ケッコンッ(仮)

花村 ネズリ

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施設の部屋の窓から朝日が差し込んで、ゆっくりと目を開けた。古びた小さな一部屋は、中央にキャリーケースがひとつ、ぽつりと置いてあるだけで、非常に殺風景だ。だけどそんな静かな光景さえ、どこか光り輝いて見えるのは、今日俺に、、だろう。

ゆっくりと起き上がって、高鳴る胸の鼓動に、自然と口角が上がる。

「おはよう‥ベル。」

写真縦に写るゴールデンレトリバーのに挨拶して、ベッドから起き上がった。

昨日の内に纏めた荷物を確認する。
施設長が新しく買うからと、ゴミ置き場に捨ててあったキャリーケース。いつかの日の為にと拾ってきたが、いざ使用するとなると荷物はその一個分にも満たなかった。衣服と大事な書類、最後にベルの写真を入れて、ファスナーを閉める。

「さよなら。‥行ってきますーー。」

誰もいない部屋に別れを告げ、俺はそっと施設を後にした。







電車に1時間ほど揺られてから、更にバスに乗って進む。途中、激しい睡魔に襲われたが、寝過ごさないよう必死に耐え抜いた。今日は絶対に遅刻したくない。絶対に失敗をしたくないのだ。
停留所を何度か過ぎ、ちらほらと同じ制服を着た人達がバスに乗り込んでくる。もしかしたらこの中に俺の家族になる人がいるのでないかと、不安と期待と色んな感情が渦巻いて、そわそわと手のひらを握ったり開いたりを繰り返した。
そうしてようやく目的地へと到着した。

「皆んな~おはよう~!」

別世界。
最初に来た時そんな衝撃を受けた。では皆んな家族がいて、誰1人として、一人ぼっちじゃない。輝きに満ちた別世界だと。そう感じたんだ。


「ようこそ新入生の皆んな!会場はあっちだよー!」
「今年は去年より多そうだな~」

在学生だろう。2.3年生の先輩達が、赤のネクタイをした新入生の俺達に挨拶をしながら、入学式の場所を案内してくれているようだ。
俺は案内に従いながら、先輩である彼等にそっと視線を向ける。
その隣には、誰しもらしき人物が居て、話したり、時には手を繋いだり、仲睦まじく笑い合っていた。

期待と羨望と、あとは緊張。
俺は深呼吸して、前を向く。
今日、俺の人生が変わるーー。

俺は背筋を伸ばし、そしてゆっくりと新しい人生の一歩を踏み出した。

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