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13 笹部家食卓-Ⅱ
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「ねぇ、もうお茶入れちゃったんだけど?」
膠着状態の4人に割って入る声。福の後ろから、様子を見に来た鈴が顔を出した。鈴は、笹部家の一大事だとひと足早く帰省して鋼と千里を迎える準備にかかりきりになっていた。今日は、朝から部屋の最終確認を終え、駅へ予定通り迎えに行った父親の帰宅に合わせてこころとお茶とお菓子を準備万端で待ち構えていた。それなのに、迎えに出たこころが戻って来ないし、誰も姿を見せない。まさか、千里になにかあったのかと恐る恐る来てみれば、廊下で4人が立っている。
「なにしてるの?」
一番頼りになる父親を見上げたが、先にこそこそと声を落としてこころが応えた。距離が近過ぎて丸聞こえであるが、こころは至って真剣だ。
「鈴ちゃん、あのね、鋼ちゃんとちーちゃんが喧嘩してるみたいなのよ」
新婚なのに喧嘩なんてどうしたら良いのかしらと、チラチラ二人を盗み見てるつもりなのだがこれも全然隠せていない。こころは、Ωとわかって病院に産み捨てられてそのまま笹部一族の番候補として狭い世界で育てられた。笹部一族と一緒の施設で暮らしていたΩ以外の人間に会うのは初めてなのだ。千里への純粋な興味が先立ち、無意識で千里に目が引き寄せられてしまう。純粋培養で福に守られ愛され育ってきたこころは、千里とは違う意味で真っ直ぐに育っていた。
(鋼ちゃんが、困らせたのかしら?こんなに綺麗なお嫁さんを怒らせるなんて、こころちゃんがしっかり怒らないとっ)そうよ、だってこころはこの子の#義孕#__ギヨウ__#なのだから!!
ふんすっと気合を入れたこころに、鈴は嫌な予感しかしない。
「えーっと、こころちゃん?」
「こころちゃんっ、ちーちゃんをちーちゃんって呼んでいいのは俺だけだからっ」
止めようとしたが、先に鋼がこころの動きを止めた。
「え、そうなの?でも、鋼ちゃんがちーちゃんって呼んでるから、もうちーちゃんで覚えちゃったわ?」
悪気無く、こころは鋼にとって自分だけの呼び名を連呼されて顔が険しくなる。相手は自分の孕親で、自分の属する群れのリーダーの番で、だから自分より序列は上だけれど、もっ
「お願い、覚え直してよ、こころちゃん」
お願いされると、頑張ろうかしらとこころの心は揺れる。鋼は、こころが覚えることを苦手にしているとわかっているけれど譲りたくない。福にも助けを求めれば、心を抱き上げ援護してくれた。
「こころ、この子は千里さん。鋼の呼び方はやめてやろう」
「うーん、がんばるわっ・・・でも、ちょっと忘れちゃうときはごめんなさい」
「それは、うん、仕方ないからな」
鋼もそこは譲る。一連の流れで、こころの中から鋼を怒るぞっと気合を入れたことはすっかり消えている。親子のやり取りを聞かされていた千里は、額に手を当てていた。(バカネのやつ、俺のことを家族にちーちゃんと話していたのかっ)
「あのさ、お茶にしようよ?」
鈴は、当初の目的を思い出して4人を居間へ案内した。
膠着状態の4人に割って入る声。福の後ろから、様子を見に来た鈴が顔を出した。鈴は、笹部家の一大事だとひと足早く帰省して鋼と千里を迎える準備にかかりきりになっていた。今日は、朝から部屋の最終確認を終え、駅へ予定通り迎えに行った父親の帰宅に合わせてこころとお茶とお菓子を準備万端で待ち構えていた。それなのに、迎えに出たこころが戻って来ないし、誰も姿を見せない。まさか、千里になにかあったのかと恐る恐る来てみれば、廊下で4人が立っている。
「なにしてるの?」
一番頼りになる父親を見上げたが、先にこそこそと声を落としてこころが応えた。距離が近過ぎて丸聞こえであるが、こころは至って真剣だ。
「鈴ちゃん、あのね、鋼ちゃんとちーちゃんが喧嘩してるみたいなのよ」
新婚なのに喧嘩なんてどうしたら良いのかしらと、チラチラ二人を盗み見てるつもりなのだがこれも全然隠せていない。こころは、Ωとわかって病院に産み捨てられてそのまま笹部一族の番候補として狭い世界で育てられた。笹部一族と一緒の施設で暮らしていたΩ以外の人間に会うのは初めてなのだ。千里への純粋な興味が先立ち、無意識で千里に目が引き寄せられてしまう。純粋培養で福に守られ愛され育ってきたこころは、千里とは違う意味で真っ直ぐに育っていた。
(鋼ちゃんが、困らせたのかしら?こんなに綺麗なお嫁さんを怒らせるなんて、こころちゃんがしっかり怒らないとっ)そうよ、だってこころはこの子の#義孕#__ギヨウ__#なのだから!!
ふんすっと気合を入れたこころに、鈴は嫌な予感しかしない。
「えーっと、こころちゃん?」
「こころちゃんっ、ちーちゃんをちーちゃんって呼んでいいのは俺だけだからっ」
止めようとしたが、先に鋼がこころの動きを止めた。
「え、そうなの?でも、鋼ちゃんがちーちゃんって呼んでるから、もうちーちゃんで覚えちゃったわ?」
悪気無く、こころは鋼にとって自分だけの呼び名を連呼されて顔が険しくなる。相手は自分の孕親で、自分の属する群れのリーダーの番で、だから自分より序列は上だけれど、もっ
「お願い、覚え直してよ、こころちゃん」
お願いされると、頑張ろうかしらとこころの心は揺れる。鋼は、こころが覚えることを苦手にしているとわかっているけれど譲りたくない。福にも助けを求めれば、心を抱き上げ援護してくれた。
「こころ、この子は千里さん。鋼の呼び方はやめてやろう」
「うーん、がんばるわっ・・・でも、ちょっと忘れちゃうときはごめんなさい」
「それは、うん、仕方ないからな」
鋼もそこは譲る。一連の流れで、こころの中から鋼を怒るぞっと気合を入れたことはすっかり消えている。親子のやり取りを聞かされていた千里は、額に手を当てていた。(バカネのやつ、俺のことを家族にちーちゃんと話していたのかっ)
「あのさ、お茶にしようよ?」
鈴は、当初の目的を思い出して4人を居間へ案内した。
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こんにちは
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もちろん、読み返します!
登場人物、特にΩの性格や境遇が十人十色で、シリーズどれを読んでも、新鮮に楽しめました(*´∀`*)
また少しづつでも続きが更新される事を、楽しみにしています
かなた様
こんばんはー
感想&優しいお言葉ありがとうございます!
そして、シリーズ読んでいただきありがとうございます!
なかなか更新できていないのに見つけていただき嬉しいです。
頭の中から出てないカップルもあったり(椿頭凪☓同級生「強気なΩの恩返し」とか)、ちょこっと触れてるだけのカップルがいたり(草開茜☓萩野世良「高嶺のΩは君のもの」、立花栄寿☓椿頭輝良「残念αの育て方」とかとか)するので、なんとか続きもひっくるめて更新したい…(´Д⊂ヽ
これからもよろしくお願いします☆
お疲れ様です!
お昼休みに今日の更新分呼んじゃって、ニヨニヨが止まらない私(*´艸`)
もう鋼の懐(実家)に来てしまったから、手遅れなのですよ、千里たん👀
息子の性格が孕親の性格を色濃く継いでいるのに萌え萌えしちゃいました(*´³`*)
星蘭様
職場でニヨニヨいただきましたーーーっ
\(๑╹◡╹๑)ノ♬
鋼にずるずると引きずられて来ちゃった千里の冬季休暇が果たしてどうなるか・・・学園と違い、ここではΩに変わったことも鋼の妻になったことも隠さなくて良いのでまた二人の違った姿をお見せできるかと!
萌えキュンが増えて、ニヨニヨが増し増しになりますようにっ
強化月間は終わってしまいますが、ほどよいペースであんまり途切れないように続けていけたらなと思っています。
これからもよろしくお願いします(*˘︶˘*).。.:*♡
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