【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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answer

対決

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今日スナと行こうとしていたのは、昔スナと初めて登った海の見える崖だった。

サスペンスドラマなんかで使われているらしくて、マイナーだけど観光スポットだったりする。

40分ほど電車の移動で、あとは山道を少し登る。

電車に揺られながら、俺は前の椅子で不貞腐れた顔のスナがそっぽを向いているのをぼーっと眺めていた。
その隣で、ニコニコと話し続ける八谷。
その手や足がスナに触れていて、俺は顔が強張るのを感じた。

もしも、
八谷の言葉通り、スナが俺を八谷の代わりにしていたらどうしよう。なんて、

昨日の幸せな言葉もぬくもりも全部‥。
やだな。信じるってそう決めたはずなのに、並ぶ2人を見ているとどうしようもなく心が不安で押しつぶされそうになる。


「ごめんね、風太。」

ふいに隣から小さく声が聞こえて、俺は視線を移す。

「どうして‥海が謝るの?むしろ俺が‥」

仮だとしても、夏樹と付き合ってる。
それに、夏樹の気持ちも知っていたのに。

早く、一番に言うべきだった。

「風太は何も悪くないよ。俺がもっとちゃんとハチを止めればよかったのに。最後に風太とこうやって話したいって思っちゃって‥。俺のわがままだから。」

「海‥」

「あーあ‥もう風太と手を繋いだりできないんだ~。‥、楽しかったなぁ‥風太といると嫌なこと全部忘れて‥ありのままの自分でいられたんだ‥」

「うん‥俺も海といると楽しかったよ。」

「そっか‥へへ‥そっかぁ‥」


俺の肩に顔を埋める夏樹。
肩が湿って、夏樹が泣いていることが分かった。

「海、ありがとう。ーー終わりにしよう。」

俺は覚悟を決めて、そっと静かに呟く。肩口で夏樹が一瞬震えて、罪悪感で胸が痛んだ。

「うん、わかった。嫌になったらすぐに俺のところにおいで?‥お互い幸せになろうね。俺は風太が大好きだから、ずっと風太の幸せを願ってるよ。」

「うん‥俺も海が大好きだよ。海の幸せを心から願ってる。」

「ふふ‥ありがとう」

俺は触れそうになる手を押し留めて、その一言を最後にそのままただ窓の外を眺めていた。


ごめん、夏樹。

俺を好きになってくれて、ありがとうーー。





「スナくん、ちょっと話さん?」

電車を降りて山道を歩いていく。
道中気まずい空気が流れる中で、口を開いたのは鈴鹿だった。

八谷が抗議したものの、スナが了承して2人が、林の向こうへと消えてゆく。

そのまま俺たちは開けた休憩場所で休憩することにした。


「風太、体調はよくなった?」

「うん、ただの風邪だったみたい。」

「そっか、よかった」

夏樹とこのまま気まずくなるんじゃないかと少し心配していたけれど、夏樹がこうやって話しかけてくれる。

本当に優しい人だ。
夏樹が安心したように笑うから、俺も笑い返した。


「やめろーー!!」

「痛いッ!?ーー」


「っ、」

刹那、スナ達が消えた場所から、悲鳴が聞こえてきて、俺達は驚いて立ち上がる。

「な、なに!?熊でも出た!?」

夏樹が俺の腕を掴んでそんなことを言うから、最悪な事態が頭に浮かんで、俺はすぐさまスナの元に行こうと足を踏み出した。


「ふえええん!!」

「うわああっ!?」

スナの元に向かおうとした途端、木の影から出てきた人物に、俺は腰を抜かしそうになる。

桃色の髪‥鈴鹿‥?

「早川くん、その化け物に会ったみたいな声だすのやめて‥」

「鈴鹿‥?あの、叫び声は‥?」

「ふ、振られた~!!しかも殴られた!ひどくない?!」

「お前が急に襲ってきたからだろ‥はぁ、土ついたからちょっと便所で洗ってくる‥」

後ろからスナが呆れた顔をして、鈴鹿にツッコミを入れる。
よかった‥熊じゃなくて鈴鹿に襲われてたんだ‥。いや、よくはないけれど‥はぁ。

俺の横を通り過ぎるスナ。
俺が八谷の提案を承諾してから、目が全然合わない。

どうして?なんで?と何度も心の中で問いかけるけれど、その返答は本人には届かなくて。離れていく背中を見て、心臓が痛いほどに締め付けられた。


「っ、な!なにしてんだよ鈴鹿!!スナに触るな!!近づくな!!」

「だって、断る時のスナくんもエロかってんもん!!」


冗談かどうかよく分からないなと、ぼーと二人の様子を眺めていると、ふいに鈴鹿に肩を強く掴まれて、俺は眉を顰める。

「まぁまぁ、ハチくんどうどう。なんか空気重いな~思って体張ったんやんか。それに、しゃしゃり出てきた早川くんに盗られるんも癪やから、ハチくんの味方に加勢したろかなって。」

「ッ、」

どういうことだ?俺に盗られる?八谷の味方?

話が見えない。

「ちょっと!風太に当たらないでよ!」

俺の表情に気づいてか、咄嗟に鈴鹿の手を払う夏樹。俺と鈴鹿の間に入って、守るように俺を庇ってくれる。

その様子を冷めた目で見られるものだから、とてつもなく嫌な予感がした。

「怖~、この二人がうまくいかん方が夏樹にとってもいいんちがう?それに、俺もスナくんはハチくんのことが好きやと思ってたから、諦めてたわけやし‥なんか急に早川くんに矢印向くんはなんでなん?この状況おかしいと思わん?」

「鈴鹿‥いい加減にっ」

「そっか、鈴鹿もそう思ったんだ‥やっぱり」

夏樹の言葉に被せて、八谷がそう呟く。
俺は、二人が言いたいことをなんとなく察して、その場で俯いた。

「なにか勘違いとかすれ違いがあるなら、ほんまに好きな人と結ばれた方がお互いいいやん?そう思わへん、早川くん?」

「、‥俺は‥」

二人が言いたいことはきっとこうだ。
両想いだったスナと八谷の間に、俺が何かしら関与してスナの気を引いている。

間違ってはいないんじゃないか?
中学の初めにスナは八谷に告白している。その頃から八谷がスナのことを好きだったなら、二人は両想いだったはずだ。

それなのに中学の間、俺が仲良くなって、一時的に二人の恋の邪魔をしてるんじゃ。

もし、修正しようとしてくれている気持ちが、恋愛とは違う道にたどり着いたら‥俺は‥

「なんか企んでるなら2人の邪魔せんと身引いたら?」

「鈴鹿‥これ以上は怒るよ‥」

「も~ただの憶測やん~夏樹くんそんな怖い顔せんといてって」

ケラケラと笑う鈴鹿。その奥で胸を撫で下ろして安心したような表情の八谷。

俺は、歯を噛み締めた。

ただ、腹が立った。とてつもなくドス黒い感情が押し寄せてきて、怒りで感情がうまくコントロールできない。

理由は簡単だった。
好きでいていいと、スナに許されたからーー。

きっと、本当の俺はこうなんだろう‥。

独占欲の塊。自分だけを見ていてほしいメンヘラ気質。執念深くて粘着質で、俺だけの宝物を閉じ込めていたいーー。だから、スナに告白して触れようとした鈴鹿の手をひきちぎりたいし、スナに告白された八谷の顔を消してしまいたい。

ムカつくんだ。

俺のスナを見るな。語るな。触るな。

スナのことが自分だけ世界で一番好きみたいに‥馬鹿じゃねえの。

俺だって、必死で隠し通してきたんだ。
スナのためならなんだってできた。

スナが好きになるなと言うなら隠そうとしたし、親友を望むならそう演じてきた。
八谷のことが好きなら諦めよう身を引いた。

スナが笑えるようにーー。
スナの事が好きだから。

他人になんて言われようとどうでもいい。俺はスナを見てる。スナの言葉を信じる。

俺は、顔を上げた。

「俺はスナが好きだ。中学の頃からずっと。だから、ずるいと思われても、俺の気持ちは
変わらないし、お前達に悪いとも思わない。」

「なっ、俺の方が先にっ」

八谷が反論しようとするから、俺はすかさずその言葉に被せる。

もうお前の言葉は懲り懲りだ。

「俺はずっとスナの側にいたい。隣にいたい。だから、誰になんと言われようと心底どうでもいい!努力して、スナに好きになってもらうつもりだから。」

「っ、」

「、なんなん‥早川もバチバチやん‥」




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