84 / 111
10 寮-Ⅲ
7
しおりを挟む
「築花 恭、本日も笹部先輩のお役に立ちましたーっ」
賑やかに築花が鋼の元へと駆けていく。しっぽが生えていれば、間違いなくブンブン振り切れていただろう。峯森は漆戸へ視線を送り、あれで良かったのかと対応を確認。軽く頷かれ、自分も頷き返すことで今後も同じ対応を継続すると応えた。
「センパーィ、聞いてます?」
「あー、聞いた、聞いた」
「じゃあ、いつものご褒美をっ」
鋼の前に両手のひらを差し出す築花。スイーツ王子、お菓子の王子様のいつものバラマキを期待した瞳がキラキラ輝く。
「あ"ー、今日は持ち合わせがねーわ」
「なっっ」
まさかの言葉に絶句する築花。まだ教室に残っていた生徒の中には、気落ちする築花に共感している者もいた。鋼のお菓子配りは名物を通り越して既に日常と化している。鋼からお菓子が出てこないなんて、優生学園に入学して以来初めてだ。
「そんなぁ~」
築花は、ヘナヘナと膝から抜けて鋼の机にしがみついた。一度はあっさり群れから出された築花にとって、また鋼に目を掛けてもらった記念として残せるお菓子は特別なもの。高等部で返り咲いてから、貰えたお菓子の包紙を峯森に洗って伸ばして乾かしてアルバムに貼り付けさせてこっそりコレクションするようになっていた。鋼のお菓子の好みを誰よりも(実際は峯森もだが)把握していると自負している。なんなら、何がもらえるか予想をして、それが当たれば褒められ度2倍増しと勝手な配当までしている。それが、ゼロ。しょんぼり肩を落とす築花。
(帰ってから荒れるな・・・)峯森は憂鬱になり眉間を抑えた。鋼絡みで一喜一憂する築花ほど面倒なものはない。
「じゃ、帰るか」
鋼は席を立ち、千里の前を素通りしながら漆戸へ命じる。千里を連れてこいと睨まれ、本人に直接言ってくれますかと嘆きたくなる。間に立たされ続けわかったことは、鋼が一方的に千里から退いていること。徐々にその距離間が開いていること。入院前は、千里が食べる様子を嫌がられても正面で見ながらニヤニヤしていたのに、今日は隣でわざわざ背を向け食べていた。それ以降は、漆戸に任せて寄り付かない。自分には理解できない新手の嫌がらせをしているのだろうかと思ったが、されている千里は戸惑い手をこまねいている様子だった。
千里は顔をしかめながら、漆戸が促す前に立ち上がった。苛々しているのは間違いが無く、ガタンと机に当たり気まずそうに直してから鋼を追った。
「先輩、もし買い忘れなら俺が買ってきますよ!」
「いらねぇ」
前方では、代案を思いつき意気揚々と話しかけた築花が撃沈。峯森に慰められている。(いやいや、お前らは穂高さんを守るのに呼んだんだけどな?)使い物にならない二人に、漆戸はため息。それが千里のため息と重なり目が合う。
「あーっと、どうしたんですかね?」
「お前もおかしいと思うよな!?」
食い気味で同意を迫られ、「おかしいどころじゃないっすよ!譲る気なんか全然なかったポジションを急に代われとか意味分かんないし、チラチラ気にしてたのも止めて、昼休みなんか穂高さんが話しかけてんのにスルーとか考えられない事態で俺は何を求められてんのかな。穂高さんの従属フェロモンがどんどん増して、休み明けに様子を伺いに来た反乱分子予備軍が尻尾巻いて逃げていきましたよ。俺のストレス発散の場を返して?って言うか、そんだけ従属フェロモンつけられてよく平気ですね?もう笹部さんの完全飼い主レベルですよ?猛獣使いレベル、カンストし過ぎでしょう」と激しく同意したくなるが。(荒ぶる心をここで開放するなんて抹殺されそう)ひと呼吸置いて、「えぇ」と大人しめに応えておく。何がどう地雷になるのかわからないので、言葉も控えめ、態度も控えめ。顔を寄せられたので、その分さり気なく一歩引く。
千里は同意を得て心強かった。よそよそしい鋼から、されたことに心当たりはあっても自分がなにかしたか覚えがない。それに、自分が鋼になにかする分には責められる筋合いがないと断言出来る。人生そのものをこちらは狂わされたのだ。(絶対に部屋で問い詰めるっ)物事を有耶無耶にしているのは好かない。千里は決意を固め、それを見た漆戸はとばっちりが来るのではと怯えた。
賑やかに築花が鋼の元へと駆けていく。しっぽが生えていれば、間違いなくブンブン振り切れていただろう。峯森は漆戸へ視線を送り、あれで良かったのかと対応を確認。軽く頷かれ、自分も頷き返すことで今後も同じ対応を継続すると応えた。
「センパーィ、聞いてます?」
「あー、聞いた、聞いた」
「じゃあ、いつものご褒美をっ」
鋼の前に両手のひらを差し出す築花。スイーツ王子、お菓子の王子様のいつものバラマキを期待した瞳がキラキラ輝く。
「あ"ー、今日は持ち合わせがねーわ」
「なっっ」
まさかの言葉に絶句する築花。まだ教室に残っていた生徒の中には、気落ちする築花に共感している者もいた。鋼のお菓子配りは名物を通り越して既に日常と化している。鋼からお菓子が出てこないなんて、優生学園に入学して以来初めてだ。
「そんなぁ~」
築花は、ヘナヘナと膝から抜けて鋼の机にしがみついた。一度はあっさり群れから出された築花にとって、また鋼に目を掛けてもらった記念として残せるお菓子は特別なもの。高等部で返り咲いてから、貰えたお菓子の包紙を峯森に洗って伸ばして乾かしてアルバムに貼り付けさせてこっそりコレクションするようになっていた。鋼のお菓子の好みを誰よりも(実際は峯森もだが)把握していると自負している。なんなら、何がもらえるか予想をして、それが当たれば褒められ度2倍増しと勝手な配当までしている。それが、ゼロ。しょんぼり肩を落とす築花。
(帰ってから荒れるな・・・)峯森は憂鬱になり眉間を抑えた。鋼絡みで一喜一憂する築花ほど面倒なものはない。
「じゃ、帰るか」
鋼は席を立ち、千里の前を素通りしながら漆戸へ命じる。千里を連れてこいと睨まれ、本人に直接言ってくれますかと嘆きたくなる。間に立たされ続けわかったことは、鋼が一方的に千里から退いていること。徐々にその距離間が開いていること。入院前は、千里が食べる様子を嫌がられても正面で見ながらニヤニヤしていたのに、今日は隣でわざわざ背を向け食べていた。それ以降は、漆戸に任せて寄り付かない。自分には理解できない新手の嫌がらせをしているのだろうかと思ったが、されている千里は戸惑い手をこまねいている様子だった。
千里は顔をしかめながら、漆戸が促す前に立ち上がった。苛々しているのは間違いが無く、ガタンと机に当たり気まずそうに直してから鋼を追った。
「先輩、もし買い忘れなら俺が買ってきますよ!」
「いらねぇ」
前方では、代案を思いつき意気揚々と話しかけた築花が撃沈。峯森に慰められている。(いやいや、お前らは穂高さんを守るのに呼んだんだけどな?)使い物にならない二人に、漆戸はため息。それが千里のため息と重なり目が合う。
「あーっと、どうしたんですかね?」
「お前もおかしいと思うよな!?」
食い気味で同意を迫られ、「おかしいどころじゃないっすよ!譲る気なんか全然なかったポジションを急に代われとか意味分かんないし、チラチラ気にしてたのも止めて、昼休みなんか穂高さんが話しかけてんのにスルーとか考えられない事態で俺は何を求められてんのかな。穂高さんの従属フェロモンがどんどん増して、休み明けに様子を伺いに来た反乱分子予備軍が尻尾巻いて逃げていきましたよ。俺のストレス発散の場を返して?って言うか、そんだけ従属フェロモンつけられてよく平気ですね?もう笹部さんの完全飼い主レベルですよ?猛獣使いレベル、カンストし過ぎでしょう」と激しく同意したくなるが。(荒ぶる心をここで開放するなんて抹殺されそう)ひと呼吸置いて、「えぇ」と大人しめに応えておく。何がどう地雷になるのかわからないので、言葉も控えめ、態度も控えめ。顔を寄せられたので、その分さり気なく一歩引く。
千里は同意を得て心強かった。よそよそしい鋼から、されたことに心当たりはあっても自分がなにかしたか覚えがない。それに、自分が鋼になにかする分には責められる筋合いがないと断言出来る。人生そのものをこちらは狂わされたのだ。(絶対に部屋で問い詰めるっ)物事を有耶無耶にしているのは好かない。千里は決意を固め、それを見た漆戸はとばっちりが来るのではと怯えた。
2
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる