Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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10 寮-Ⅲ

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「こらーっ、先輩への謝罪はいっっさいお断りだって言ってんだろ。あと、新たな相談は受け付けねーから。おら、散れ、散れっ
 お前らが入り口で出待ちしてっと、他の生徒が出入りできねーんだよっ」
 放課後、バタバタ廊下を走る足音が扉の前で止まる。廊下に響いた声から、築花が教室前の交通整理を引き受けたようだ。中に入ると直接鋼や漆戸に目をつけられるので、偶然を装い待っている生徒がいたらしい。(築花に、廊下を走るなと注意せねば)自分のことで動いてくれているのは有り難いが、規則への忠実さを求める千里の眉間に皺が寄る。その前で周囲の生徒を牽制していた漆戸は、そちらもお任せくださいと軽く頷いてみせた。
「一日中、世話をかけたな」
「いーえ、大丈夫ですよ。事前にこうなるかとは予想してたんで。まぁ、あんまり強く拒んじゃうと相手も善意からなんで、ね」
「あぁ、わかってる」
 千里や鋼が接近禁止を望めば、簡単にそれは実行される。だが、千里を心配してのことなのであまりに冷たい態度を取るのは憚れていた。
 (しっかし、いつもの笹部さんなら、穂高さんより先に自分へ顔を出せるなら出してみろって仁王立ちくらいしそうなもんだけどな)漆戸は、鋼の緩い対処が腑に落ちない。こちらが引くほどの過保護っぷりをなぜ急に止めたのだろう。今も、離れた席で背を向けている。まるで千里に関心がないくなったようだ。従属フェロモンは解かれていないし、距離だけ意識しているのか?
(うー、今朝からずっと胃が痛いっ)
 漆戸は、にこやかに千里へフォローを入れてはいるが、実際のところは勘弁してくれとこの場から去りたくて堪らない。群れの根幹を揺るがす鋼と千里の間にに何かあったのなら、一言で良いからヒントが欲しい。調整役の漆戸は、態度を急変させた鋼の前で動く危うさが続き血を吐きそうだ。
 昨夜、寝静まった夜中に部屋へ乱入され(すっかり気を抜いていたので心臓が止まりそうだった。尚、葛籠は鋼が出ていくまで部屋の隅で石像と化していた)鋼から千里にナンバーズ以外近付けるなと命じられた。そのときは、追々理由はわかるだろうし、わからないならわからないなりに何とかするしかないなと考えていたのだ。どうせ一番近くで鋼が護衛に回って、周りを自分たちで囲えば良いくらいの予想をしていたから。しかし、翌朝の二人のよそよそしい様子に今度こそ心臓が止まりかけた。鋼が千里を避けている!食堂で千里から鋼に話しかけても、目を合わせず「あー」「うー」と言葉さえ返さない。昨夜のベタベタぶりは幻か?唖然としたが、こちらからわざわざ踏み込む勇気はない。その後登校したら、教室ですでに千里が囲まれていた。授業の前に鋼に事情を聞こうとしたのだが、「なぜ迎えに来なかった」と挨拶の前に睨まれた。
(ちょっと待ってくれ!!)
 漆戸は、やっと命じられた内容を真の意味で理解し言葉を失った。千里とは一定の距離と節度を保つよう言われ続けていたのに、至近距離での護衛を任されるなんて何事だ。こんなことは初めてで、どこに鋼の地雷が埋まっているのかわからない。目隠しで危険地帯へ突撃命令させられるのと変わらない。
(気付いたら、自分の身が物理的に木っ端微塵に吹き飛ばされているのでは・・・)
 矢面に立つ調整役として、過去数々の難題にぶつかってきたのだが、史上最難関の命令に気が遠くなった。一層のこと、喧嘩して従属フェロモン外しまでやっといてくれたほうがやりやすいのになとあやふやな状況の線引きを迫りたい。
「数歩下がっただけじゃねーかっ」
 廊下で騒いでいる築花は、尊敬する鋼の真似をし、若干言葉を崩しながら声を張っている。が、どうも育ちの良さが邪魔をして迫力に欠けていた。「ちょっとくらい顔を見たい」「挨拶だけでもっ」と食い下がられているようだ。
「わざわざ来なくても、生活していればすれ違うこともある。お前たちの行動が、先輩のストレスになることをそろそろ理解しろ。何か相談するつもりなら、生徒会室か職員室へ行くように」
 寧ろ、築花のフォローに回っている峯森の低く落ち着いた声の方が説得力があった。ザワザワとした人の気配が消えてから、二人が教室に入ってきた。
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