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第七話
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一方、キッカは着実に魔王としての仕事をこなしていた。
「おー、すげぇなー」
そんな呟きは作業をする同じ獣たちに向けられている。
そこに集まっていたのは梟(ふくろう)の獣人だった。
ただし、一般的な梟たちとは違う。
彼らは皆、昼に行動し、そして地面を住処(すみか)とするアナホリフクロウだった。
「王、この辺りは土が柔らかいようです。もしかしたらこの下に水脈があるのかもしれません」
「とりあえずいけるとこまで掘ってみてくれるか?」
「承知しました。……皆、こっちを手伝ってくれ!」
集まった梟たちが同じ場所を掘る。
しばらくして地面の色が変わり始めた。
じんわりと滲んだその色を見て、キッカがふむと考え込む。
「それ、掘り進めたらもっと水出てくるもんか?」
「どうでしょう……。大抵はこういう状態になったら、別の場所へ移動しますので」
「やっぱあれか、ここに住めねぇなってなるからか」
「はい。羽根が濡れるのは雨の日だけにしたいですからね」
「雨の日もやだよなー」
とん、とキッカは近くの岩の上に飛び乗る。
腰を下ろし、また作業の様子を眺めた。
「本能的にこれ以上無理って思うわけじゃねぇんだよな?」
「そうですね。そこまでは」
「じゃあ、引き続き頼む。きつくなったらやめていい」
「はい」
「王!」
そこに一羽の鳥が舞い降りた。
地面に足が付いた瞬間、人間の姿に変わる。
「紅狐(こうこ)の魔王がお越しです。疾(と)く、お戻りください」
「マロウが? なんだろな」
南の大陸を治めるマロウが突然こちらへ来たことなど今までに一度もなかった。
不思議に思いながら、すぐに城へ戻る。
キッカが現れると、マロウはいつものようにゆったりと微笑んだ。
「先日振りかな」
「おー。なんかあったのか?」
「グウェンにいろいろ教えてもらった、と言えば理由を思いつくかい?」
「……あんの野郎、余計なことしやがって」
「どうやら心当たりがあるようだ」
キッカは足音荒く側の椅子に座る。
それをマロウは楽しげに見ていた。
紅狐の魔王と呼ばれるマロウは、五人の魔王の中で最も温厚だった。やや吊り気味の細い目と、いつも笑みを浮かべている口元。それが逆に腹の底を読ませない。
「どうせあれだろ、人間とつがいになるのかどうかってやつ」
「そうだね。グウェンが心配していたよ」
「あいつが心配なんてするもんか。単純に……気に入らねぇだけだろ」
「いや? シュクルに続いて二人も魔王が人間に心を奪われていいのかと言っていたけれど」
「それを気に入らねぇって言うんだ」
ふん、とキッカは鼻を鳴らし、用意されていた菓子に手を付ける。
砂漠で取れる木の実を乾燥させて粉にし、練ったものだった。ぴりりと辛いのが特徴で、マロウはこれのために西まで来る価値があるとまで言う。
「俺はシュシュと違うぞ」
「そうだろうね。あの子は特別だ」
「……わざわざそんな話をしに来たのかよ?」
「君がどう考えているのか、知りたいと思ってね」
「大したこと考えてねぇよ」
「人間の名はなんて言うんだい」
「……セラン」
ふてくされた様子でキッカが答えると、マロウは少しだけ笑った。
一方、キッカは着実に魔王としての仕事をこなしていた。
「おー、すげぇなー」
そんな呟きは作業をする同じ獣たちに向けられている。
そこに集まっていたのは梟(ふくろう)の獣人だった。
ただし、一般的な梟たちとは違う。
彼らは皆、昼に行動し、そして地面を住処(すみか)とするアナホリフクロウだった。
「王、この辺りは土が柔らかいようです。もしかしたらこの下に水脈があるのかもしれません」
「とりあえずいけるとこまで掘ってみてくれるか?」
「承知しました。……皆、こっちを手伝ってくれ!」
集まった梟たちが同じ場所を掘る。
しばらくして地面の色が変わり始めた。
じんわりと滲んだその色を見て、キッカがふむと考え込む。
「それ、掘り進めたらもっと水出てくるもんか?」
「どうでしょう……。大抵はこういう状態になったら、別の場所へ移動しますので」
「やっぱあれか、ここに住めねぇなってなるからか」
「はい。羽根が濡れるのは雨の日だけにしたいですからね」
「雨の日もやだよなー」
とん、とキッカは近くの岩の上に飛び乗る。
腰を下ろし、また作業の様子を眺めた。
「本能的にこれ以上無理って思うわけじゃねぇんだよな?」
「そうですね。そこまでは」
「じゃあ、引き続き頼む。きつくなったらやめていい」
「はい」
「王!」
そこに一羽の鳥が舞い降りた。
地面に足が付いた瞬間、人間の姿に変わる。
「紅狐(こうこ)の魔王がお越しです。疾(と)く、お戻りください」
「マロウが? なんだろな」
南の大陸を治めるマロウが突然こちらへ来たことなど今までに一度もなかった。
不思議に思いながら、すぐに城へ戻る。
キッカが現れると、マロウはいつものようにゆったりと微笑んだ。
「先日振りかな」
「おー。なんかあったのか?」
「グウェンにいろいろ教えてもらった、と言えば理由を思いつくかい?」
「……あんの野郎、余計なことしやがって」
「どうやら心当たりがあるようだ」
キッカは足音荒く側の椅子に座る。
それをマロウは楽しげに見ていた。
紅狐の魔王と呼ばれるマロウは、五人の魔王の中で最も温厚だった。やや吊り気味の細い目と、いつも笑みを浮かべている口元。それが逆に腹の底を読ませない。
「どうせあれだろ、人間とつがいになるのかどうかってやつ」
「そうだね。グウェンが心配していたよ」
「あいつが心配なんてするもんか。単純に……気に入らねぇだけだろ」
「いや? シュクルに続いて二人も魔王が人間に心を奪われていいのかと言っていたけれど」
「それを気に入らねぇって言うんだ」
ふん、とキッカは鼻を鳴らし、用意されていた菓子に手を付ける。
砂漠で取れる木の実を乾燥させて粉にし、練ったものだった。ぴりりと辛いのが特徴で、マロウはこれのために西まで来る価値があるとまで言う。
「俺はシュシュと違うぞ」
「そうだろうね。あの子は特別だ」
「……わざわざそんな話をしに来たのかよ?」
「君がどう考えているのか、知りたいと思ってね」
「大したこと考えてねぇよ」
「人間の名はなんて言うんだい」
「……セラン」
ふてくされた様子でキッカが答えると、マロウは少しだけ笑った。
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