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第5.5章 番外編 鬼の記憶〜

鬼の記憶3

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全身が悲鳴をあげる中、少年を背負い、
ゆっくり、ゆっくりと燃える世界から抜け出していく。
血生臭い風が頬に触れて目を細めた。



人が死んでいくのを何度も見たのに、




人を殺したのは初めてだった。




心臓が急激に冷めて、
まるでそのまま氷って死んでしまうんじゃないかと錯覚してしまう。
裸足で歩く床はガラスの破片だらけで
痛みで立ち止まってしまいそうになる中、必死に進み続ける。



何処に行けばいい?



何処に行けば逃げられる?




全身に痛みが走る。今すぐその場に倒れてしまいたい。
ろくに食事もしていない身体。至る所から出血し、骨も何本か折れている。
こんな身体で何処までいけるというのだろう。



寒い‥




痛い‥





‥、



誰か





「たす、け、て‥」




ポツリと暗い世界で響いたのは、
ずっと言わなかった言葉だった。
こんな時に限って口から飛び出てくるとは笑える。



誰も来やしない。
自分だけを信じろ。

まだ足が動くなら進むだけ。痛みには慣れているだろ。



いつものように、感情なんて捨ててしまえばいい


簡単だ。







「ゔ‥‥」

「、!」



ドクっと心臓が跳ねて、
飛びかけていた意識が戻る。
背中の感覚。
ピクリともしなかった身体に、温度が戻って何故か目元が熱くなった。



「、おま、えっ‥、」

「っ、いき、て‥た‥へへ、よか、‥た‥」


「っ‥」

「あ、れ‥?お、れ‥なん、で」


「‥降りたら殺す‥」


顔を覗き込まれないように、そう告げる。
ポタリと落ちるそれは、情けなくて最悪で




「、う、ん‥」


素直に俺に従い、また肩に頭を預ける少年。



「っ!」

不意に

ぎゅっと力を込められ目を見開く。


「‥、」



温かい‥。
温かくて‥心地いい‥



程なくして少し重くなる背中。

静かな夜の世界。
そこには、規則正しい寝息の音と、



俺の最後の泣き声が響いていた。


 
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