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暁の宮、宵の宮 1
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「久しぶりやな、宵の宮」
窓辺で、主の帰りを待つ黒曜。
庭を眺める、その後方。
リビングに、突如人影が現れる。
同時に。
この部屋に潜んでいたリアンの契り鬼。
元一角鬼が、次々球体に包まれ硬直。
床に乾いた音を立て、落ちる。
監視の目が、遮断される。
黒曜は、予見していたのか。
話しかけてきた侵入者に、驚きを見せない。
「あの場でオレのことに触れたら、久々会えたのに殺さなあかんところやった。
他のに比べると、お前で助かったわ」
白のパンツ姿で近づき。
黒曜の肩を気安く叩く瑠璃丸。
人間の前では見せない、冷徹で、冷酷で。
鬼らしい顔で黒曜に笑ってみせる。
「なんだ、その姿と格好は」
黒曜は、溜息をつき。
旧知の間柄であった者の、今の姿に顔をしかめた。
「えぇやん。
オレはコレ気に入ってんねんから。
この格好で京ちゃんに抱きつくと、昨日からめっちゃ照れるん。
それまでは、一生懸命冷静を保とうとしてて。
それもそれでかわいかってんけど~」
「お前は、ますます人に寄ったのだな」
「ちゃうで。
オレが寄ってるのは、京ちゃんだけや」
部屋に設置されたソファーに身体を沈め。
瑠璃丸は、床にそのまま着くには余る足を組み話しを続ける。
「で、や。
今後のことを、ちょこっとすり合わせしとこうかと思ってきた。
へんなこと言われて、邪魔されたくないし」
「その姿は、その目的のためか?」
「そうやで。
この格好やと、警戒されへん」
腰掛けていた瑠璃丸の、輪郭が変わっていく。
体が一回り大きくなり、引き締まる。
顔つきもあどけない装いをやめ。
精悍な男性へ変貌する。
黒曜と並んでも、見劣りしない外観。
それ以上に華があり、人を惑わす魅力を備えた姿がそこに現れた。
「徐々に慣らしてる途中や。
一緒のスピードで成長して、怖がられへんように。
ゆっくり、ゆっくり、な」
唇の端で嗤う瑠璃丸。
服装も、全身を覆う緋色のローブへ転じ。
頭上には王冠。
胸元、手足に金銀細工がその身を飾る。
「その王冠がお前の手にあるということは・・・」
「あぁ、大王(おおきみ)はお隠れになったで」
黒曜が、ここにきて初めて動揺する。
窓際から瑠璃丸の前に走り、その目を見下ろす。
戯言ではないかと、心の底まで覗き込む。
「ほ、んとうなのか」
「あぁ、お前が消え、いつごろだったか・・・
人を喰らうのをやめ、その身を隠された。
そのあたりは、今話しても、後で話しても結果は変わらん。
過去の話や、急ぎやない。
その青ざめた顔を治してからや」
瑠璃丸の組まれていた右足が、軽く黒曜の膝を蹴る。
それだけで、黒曜の身体はバランスを崩し。
傍の机に手をついた。
「宵の宮は、空腹でガタガタ。
今、他の宮がアレを襲ってきたら、守れへんで。
あの頃から、どれだけ力を失ったんや。
情けないな」
それに、と、黒曜の額に目が移る。
「まさか、お前が角無しになるとは。
人に下るくらいなら、自決してそうなもんやのに。
角を落とされるのは、プライドが高ければ高いほど応えるんやろ?」
黒曜は体勢を整え。
せせら笑う瑠璃丸を睨んだ。
「暁の宮。
一度も角を持ったことが無いお前には、失う気持ちはわからぬ」
その言葉で、場が凍りつく。
「・・・お前、死にたいのか?」
瑠璃丸の顔から表情が失せ、殺気が宿る瞳で黒曜を射ぬく。
言い過ぎたと、黒曜が自覚するより早く。
瑠璃丸の手は、その頭を掴み、締め上げていた。
窓辺で、主の帰りを待つ黒曜。
庭を眺める、その後方。
リビングに、突如人影が現れる。
同時に。
この部屋に潜んでいたリアンの契り鬼。
元一角鬼が、次々球体に包まれ硬直。
床に乾いた音を立て、落ちる。
監視の目が、遮断される。
黒曜は、予見していたのか。
話しかけてきた侵入者に、驚きを見せない。
「あの場でオレのことに触れたら、久々会えたのに殺さなあかんところやった。
他のに比べると、お前で助かったわ」
白のパンツ姿で近づき。
黒曜の肩を気安く叩く瑠璃丸。
人間の前では見せない、冷徹で、冷酷で。
鬼らしい顔で黒曜に笑ってみせる。
「なんだ、その姿と格好は」
黒曜は、溜息をつき。
旧知の間柄であった者の、今の姿に顔をしかめた。
「えぇやん。
オレはコレ気に入ってんねんから。
この格好で京ちゃんに抱きつくと、昨日からめっちゃ照れるん。
それまでは、一生懸命冷静を保とうとしてて。
それもそれでかわいかってんけど~」
「お前は、ますます人に寄ったのだな」
「ちゃうで。
オレが寄ってるのは、京ちゃんだけや」
部屋に設置されたソファーに身体を沈め。
瑠璃丸は、床にそのまま着くには余る足を組み話しを続ける。
「で、や。
今後のことを、ちょこっとすり合わせしとこうかと思ってきた。
へんなこと言われて、邪魔されたくないし」
「その姿は、その目的のためか?」
「そうやで。
この格好やと、警戒されへん」
腰掛けていた瑠璃丸の、輪郭が変わっていく。
体が一回り大きくなり、引き締まる。
顔つきもあどけない装いをやめ。
精悍な男性へ変貌する。
黒曜と並んでも、見劣りしない外観。
それ以上に華があり、人を惑わす魅力を備えた姿がそこに現れた。
「徐々に慣らしてる途中や。
一緒のスピードで成長して、怖がられへんように。
ゆっくり、ゆっくり、な」
唇の端で嗤う瑠璃丸。
服装も、全身を覆う緋色のローブへ転じ。
頭上には王冠。
胸元、手足に金銀細工がその身を飾る。
「その王冠がお前の手にあるということは・・・」
「あぁ、大王(おおきみ)はお隠れになったで」
黒曜が、ここにきて初めて動揺する。
窓際から瑠璃丸の前に走り、その目を見下ろす。
戯言ではないかと、心の底まで覗き込む。
「ほ、んとうなのか」
「あぁ、お前が消え、いつごろだったか・・・
人を喰らうのをやめ、その身を隠された。
そのあたりは、今話しても、後で話しても結果は変わらん。
過去の話や、急ぎやない。
その青ざめた顔を治してからや」
瑠璃丸の組まれていた右足が、軽く黒曜の膝を蹴る。
それだけで、黒曜の身体はバランスを崩し。
傍の机に手をついた。
「宵の宮は、空腹でガタガタ。
今、他の宮がアレを襲ってきたら、守れへんで。
あの頃から、どれだけ力を失ったんや。
情けないな」
それに、と、黒曜の額に目が移る。
「まさか、お前が角無しになるとは。
人に下るくらいなら、自決してそうなもんやのに。
角を落とされるのは、プライドが高ければ高いほど応えるんやろ?」
黒曜は体勢を整え。
せせら笑う瑠璃丸を睨んだ。
「暁の宮。
一度も角を持ったことが無いお前には、失う気持ちはわからぬ」
その言葉で、場が凍りつく。
「・・・お前、死にたいのか?」
瑠璃丸の顔から表情が失せ、殺気が宿る瞳で黒曜を射ぬく。
言い過ぎたと、黒曜が自覚するより早く。
瑠璃丸の手は、その頭を掴み、締め上げていた。
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