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夢の続き/金鷹
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次は二人でウァテルに行こう――。
それを、ついにセランは叶えた。
「本当にキッカって速いんだねぇ……」
「んー?」
以前、キッカの背に乗ってナ・ズとウァテルを移動した際はゆっくり海を楽しむ暇も、お喋りを楽しむ余裕もなかった。
囚われていたセランは心身ともに疲れ切っていたし、キッカはキッカでセランを助けることしか考えていなかったからだ。
今回は違う。
二人で出掛けようと事前に計画を立て、城にいる仲間たちに伝え、そうしてのんびり旅行に来た。
キッカが夫でよかったと思うのはこういうときである。
遠方への移動が便利なのもあるが、魔王でありながらあまり王らしく城で公務を行わない。
本人いわく動いていないと落ち着かないとのことで、本来なら臣下――と呼ぶべきかはわからないが――に任せるようなことを自分で行ってしまう。
そのため、城にいる者たちはキッカがいなくても気にしない。
セランはそのことについてキッカ本人に聞いたことがある。
王というのは民のためにあるものだろうし、キッカがいないとなると、身の周りの困ったことなどを伝えられないのではないかと。
集落という小さな中で暮らしてきたセランには、為政者というものの仕事がそれ以外に思いつかない。アズィム族の長である父の仕事が主にそれだったというのもある。そのため、自分たちの暮らしを変えてくれる王に声が届かないというのは大問題だろうと考えた。
それを聞いたキッカは笑ったものだった。
「直接聞きに行くからいい」
やはりキッカは王らしくない、と思った瞬間だった。
一族の長たる父が何人もの人を介して話を聞いていたのに、キッカは自分の翼で民のもとへ向かい、自分の目で見て判断する。
本当に王らしくない。が、そこがキッカらしくていい。
そういった事情から、今回の旅行もすんなり認められたというわけである。
もっとも、最近までつがいらしくなかった二人の背を後押しする意味もあったのだろうが。
「セラン」
「あ、うん」
人の姿に戻ったキッカがセランに手を差し出す。
それに応えて握ると、仮面に隠された顔が笑ったような気がした。
「ふふふふふ」
「なんだよ、変な顔して」
「んーん、なんでもない」
(嬉しいな)
以前まで感じていた不安はもうない。
触れ合いが増えたのももちろんそうだが、ずっと見せてくれなかった素顔を見せるようになってくれたからだった。
「前に来たときね、すごく驚いたの。ウァテルって亜人も人間も一緒に暮らしてるんだなーって」
「ここは他と住んでる奴らの気質も違うからなー。なんていうか、大らか?」
「へえ……?」
「マロウは気候が関係してるんじゃねぇかって言ってた。あったかいと怒る気にならねぇとかなんとか。まぁいいかーみたいな」
「じゃあ、逆に寒いところだと怒りっぽい?」
「んー……そういうわけじゃねぇような。今度ギィに会ったら聞いとくよ。……あ、でもあいつ怒りっぽいな、確かに」
ふふふ、とまたセランは笑う。
話す時間が増えたため、各地の魔王たちの話も必然的によく聞くようになった。
特に聞くのはやはりシュクルだったが、意外に他の魔王たちとも仲良くやっているらしく、まんべんなく話を聞く。
ただ、キッカの言う魔王たちの姿と、セランが実際に感じるものは違うような気もした。
シュクルを雛のようでかわいい奴だと言い、グウェンのことを真面目ないい奴だと称するからである。
人間嫌いということもあってグウェンの印象が違ってくるのはともかく、シュクルは雛のように見えないし、別にかわいいわけでもない。
ティアリーゼにかわいいと思うかどうかを聞こうと思ったのだった、と今思い出す。
それを、ついにセランは叶えた。
「本当にキッカって速いんだねぇ……」
「んー?」
以前、キッカの背に乗ってナ・ズとウァテルを移動した際はゆっくり海を楽しむ暇も、お喋りを楽しむ余裕もなかった。
囚われていたセランは心身ともに疲れ切っていたし、キッカはキッカでセランを助けることしか考えていなかったからだ。
今回は違う。
二人で出掛けようと事前に計画を立て、城にいる仲間たちに伝え、そうしてのんびり旅行に来た。
キッカが夫でよかったと思うのはこういうときである。
遠方への移動が便利なのもあるが、魔王でありながらあまり王らしく城で公務を行わない。
本人いわく動いていないと落ち着かないとのことで、本来なら臣下――と呼ぶべきかはわからないが――に任せるようなことを自分で行ってしまう。
そのため、城にいる者たちはキッカがいなくても気にしない。
セランはそのことについてキッカ本人に聞いたことがある。
王というのは民のためにあるものだろうし、キッカがいないとなると、身の周りの困ったことなどを伝えられないのではないかと。
集落という小さな中で暮らしてきたセランには、為政者というものの仕事がそれ以外に思いつかない。アズィム族の長である父の仕事が主にそれだったというのもある。そのため、自分たちの暮らしを変えてくれる王に声が届かないというのは大問題だろうと考えた。
それを聞いたキッカは笑ったものだった。
「直接聞きに行くからいい」
やはりキッカは王らしくない、と思った瞬間だった。
一族の長たる父が何人もの人を介して話を聞いていたのに、キッカは自分の翼で民のもとへ向かい、自分の目で見て判断する。
本当に王らしくない。が、そこがキッカらしくていい。
そういった事情から、今回の旅行もすんなり認められたというわけである。
もっとも、最近までつがいらしくなかった二人の背を後押しする意味もあったのだろうが。
「セラン」
「あ、うん」
人の姿に戻ったキッカがセランに手を差し出す。
それに応えて握ると、仮面に隠された顔が笑ったような気がした。
「ふふふふふ」
「なんだよ、変な顔して」
「んーん、なんでもない」
(嬉しいな)
以前まで感じていた不安はもうない。
触れ合いが増えたのももちろんそうだが、ずっと見せてくれなかった素顔を見せるようになってくれたからだった。
「前に来たときね、すごく驚いたの。ウァテルって亜人も人間も一緒に暮らしてるんだなーって」
「ここは他と住んでる奴らの気質も違うからなー。なんていうか、大らか?」
「へえ……?」
「マロウは気候が関係してるんじゃねぇかって言ってた。あったかいと怒る気にならねぇとかなんとか。まぁいいかーみたいな」
「じゃあ、逆に寒いところだと怒りっぽい?」
「んー……そういうわけじゃねぇような。今度ギィに会ったら聞いとくよ。……あ、でもあいつ怒りっぽいな、確かに」
ふふふ、とまたセランは笑う。
話す時間が増えたため、各地の魔王たちの話も必然的によく聞くようになった。
特に聞くのはやはりシュクルだったが、意外に他の魔王たちとも仲良くやっているらしく、まんべんなく話を聞く。
ただ、キッカの言う魔王たちの姿と、セランが実際に感じるものは違うような気もした。
シュクルを雛のようでかわいい奴だと言い、グウェンのことを真面目ないい奴だと称するからである。
人間嫌いということもあってグウェンの印象が違ってくるのはともかく、シュクルは雛のように見えないし、別にかわいいわけでもない。
ティアリーゼにかわいいと思うかどうかを聞こうと思ったのだった、と今思い出す。
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