Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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3 初等部教室

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 苛烈姫の卒業以降、竜闘虎争を極めていた初等部の陣取りゲーム。フェロモンの強さがそのまま個人の価値となるα社会。ここ、優生学園初等部の陣取りゲームは、幼稚舎のごっこ遊びとは違い今後の人生に大きな影響を及ぼす。誰の群れの、どの位置にいたか。それがα社会における自分の重要な起点となって、自分の価値を高めもすれば落とすこともあるのだ。
 だからこそ、自信のある生徒は自分の群れを広げ、統率し、勢力図を塗り替えることに躍起になる。力のあるαを自陣へ引き込むことで、少しでも陣地を広げようと知恵を絞る。片や力のない生徒は、無所属で状況を分析し、誰の庇護下に入るかで一生を賭けたも同然の選択を迫られる。
 どの群れのリーダーも、その下にそれぞれつく生徒も、鋼をなんとか味方につけようと狙い続けていた。苛烈姫の実弟であり、個人の力も強い鋼を一度でも引き入れれば箔がつく。万一、鋼の群れに誘われればこの学園から巣立ってからも鋼の威を借り続けることが出来る。
 しかし、灯台下暗し。ダークホースの千里があっさりその手に収めてしまった。
「・・・いいのか?」
「いーよ。
 で、ちーちゃんは何を俺にして欲しーの?」
 鋼は、いそいそと千里の前の席に座りニコニコ笑顔で尋ねる。千里の群れの重要事項を、まるでお使いの内容を確認するような気安さで尋ねる。
 鋼は、千里の混乱した頭の中がまるで透けて見えるようだなと、視点の彷徨う千里の口に手で割ったクッキーの欠片を押し込んだ。千里は迷惑げにピクリと片眉を上げたものの、与えたクッキーをモゴモゴ咀嚼。鋼はその姿を満足げに目を細めて眺め、残ったクッキーをパクッと口に放り込んだ。
 サクサクと同時に噛んで味わい嚥下する。今までは一線を引こうと我慢していた行為も、群れに誘われたのだから許されるだろうと勝手にルールを捻じ曲げた。一枚のクッキーを分け合って食べる・・・恋愛給餌特化型の鋼に取っては、自分の想いを分かちあえたような高揚感で無意識に千里の右手を取り指を絡めていた。
 千里は、鋼ほど他人との距離が近くない。馴れ馴れしい態度を取られ自然と表情が固くなる。それでも、群れに入ることを了承したばかりの鋼を無碍にはできず手はそのままに任せた。それが、鋼にとってはちーちゃんにも了承されたと取られてしまうのに。
「放課後、低学年図書室の個室を取るからそこで時間を取りたい」
「いーよ」
 キュッと絡めた指に力を込めながら、鋼はなにやら考え込んでいる千里と二人の様子を遠巻きする外野を見比べる。後から教室に入ろうとした生徒は、異様な雰囲気を察して廊下に溜まりそこに輪をかけて人が集まってきていた。もうすでに情報戦は始まっているな。鋼は、どうしようかなぁと考える端から自分のすべきことはわかっていた。
 自分が千里の群れに入ったことだけが先行して知れ渡れば、千里に矛先を向ける生徒が出るのは目に見えている。鋼欲しさに、千里の群れに勝負を挑み鋼を吸収しようとするのは陣取りゲームの初歩戦術だ。(ちーちゃんに俺を賭けて決闘しろとか、そんなん秒で負けちゃうよねぇ)
 千里のリーダーレベルは、今の初等部の勢力図では中の下。その程度なら、周りの出方をみて動くより真っ先に仕掛けなくてはと考える群れが大半だろう。
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