ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和

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第1章 ギルド受付嬢の日常

第16話 衛兵が連れてきた

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 今日も私はいつものように受付カウンターに立っている。受付に来ているのは四人組の仲間達。彼らは仲良しで、いつも一緒に依頼を受ける。

「ねえ見て、エルナ。このブレスレット、みんなでお揃いなんだ」

 そう言って彼らは得意げに左腕を私に見せつけた。

「素敵なブレスレットですね」
「いいでしょ。一つで大銀貨四枚なんだけど四つ買うからって交渉したんだよ。そしたらなんと! 一つで大銀貨三枚と銀貨三枚にまけてもらったんだ」
「それはよかった! ……では、そろそろどの依頼にするか決めてもらっても……」

「次はさあ、みんなでお揃いのブーツを買おうかと思ってるんだよね」
「そうそう! だから早くお金を貯めないとね」

 彼らはニコニコしながら頷き合っている。本当に仲が良くていつも楽しそうな彼らを見ていると、こっちまで楽しい気分になる。だからいい加減依頼を決めて欲しい。

「お揃いのブーツですか! それはいいですね。早くお金が貯まるといいですね、ではこちらの依頼を……」
「ねえ、僕いいこと思いついちゃった! 髪の毛をみんなでお揃いの色に染めない?」
「いいね! 同じ色にしたら遠くにいてもすぐに仲間だって分かるしね!」

「お揃いですか、とってもいいと思います。でもまずは依頼を選んでいただけないでしょうか? その……待っている討伐者さんもいますし……」

 彼らは感じのいい人達で、いつも優しくて私は大好きだけど、彼らは自分達で盛り上がってなかなか私の話を聞いてくれないところがある。背丈も同じくらい、年も近い、見た目もなんだか似ている男性四人組で、彼らのことを心の中で「四つ子」と呼んでいる。こんなに雰囲気が近いのに、生まれた場所は全員バラバラなのが面白い。なんでも訓練学校時代からの付き合いらしい。

「ああ、しまった。つい盛り上がっちゃってごめんね」
「ごめんね、エルナ。すぐに選ぶよ」

 ようやく依頼を選ぶ気になった四つ子を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。彼らの後ろで順番を待つ他の討伐者からの視線がずっと痛かったからだ。


 ようやく依頼が決まり、四人で連れ立って飛行船乗り場へと向かう彼らを見送る。楽しそうにお喋りしながら歩いている彼らを見ると、信頼し合える仲間がいるっていいなあと羨ましくなったりする。ギルドで会う時はいつもヘラヘラしている彼らだけど、実は三級討伐者なので実力はしっかりしていて、依頼を失敗したことがない。彼らのことは信頼しているのだ。

 
 次の討伐者を迎えようとしたその時だった。ギルドの入り口が乱暴に開き、ゾロゾロと衛兵達が入ってきた。

「うわ、衛兵だよ……」
「何しに来たんだよ」

 討伐者達は衛兵を見て眉をひそめた。衛兵は領地を守る役目があり、魔物が侵入してこないか見張ったり、罪を犯した人を捕まえたりする。彼らの役目は『領地を守ること』だ。真っ赤なマントをはためかせ、金属鎧を身に着けた彼らは威圧感があり、ちょっと怖いので私は彼らが苦手だ。そして討伐者達も衛兵が苦手。衛兵は討伐者のことを「金の為に命を売る奴ら」だと馬鹿にしていて、討伐者は衛兵のことを「人間にしか勝てない連中」だと鼻で笑う。それぞれが領地を守る為に頑張っているんだけど、昔からお互いにいがみあっているのだ。

 衛兵達に目をやった私は、彼らの中に一人の少年がいることに気づき、思わず声を上げそうになった。小柄で目が吊り上がった少年の顔を忘れるわけがない。

「ラウロ……」

 あれは間違いなく、受注書を盗んだラウロだ。大柄な衛兵に囲まれ、ラウロはオドオドしていた。逃げようという意思はないようで、大人しく衛兵と一緒にいる。ラウロは衛兵に捕まり、ギルドに連れてこられたのだろう。

 俯きながら衛兵と一緒に歩くラウロを見ていたら、ラウロは顔を上げて一瞬私と目があった後、ふいと顔を逸らした。

「こっちだ、来い」

 衛兵の一人がラウロに話しかけ、彼らはぞろぞろとカウンターの中に入ってくる。カウンターの奥へ進み、そこから支団長室まで向かうつもりだろう。

「受注書を盗んだの?」

 私は気づいたら、ラウロに話しかけていた。この段階でもまだ、私は何かの間違いかもしれないと思っていた。受注書を盗んでなんかいないと、私は彼に否定して欲しかったのだ。

「こいつに話しかけるな!」

 でもラウロが答える前に、衛兵が私を睨んだので結局ラウロから答えは聞けなかった。ラウロは衛兵の影に隠れるように歩いていたけれど、私の声に反応して再びこちらを見た。

 ラウロは気まずそうな顔をしていた。何か言いたそうにしているけど、勝手に話してはいけないと言われているのかもしれない。

 衛兵とラウロは、ギルド中の注目を集めながら奥の部屋に入って行った。彼らの姿が見えなくなり、辺りがようやく落ち着いた後、あちこちから話し声がした。

「あの子供だろ? 受注書を盗んだってのは」
「荷馬車通りのガキだろ? ほんと、手癖が悪いよなあ」

 彼らは呆れた顔で、ラウロの噂話をしていた。ラウロが受注書を盗んだという噂は彼らの間でもだいぶ広まっているようだった。薬師ギルドにラウロの似顔絵を貼っていたし、討伐者だけでなく住民達の間でも噂は広まっているかもしれない。

 この後、ラウロはどうなるんだろう。私がもっと気をつけていれば、ラウロが罪を犯すことはなかったかもしれないと思うと、胸のあたりがずーんと重くなった。私が責任を感じることはないと言われるけれど、あの時私が目を離さなければ……とどうしても考えてしまうのだ。

「……エルナ? エルナ、話聞いてる? 近場の依頼を探してくれって言ってるんだけど」
「あ! ごめんなさいぼんやりしちゃって。すぐにお探ししますね!」

 ハッと気づくと、次の討伐者が呆れたような顔で私を見ていた。いけない、仕事中なのに考え事をしてしまった。私は慌てて受注書の束をがさがさと探った。自分の頭の中にあるよけいな考え事を追い払うように。
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