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暁の宮、宵の宮 1
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「あのなぁ、宵の宮。
オレが寄ってるのは、京一郎だけだ。
多少人の世で生きたところで、性根は代わらない。
お前の首など、いつでも獲れる。
特に今なら、簡単に」
瑠璃丸の爪が、黒陽の額に深々と突き刺さる。
青い血が流れ出しても。
その力は緩まない。
「久々だ、怒りの感情にこの身が震えそうだぞ、宵の宮。
もうオレに、そんなこと言える鬼は限られているからな」
言葉とは裏腹に。
その両端の口角は上がり、瑠璃丸の瞳は輝きを帯びる。
「生粋の鬼が何かもわからぬ、まがい物ばかりが増えて増えて。
オレが誰かもわからず、刃を向けてくる。
なぁ、宵の宮。
お前まで、そうなったのか?」
「い、い過ぎた」
抵抗せず、失言を認めた黒曜を鼻で笑い。
瑠璃丸はその手を外した。
そのまま崩れ落ちた黒曜の背を、躊躇い無く踏みつける。
「この姿で」
瑠璃丸の姿が、一瞬の間に元へ戻る。
「人と遊んでる姿を見たから、錯覚したのだろう、が」
足に力を込め、黒曜が呻いても。
瑠璃丸は笑い、更に体重をかける。
「宮は宮でも、オレが別格だということ。
その堅すぎる頭に、刻み直せ。
あぁ、それと」
黒曜の肩を蹴飛ばし、反転させ。
その腹に、容赦なく踵を捻じ込む。
「人間たちは、相変わらず自分達が知る範囲でオレたちを解釈しようと、辻褄合わせに忙しい。
曲解も多いが、関わるな。
わざわざ正して、鬼の手の内を見せることはない。
鬼隠しにしても、あんなのされた人間のプライドで塗り固められた誇張。
力の拮抗なんて必要ないしな。
他の鬼に気付かれないように、自分の臭いで隠すだけ。
力の及ばない点は、時間を掛ければ補填できる。
まぁ、お前はわかっているから心配はしていないが」
息も出来ずに苦しむ黒曜から、ようやくその足をどけ。
瑠璃丸はその場で大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
怒りを、抑えるために。
「他の宮が嗅ぎ付ける前に、動け。
お前が動かないなら、オレが消すぞ。
今は、堪えてやるが。
それは、今のお前やアレに利用価値があるからだ。
京一郎を巻き込む事態は、命取りであると覚えろ」
足の甲で、無理矢理顔を上げさせられ。
黒曜は、息を潜め無言で頷く。
その額には、幾筋もの血が滴っていた。
「お前が気をつけるべきは、オレや鬼ばかりじゃないぞ。
あの赤い目にも気を付けろよ。
心を視てくる。
気づかれたくない心象は隠せ。
オレのことも、含めてだ。
気づかれていいものだけ、見せておけ」
瑠璃丸はそう言い捨て、姿を消した。
まだ、元一角鬼たちの硬直は解かれていない。
再び、監視の目が動き出す前に。
黒曜は、立ち上がり。
元の場所へ腹を押さえながら移動する。
その顔は、以前よりも、青ざめていた。
オレが寄ってるのは、京一郎だけだ。
多少人の世で生きたところで、性根は代わらない。
お前の首など、いつでも獲れる。
特に今なら、簡単に」
瑠璃丸の爪が、黒陽の額に深々と突き刺さる。
青い血が流れ出しても。
その力は緩まない。
「久々だ、怒りの感情にこの身が震えそうだぞ、宵の宮。
もうオレに、そんなこと言える鬼は限られているからな」
言葉とは裏腹に。
その両端の口角は上がり、瑠璃丸の瞳は輝きを帯びる。
「生粋の鬼が何かもわからぬ、まがい物ばかりが増えて増えて。
オレが誰かもわからず、刃を向けてくる。
なぁ、宵の宮。
お前まで、そうなったのか?」
「い、い過ぎた」
抵抗せず、失言を認めた黒曜を鼻で笑い。
瑠璃丸はその手を外した。
そのまま崩れ落ちた黒曜の背を、躊躇い無く踏みつける。
「この姿で」
瑠璃丸の姿が、一瞬の間に元へ戻る。
「人と遊んでる姿を見たから、錯覚したのだろう、が」
足に力を込め、黒曜が呻いても。
瑠璃丸は笑い、更に体重をかける。
「宮は宮でも、オレが別格だということ。
その堅すぎる頭に、刻み直せ。
あぁ、それと」
黒曜の肩を蹴飛ばし、反転させ。
その腹に、容赦なく踵を捻じ込む。
「人間たちは、相変わらず自分達が知る範囲でオレたちを解釈しようと、辻褄合わせに忙しい。
曲解も多いが、関わるな。
わざわざ正して、鬼の手の内を見せることはない。
鬼隠しにしても、あんなのされた人間のプライドで塗り固められた誇張。
力の拮抗なんて必要ないしな。
他の鬼に気付かれないように、自分の臭いで隠すだけ。
力の及ばない点は、時間を掛ければ補填できる。
まぁ、お前はわかっているから心配はしていないが」
息も出来ずに苦しむ黒曜から、ようやくその足をどけ。
瑠璃丸はその場で大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
怒りを、抑えるために。
「他の宮が嗅ぎ付ける前に、動け。
お前が動かないなら、オレが消すぞ。
今は、堪えてやるが。
それは、今のお前やアレに利用価値があるからだ。
京一郎を巻き込む事態は、命取りであると覚えろ」
足の甲で、無理矢理顔を上げさせられ。
黒曜は、息を潜め無言で頷く。
その額には、幾筋もの血が滴っていた。
「お前が気をつけるべきは、オレや鬼ばかりじゃないぞ。
あの赤い目にも気を付けろよ。
心を視てくる。
気づかれたくない心象は隠せ。
オレのことも、含めてだ。
気づかれていいものだけ、見せておけ」
瑠璃丸はそう言い捨て、姿を消した。
まだ、元一角鬼たちの硬直は解かれていない。
再び、監視の目が動き出す前に。
黒曜は、立ち上がり。
元の場所へ腹を押さえながら移動する。
その顔は、以前よりも、青ざめていた。
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