鬼ごっこ～あのこがほしい～

弥勒過去編(瑛二＆白銀)

異常 side 瑛二 ４

古書とノートを持てるだけ持って。
ついでに文机の引き出しからカッターを拝借し。
瑛一の元へ走って戻る。
周りから、人の気配が消えている。
瑛一の死を、遠くから眺め、待ってやがる。

弥勒家や他の神宮寺家の関係者全員が、瑛一の死を願っていたとしても。
俺は、お前と生きたい。
俺は、瑛一のことをもっと知りたい。

当主の顔を、俺は遠くから眺めていただけで。
チヤホヤされるお前が羨ましくて。
無視される俺との違いに、ムカついて。
見えてるとこだけで判断し、遠ざけた。

まだ、初歩にもならねーけど。
剣術や戦術を実際叩き込まれて、お前が当主に至るまでの努力をわずかながら知った。
初戦も、一緒にいるだけで安心して、迫ってくる鬼を冷静に斬り捨てることができた。
・・・お前は、ずっと一人で立ち向かっていたのに。

瑛一だったら、どうしてたとか。
こんな戦い方があるとか。
日記じゃない。
お前の口から、直接聞かせろよっ

寝ている瑛一の顔の真上。
右手で、カッターの刃を出し。
左の人差し指の指先に、縦に深く切りこみ思い切って引く。
指の付け根まで、一直線。
肉を割り、血が溢れる。

くっそ、いてーっ

カッターを畳の上に放って。
勝手に死のうとしているバカの。
瑛一の口や歯を抉じ開け、喉の奥まで突っ込む。
少しずつでも、飲めよっ
その、間に案を、考えねーと。

青い、唇。
意識の無い、身体。
深く切り込んだが、指先からの出血なんてたがだか知れている。
全く口は動かない。
飲んでる気配、生きてる気配さえない。
間に合わない、よな。
どこからの出血が一番吹き出るんだ？

もう一度、カッターに手を伸ばし、首に当てる。
映画でよく見るのは、ココだよな？
俺が死んでも、瑛一に影響は出るのか？
戦場で他の家の者が死んだときは、いろいろだったな。
契り相手と一緒に砂となる角無し鬼。
角を取り戻し逃げようと走りだす鬼。

瑛一は、どちらだ・・・？

・・・この、方法は違うな。
カッターを首から離し、焦る自分を落ち着けるために深呼吸を繰り返す。

やり方を間違えるな。

日記を見る限り、瑛一の性格上、俺が死んで自分だけ生きそうに無い。
冷たい口内に突っ込んだ指は。
相変わらず、何の反応も感じない。
舌も動かない。


手詰まり。


順に、戻って、探る。
落ち着け、詳細を思い出せ。
策は、どこかにあるはずだ。

抹殺対象の鬼を、生き延びさせる方法なんて、書物に載ってるわけが無い。
だが、鬼や角無し鬼のことに詳しいのは神宮寺家の人間で間違いない。
その中で、助ける方法を教えてくれそうな人間は・・・

ズボンから、携帯を取り出し。
希望を託し、アドレスを呼び出す。
思いつくのは一人しかいなかった。