鬼ごっこ~あのこがほしい~

三日月

文字の大きさ
58 / 195
暁の宮、宵の宮 1

1-1

しおりを挟む
「久しぶりやな、宵の宮」

窓辺で、主の帰りを待つ黒曜。
庭を眺める、その後方。
リビングに、突如人影が現れる。

同時に。
この部屋に潜んでいたリアンの契り鬼。
元一角鬼が、次々球体に包まれ硬直。
床に乾いた音を立て、落ちる。

監視の目が、遮断される。

黒曜は、予見していたのか。
話しかけてきた侵入者に、驚きを見せない。

「あの場でオレのことに触れたら、久々会えたのに殺さなあかんところやった。
他のに比べると、お前で助かったわ」

白のパンツ姿で近づき。
黒曜の肩を気安く叩く瑠璃丸。
人間の前では見せない、冷徹で、冷酷で。
鬼らしい顔で黒曜に笑ってみせる。

「なんだ、その姿と格好は」

黒曜は、溜息をつき。
旧知の間柄であった者の、今の姿に顔をしかめた。

「えぇやん。
オレはコレ気に入ってんねんから。
この格好で京ちゃんに抱きつくと、昨日からめっちゃ照れるん。
それまでは、一生懸命冷静を保とうとしてて。
それもそれでかわいかってんけど~」
「お前は、ますます人に寄ったのだな」
「ちゃうで。
オレが寄ってるのは、京ちゃんだけや」

部屋に設置されたソファーに身体を沈め。
瑠璃丸は、床にそのまま着くには余る足を組み話しを続ける。

「で、や。
今後のことを、ちょこっとすり合わせしとこうかと思ってきた。
へんなこと言われて、邪魔されたくないし」
「その姿は、その目的のためか?」
「そうやで。
この格好やと、警戒されへん」

腰掛けていた瑠璃丸の、輪郭が変わっていく。

体が一回り大きくなり、引き締まる。
顔つきもあどけない装いをやめ。
精悍な男性へ変貌する。
黒曜と並んでも、見劣りしない外観。
それ以上に華があり、人を惑わす魅力を備えた姿がそこに現れた。

「徐々に慣らしてる途中や。
一緒のスピードで成長して、怖がられへんように。
ゆっくり、ゆっくり、な」

唇の端で嗤う瑠璃丸。
服装も、全身を覆う緋色のローブへ転じ。
頭上には王冠。
胸元、手足に金銀細工がその身を飾る。

「その王冠がお前の手にあるということは・・・」
「あぁ、大王(おおきみ)はお隠れになったで」

黒曜が、ここにきて初めて動揺する。
窓際から瑠璃丸の前に走り、その目を見下ろす。
戯言ではないかと、心の底まで覗き込む。

「ほ、んとうなのか」

「あぁ、お前が消え、いつごろだったか・・・
人を喰らうのをやめ、その身を隠された。
そのあたりは、今話しても、後で話しても結果は変わらん。
過去の話や、急ぎやない。
その青ざめた顔を治してからや」

瑠璃丸の組まれていた右足が、軽く黒曜の膝を蹴る。
それだけで、黒曜の身体はバランスを崩し。
傍の机に手をついた。

「宵の宮は、空腹でガタガタ。
今、他の宮がアレを襲ってきたら、守れへんで。
あの頃から、どれだけ力を失ったんや。
情けないな」

それに、と、黒曜の額に目が移る。

「まさか、お前が角無しになるとは。
人に下るくらいなら、自決してそうなもんやのに。
角を落とされるのは、プライドが高ければ高いほど応えるんやろ?」

黒曜は体勢を整え。
せせら笑う瑠璃丸を睨んだ。

「暁の宮。
一度も角を持ったことが無いお前には、失う気持ちはわからぬ」

その言葉で、場が凍りつく。

「・・・お前、死にたいのか?」

瑠璃丸の顔から表情が失せ、殺気が宿る瞳で黒曜を射ぬく。
言い過ぎたと、黒曜が自覚するより早く。
瑠璃丸の手は、その頭を掴み、締め上げていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...