本酒とかも来たからすぐに冷蔵庫にしまった。

「三時、四時くらいには到着するって聞いてるから、まあ……少し驚くかもしれないが悪いようにはならねえよ」
「いや、うん。それなりにお小遣い貰っちゃったからそれ分はきっちり働くから」

 休憩している伯父さんが腕時計を確認する。
 私も調理をする前にキッチンカウンターに外して置いていたからそれをちらりと見て。午前中から買い出し、支度をしてもう昼を回っていた。私がついでに買って来たスーパーのお弁当をそれぞれ手が空いた時に食べて、それでもうあっという間。

 外の駐車場に車が入って来る音がする。
 私も伯父さんと一緒に出迎えに行ったのだけれど降りてきた人たちに言葉を失ってしまう。そんな私に伯父さんは「びっくりしただろう」と笑っていた。
 私も一応、都内にいたので新宿とか池袋とか繁華街みたいな所に夜、赴くことだって数えきれないくらいあったんだ。そんな時にたまに見かけた独特の様相の集団。

(ああああこれ絶対逃げられにゃい……)

 軍資金として前払いされたお小遣い。欲に目が眩むほどの金額ではなかったんだけどとりあえず、夏を越す為の足しにでもなればと気軽に引き受けてしまったコレはある意味闇バ、イ……。

 まあその、なんだ。何事もなく彼らにバーベキューをさせれば良い。しかしまあ、私も善良な一般人なので言い聞かせても悲しいかな、気を抜くと膝が笑いそうになったりなんかして。

「見た目はあんなんだがみんな会社員だから」

 今さらそんなん言われたって。
 出迎えた伯父さんと私に挨拶をしてくれる私と同じくらいの年齢の男性たちは普通に半袖のポロシャツにハーフパンツやら。いかつい見た目だけど肌は普通に露出しているし、和風なお絵かきは一つも見当たらない。

 ごく普通のサービス業と変わらない受け答えに見た目意外、特に怖い思いをするでもなく。
 五名の男性たちがわらわらとやってきて、私が用意しておいた食材や伯父さんが用意しておいたバーベキューセットなどを自分たちの好きなようにレイアウトし始める。
 私も一応、手伝いはしたんだけど彼らが持って来た高そうなお酒を受け取って冷やすくらいで。でも彼らの動きを見ていると今からさらに別の、もっと上の人が来るような感じで“支度”をしているようだった。

「あの、もし足りない物があったら……スーパーは夜十時まで開いてますので私が買いに」

 私の申し出にも「ありがとうございます!!」と威勢はいいけれど丁寧に返事をしてくれる。今日の私は彼らが遊び終わるまで面倒を見ることになっていた。彼らが飲み食いしている間も一緒にその場にいて片付けを同時進行でしていて構わないよ、と伯父さんに言われている。


 それで、暫くしたら本丸が来た。

「み゛っ」

 妙な鳴き声を上げてそれ以降は言葉を飲み込んだ私は平静を装いながらまた、出迎える。

「こんにちは、お世話になります」
「ヨウコソ、イラッシャイマセ……」

 爽やかな挨拶、爽やかな笑顔。
 先に来ていた五人も「御苦労様です」って言うしもうそれ、絶対にアッチの人なんじゃないか?
 それにめちゃくちゃいい匂いするし。どこの香水なんだろう。気になる。
 とりあえず営業スマイルで通した冷房の効いた室内。彼らが都内で買って来た分のお肉を受け取り、切り分ける為にダイニングキッチンに立つ私。
 私より十歳くらい離れていそうな気がする男性はソファーに腰を下ろして……髪形はきっちりと年相応のビジネススタイルだった。どうやら会社から直接来たらしくて着ているダークスーツは私の目でも分かるような高そうなヤツを纏っている。

「あの、ハンガーが上の寝室にありますので掛けるようでしたら」

 手が離せなくてすみません、と断りを入れてから室内で荷物を分けていた舎弟?の人に話し掛ければ本丸の方が「ありがとう」とにこっと笑ってくれた。普通になんか……顔が良すぎる。

 (本当はヤのつく人で、その顔に騙された女は数えきれないくらいいる、とか)

 そうじゃなくて本当に会社員だったら。非常に失礼な事を考えながらも私はもう、そう言う目で彼らを見てしまっていた。

 今、ロッジ内にいるのは軽装になった本丸とその(推定)舎弟を含めた四名。前乗りをして外で作業をしているのが五名。さらにもうすぐ三名がご到着の予定らしい。それならお酒、足りない気がする。リカーショップのレンタルケースの中身は受け取り伝票で本数も確認済みだ。てきぱきと指示をしたり私にして欲しいことを伝えてくれる人にお酒が足りないようだったら早めに、と伝えれば自分たちが持って来た分もあるけれど足りないよりは、と言う事で私が買いに……。

(行くはずだったんだけどなあ……なんだろなあ……この状況、わけわかんないなあ)

 お客様にカートを押させるわけには行かないから私が田舎で一番広いスーパーの中を再びがらがらと大型カートを押しながら案内する。その隣には“顔の良い人”と舎弟の人が一人。最少人数での行動。私も何故かほいほいと「荷物が沢山乗るから」と高級バンに同乗させて貰って。
 でも結局、スーパーの入り口にあったリカーセクションでお酒を乗せた重いカートは舎弟の人が押すことになって、私は本当に案内役で回ることになってしまった。

「ねこさん、お菓子コーナー寄って良いですか?」
「あ、しょっぱい系でしたら」

 そこの通路に入って、とお酒のつまみが沢山並んでいる場所に案内をする私の苗字は“根古ねこ”だ。当たり前だけど名前よりも名字を愛称にされる。だからわりと馴れ馴れしく“ちゃん”づけされやすいけれど今回は違った。この顔の良い本丸以外もずっと敬語で、丁寧に接してくれる。
 必要以上にべたべた近づいてこないし、本当に普通の対応をしてくれる。

 他人との距離もちゃんとしていて、身なりも良くて、いい匂いがして顔が良い。田舎だから無遠慮な視線がちらちらと向けられているな、と分かる。
 ある意味での監視社会。今は平日の昼下がり、と言っても金曜だし。早めの夏休みの人だって当たり前にいるし。今でこそ田舎に帰ってフルリモートなり大半を在宅ワークで過ごす事も珍しくないのに無遠慮な視線の多いこと……私も暫くは休養期間としてリモートワークをしよっかな、って考えていたんだけど。

「ねこさんの好きなお菓子も買ってください」
「え、いや、悪いですよ」

 このカートの中身の支払いはお客様持ちなんだし。

「人ひとりをお借りしてるのでこの買い出しの時間のサービス料ってことで」
「犬塚さーん、追加のカゴ持ってきますねー」

 彼のお名前は犬塚さん、と言うらしい。話を聞いていると本部長、とかなんとか聞こえて来ていて。私はヤの方のあれこれは知らないので本当に会社の方の役名なのかもしれない。

 買い物を終えてロッジに戻ってくればもう外のバーベキュー用コンロには火が入っていてあとは肉を焼くだけ、の状態になっていた。
 そんな疑惑の御一行様の年齢は下はぎりぎり二十代、お酒が飲めるような感じの子から一番上は犬塚さんで四十行くかどうか。

 (金持ちの大人の週末って感じ……)

 幅広い年齢でどんちゃん騒ぎとはならなかったけれど外では楽しそうに男性たちが飲み食いしている。いわゆる田舎のヤンキーとかヤカラ系の遊び方ではなくて、本当に大人たちが楽しんでいる感じ。
 それにしてもよく飲み、食べている。
 追加の買い出しに行って正解だった。

 買って貰っちゃったお菓子をつまみながらキッチンに立って皿を洗ったり随時、片付けをしている私のもとに若手の人がどんどん洗い物を運んできてくれるので夜遅くまで片付けをしなくても済みそうな感じ。彼らも半分くらいは都内に帰ったり駅前のビジネスホテルに泊まるそうで、実際にロッジに泊まるのは犬塚さんを含めたベッドの数の四名だけ。

 ・・・

 ――で、どうしてこうなっちゃったんだっけ。
 二日前に帰るはずだった人が私の体に触れたどころか。

「あ、っ」

 クーラーの効いたロッジの二階部分、寝室。レースカーテン越しの向こうはぎらぎらと陽炎がたちそうなほど日差しが強くて……きっと暑い。
 でも私は涼しい部屋で、犬塚さんの下であられもない格好をしていた。

「挿入っちゃいましたね」

 言われて、きゅんきゅんと収縮する自分が恥ずかしい。
 私の胸をさらりと撫でて、それから降りた手は私の濡れ、腫れた所を指の腹で優しく撫でる。

(こんなの、絶対にダメにゃ、の……に)

 考えれば考える程、頭がぐるぐるしてしまう。
 あつい。繋がってるところがずっとじんじんして、犬塚さんの指の先が濡れちゃ――。

「あ、あ、だめ」

 まだ動いてもいないのにずっとずっと切ない。

「ねこさん」

 貫かれ、動けない私に犬塚さんは気持ちよさそうに低く小さく喘いでいた。そりゃあね、男性だって気持ち良ければそうだけど。

「ねこさん、イキそうですか?」

 語りかけて来る声は甘く、優しい。

「私のわがままを飲んでくれて……私は悪いオトコでいいから、ね……昨日ねこさんと行った水族館、楽しかったな……」

 今この状況で一緒に行った水族館の感想を言うか?とも思ったけれど私は犬塚さんの舎弟……部下の人からこっそり言われていたのだ。犬塚さんだけこのまま置いていく、と知らされた時に「この連泊はいわゆる“休養”なんです」と。もちろん接待してくれた分のお金は払うしなんなら前金に上乗せも、と差し出された封筒の厚み。
 ついに欲に目が眩んでしまった馬鹿な私。いやあでも、だって、お金……欲しいし。犬塚さんの顔、良かったし。

 みんながみんな、後ろめたいなら。
 部下の人は犬塚さんを私と伯父さんに預けてバーベキューをした翌日に都内に帰ってしまった。またお迎えに来るからその間の面倒を見て欲しいって。
 暇をしていた私に舞い込んだ内緒の茶封筒。黙っていれば誰にもバレない。

 だから、こんな田舎だけど犬塚さんが行きたいと言う場所に行って、食べたいと言う物を食べさせたんだけど確かに最初に犬塚さんを見た時よりも顔色が良くなったような気がする。それにメンタルをやられているとコチラの方も勃たないとか言うけれど。

「ひ、っく」
「ねこさん泣かないで」
「な゛い、てにゃ……あ゛、あ」

 犬塚さんの手は休まることなく私の腫れた所を撫で続けているし、そもそも入っちゃってるし。エチケットとして持っていたらしい一枚だけのスキンはぱつぱつで、犬塚さん自身も少し窮屈そうにしていた。自分のサイズなら把握しているようなモノだけどナマでしようとしなかっただけまあ……ああ、だめ。

「怖かったら途中でも、言って……ください」

 僅かに途切れた言葉。

「同意の上です、が……ね、こさんが、つらいなら」

 ここまでしておいてその謎の清き倫理観。
 だとしても、そういう所はちゃんとわきまえていると言うかこんな状態になる前の犬塚さんはすごく申し訳なさそうにしていて、それがなんか私のよくない部分に火をつけた。

 ・・・

 私たちはなんてワルイコトをしているんだろう。
 互いに、まるで貪るようなセックスを繰り返していた。
 どこの段階で犬塚さんはスキンを買って来たのか。私に未開封の箱を見せてまた、体の関係を持っても良いかを聞いて来た。
 前金は既に支払われている。本当に、普通の援助交際では得られないような金額だったのだ。

 三日、昼夜を問わずに体を重ねた頃には私もかなり開放的になってしまっていて犬塚さんとの倒錯した行為に溺れていた。今もまだ、昼。

「もっと、して」

 ねだる事も覚えた。
 私が言えば犬塚さんはうん、うん、と頷いて私の胸を噛み、吸う。きつく、時に舌先でじっくりとねぶられ続ける。男の人が、私よりも年上の人が胸を噛んで乳首を吸い上げている様を見ていることに優越感すら覚えた。

 私の知らなかった事を犬塚さんは丁寧に暴き、それが気持ちの良いことなのだと教えてくれる。
 私のおねだりを彼は否定しない。何もかもを、受け止めてくれる。
 その懐の広さと性への柔軟さは本当はちょっと怖い事だと頭の片隅では考えていた。でも、あらがえない。

「ねこさん、私が触りすぎちゃったかな。ふわふわ、と言うか」

 先に手を出して来たのは犬塚さん。その数日前のことを言う人は私の胸をマッサージするように揉みしだいてくれるからなんとなく、胸と脇の境目のむにっとしちゃう所がしゅっとしたような、しないような。胸も犬塚さんが言うように柔らかくなった気がする。

「やわらかくて、温かくて……つい、捏ねてしまいたくなるんだけど」

 犬塚さんの指先は多分、どこかのサロンに行って整えられている。爪の先は綺麗に丸く整えられていて、艶がある。
 それからその手は私の太腿の間に入って……でも、流石にほぐさなくても入っちゃう。

「いぬづかさ、ん……い、れて」
「うん」

 私の言うことをなんでも聞いてくれる。
 駄目だ、こんなことにハマっちゃったら抜け出せなくなる。
 何度も何度もよぎる考えはほぐさなくても挿入出来てしまうことを分かっている犬塚さんがスキンを着けて、それで……少し入り口をくちゅくちゅと探ってから。

「あ、あっ」
「ねこさん……痛くないですか?」

 正常位なのにこんなに気持ち良かったことは今まで多分、なかったと思う。言葉とは裏腹に少し強引に挿入されれば当然、痛みはあるし圧迫感もある。どうやら私はどこか被虐の嗜好があったみたいで受け入れてしまう。

 ぐちゃぐちゃに濡れている私はすぐに始まった犬塚さんのピストンに体ごと揺さぶられて、腰を掴んで貰っていないと枕を押しのけ、上ずってしまいそうになる。

 それでも私と犬塚さんはキスをしなかった。
 これはお金のやり取りをした結果でしかない。だから利害の一致と言うだけ。お金以外を求めるほど欲張りにはなれなかった。
 どうせこんな関係、突然に終わってしまうのだ。

「い、ぬづかさ……いつ、帰るんです、か」
「ん?うん……明日」

 ほらね。

「ねこさん、野暮だよ」

 ばちゅんッ、と音がした。
 強い一突きのあとの呼吸を許さない猛攻、身を捩って逃げようとすれば腰を掴まれて私を現実から夢の世界へ引きずり下ろす。

「にゃあ゛、あぁ……あ、あ、やだぁ、っはげし、いのや、だ!!」
「ねこさん鳴いて……私の為に、もっと、ね?」
「に゛、あ……っ、ひ、あ、やッ、やだ、いっちゃ、う、もういっちゃ、うからぁ」
「またお小遣いあげるから、ふふ……このまま潮を吹いてもいいよ」
「ひ、あ゛、あ、いく、いくいくいくっ」

 何かもう、いってるんだけど、まだその先がある気がした。

「いく、いくっ」
「うん。気持ち良いね」
「大きいの、きちゃ、う……っ、は、んん゛ッ、んぐ」
「そう、お腹に力を入れて……っ、ね、上手」

 頭と言うか、目がちかちかと眩む。

「んんん゛ぅ、や、だ、これ、いく、のこわ、い」
「大丈夫。ぎゅーって、お腹に力を入れたその後は」
「あああ、やら、こわ、い、やだ、これ以上いくのやだ……っ、ひ、あ゛!!や、め、だめッ、今さわ、った……ら、あ゛!!」

 駄目押しのピストンと、犬塚さんの指がまた私の目一杯に腫れ上がっていた所をいたずらに撫でた。
 その次の瞬間、私は泣きながら……上も下も泣きながらいってしまった。もう感覚がおかしくなっていて、止められない。
 犬塚さんも息を詰まらせて私を囲うように倒れ込む。

「に゛ぁ、あああ゛、や……やだぁ……っん、く、ッ!!」

 喘ぎ過ぎてひりひりに乾いた唇と舌がぬるりと濡れた。

「ん゛っぐ、んん」

 のし掛かった犬塚さんはまだ腰を緩く動かして、私の体を抱いていた。
 最後の最後でキスをしながら、スキンが無かったら中からあふれ出ちゃいそうなくらいずっと……出していた。私も出ていたけど。

 ・・・

 高額の臨時収入から約一カ月。
 私は数日前、夏の新作の口紅とアイシャドウを買った。
 大手国内メーカーの中層のライン。ドラッグストアで一番高いようなヤツ。その新作を買って、久しぶりにきちんとした化粧をしたのだ。

「久しぶり、ねこさん。一カ月ぶりかな?今回も男ばっかりの大所帯だけどよろしくお願いします」

 丁寧な言葉ににこっと爽やかな笑顔を添えた犬塚さんは自分の後ろに控えている人たちに声を掛けてそれから「着替えてくるね」と勝手知ったるロッジ二階の寝室に向かおうとする。

 それなら、と犬塚さんの荷物を先んじて運ぶ私。
 後から入ってきた犬塚さんは寝室の扉を閉じ、鍵を掛け。

 そして綺麗に塗ってあった私の口紅は――。


 おしまい



 犬塚ははたして本当に会社員だったのか、それとも。



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