Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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1 病室

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 千里の青白かった顔色に、怒りで血の気が戻ってくる。キッと笹部を睨み付ける眼差しは鋭く尖り、他の生徒であれば即座に姿勢を正し元生徒会長の怒りを解こうとするところだ。しかし、笹部は違った。千里の怒りを正面で受け止めてもゆったり構えたまま。
 α同士だったときも笹部の方が千里より格上だったので、彼を一度も怖いと思ったことは無かった。しかも、今は自分のΩで妻で番になる相手。他のαなら、歯向かうΩに鉄拳制裁もあるだろうが笹部にはその気も無かった。
「ん?だって、ちーちゃんΩだし、推薦枠はα限定だからさ。あ、でも、俺の番枠は使えるから問題ないだろ?ちーちゃんがどうしても官僚になりたいって言うなら、俺も付き合うし」

 ΩはΩにしかなれない。Ωの就職先は、Ωしかつけない仕事に限られることを指す昔からの侮蔑用語。Ωになった千里に残された官僚になれる唯一の方法は、αのおこぼれ。番である笹部のオマケで、同じ職場に就職することだけだ。しかも、たいした仕事はΩのオマケに回ってこない。

 笹部は、千里がそれを知らないわけじゃないのに今更何を言ってるんだろうとむしろ不思議そうに見返す。千里は、まるで相手にされない苛立ちもあり、怒りのままに攻撃フェロモンをぶつけようと狙いを定め放出した。した、つもりだった。
「・・・?」
 何も起こらない。千里は笹部から視線を外し、自分の両手を上に向け、下にひっくり返し、指を開閉して動きを確かめる。ここに在るのは、本当に自分の身体だろうか?
 物心つく頃から教育され、当たり前のようにコントロールしていたフェロモンが反応しない。目隠しをしても打てるような簡単なボールに手を出したのに、全力で空振りしたような感覚。打った感覚はあるのに、感触が伝わってこない。自分の身体が、ここにあるのか、これが自分なのか不安になる。

 ベットに凭れ自分の手を呆然と眺めている千里。笹部は、こんなことで泣きそうになっている千里が可愛そうで可愛いくて堪らない。ちーちゃん、Ωなのにまだフェロモンを出せるつもりだったのか。賢いのに、たまにバカなとこも可愛いなぁ。

 同じ部屋で、手を伸ばせばすぐに触れることが出来る場所に二人はいる。だが、抱えている温度はまるで違っていた。
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