番外編

晴日青

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その身を飾るは愛と言う/白蜥

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「いかにも」

 シュクルの長い指がそれをつまんだ。
 そして、なぜかティアリーゼの頬に押し付ける。

「これは私だ」
「……ごめんなさい、もう少しわかりやすく言ってもらえるかしら」
「今朝方、脱いだ」
「なにを?」
「古い皮を」
「……あ」

 そこまで言われてようやく理解する。

「竜にも脱皮ってあるのね……?」
「いかにも」

 よくよく見てみれば、確かに爬虫類の皮だった。
 ティアリーゼも昔、蛇の皮を見たことがある。シュクルの皮――と呼ぶのはなんとなく抵抗があるが――はそれとほぼ同じ手触りをしていた。

「……ああ、そっか。だから心なしか昨日よりつやつやしているのね」

 古い皮を脱ぎ捨てたシュクルの頬は、悔しいことに素晴らしい肌つやをしていた。触れればもちろん、赤子かそれ以上の滑らかさと弾力がある。

(これで四百歳……)

「私の調子がいいのは、昨夜お前を――」
「次は一週間お手入れなしだからね」
「…………まだ言っていない」

 ぺたりとシュクルの尻尾が床にへたってしまう。
 見れば、その尾の先にティアリーゼが拾い集めた皮と同じものが張り付いていた。
 しゃがんでそれを取ってみる。気持ちよくぺりぺり剥がれていい気分だった。

「いいな。私もあなたみたいに綺麗になれたらいいのに」
「ティアリーゼは綺麗だ。特に服を着ていないときがいい」
「今夜のお手入れはしないわ」
「なぜ」

 さすがにむっとしたのか、シュクルが眉を寄せる。
 そんな表情ですら最近見られるようになった。

「褒めても叱られる。お前はいつからそう怒りっぽくなった?」
「思ったことを全部話しちゃだめって言ったでしょう」
「たくさん話せるのが楽しい」
「……その気持ちはわかるけどね」

 しゃがんだままのティアリーゼを見て、シュクルも同じようにしゃがむ。
 部屋なのだから椅子に座ればいいのに、そうしない辺りが『変わり者の夫婦』だった。

「私が綺麗なのかわからない。個人的には不完全で醜いとすら思っている」
「私は好きよ。白い鱗が雪みたいで素敵だわ」
「……それはよい褒め方なのか」
「あなたたちの感覚ではどうなのかわからないけれど。……あなたのはちょっといやらしいのよね」
「なにが?」
「全部が」
「わからない」

 ふん、とシュクルが鼻を鳴らす。
 やはり納得がいかないようだった。これを理解させるのは骨が折れるだろう。
 しかし、シュクルはすぐにまた表情を変えた。
 きゅるんと青い瞳がきらめく。

「お前は綺麗になりたいのか。今よりも」
「え? それは……まぁ」
「皮を剥ぐか?」
「人間は脱皮しないから、そうすると死んじゃうわね」
「では、人間はどのように美しさを手に入れる?」

 シュクルの学びの時間だ――と悟る。
 下手なことを言えば、心の幼いこの魔王はそういうものだと信じてしまう。そうならならいよう、正しいことを学ばせるのが妻であるティアリーゼの仕事だった。

「そうね……。ドレスやアクセサリーを身につけるわ」
「あれはいい。集めたい」

(そういうところはちゃんと竜っぽいのね)

 物語で言う竜という生き物は、金銀財宝を集めてその上で眠る。宝の守り神とも言われるのはそういう性質からなのだろう。
 お気に入りに対する執着心と独占欲。見知らぬものに対しての好奇心。そうした性質のあるシュクルが唯一竜らしくない部分と言えば、他人を騙す狡猾さを持たないことだろう。賢くない、とまで言うのは語弊があるが。

「あれはお前が持つもの以外にも存在するのか?」
「ええ。結婚式のときだって、用意されたものを使っていたのよ」
「……忘れていた。指輪は私が贈ったのだった」

 ティアリーゼとシュクルの指には、人間らしく指輪が嵌まっている。本来石を嵌め込むべき場所にあるのは、透き通った紫色の塊。シュクルが己の角をティアリーゼのために砕いて、かけらにしたものだった。
 ティアリーゼからすれば装飾品はこれで充分である。
 しかし、シュクルはなにか考えたようだった。

「わかった。私は夫としてお前の望みを叶えなければならない。綺麗になりたいと言うなら、両腕に抱えきれないだけの装飾品を贈ろう」
「えっ、そんなにはいらないんだけど……」
「行ってくる」
「しゅ、シュクル?」

 ティアリーゼの困惑もよそに、シュクルは行ってしまう。カゴいっぱいの皮を手に持って。
 引き留めるのもおかしい気がして、それを見送った。
 足音さえ聞こえなくなった後、ティアリーゼはぽつりと呟く。

「妻にアクセサリーを贈るなんて、どこで覚えたのかしら……?」
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