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第2章 魔術師アレイスの望み
第58話 話し合い
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アレイスさんがギルドに帰ってきたのは、翌日のお昼過ぎだった。
「アレイスさん、アレイスさん!」
飛行船乗り場から受付に戻ってきたアレイスさんの姿を見た私は、思わず片手をあげて彼を呼ぶ。怪訝な表情を浮かべながらアレイスさんは私の所へやってきた。
「どうしたの? エルナ。随分慌てているね」
私はカウンターから身を乗り出し、小声で彼に囁く。
「昨日、ルシェラ嬢がうちのギルドに来たんです」
「えっ?」
穏やかな笑みを浮かべていたアレイスさんの顔がすっと真顔に戻る。私は彼に昨日の出来事を説明して、ルシェラ嬢がアメリアさんの自宅に滞在中であることを話した。
「アレイスさんが帰ってきたらルシェラ嬢に知らせると、アメリアさんが約束しているんです」
「そうか……分かった。支団長と今、話せるかな」
「すぐに連絡してみます」
アレイスさんをその場で待たせ、私は急いでアメリアさんを呼びに走る。今の時間なら彼女は支団長室にいるはずだ。
♢♢♢
私は受付に戻り、アレイスさんを連れて支団長室へと急いだ。最上階の一番奥に支団長室はある。討伐者さんがここへ来ることは殆どない。
「アレイスさんをお連れしました」
「ありがとう、エルナ」
机に向かって書き物をしていたアメリアさんは顔を上げ、笑顔を見せた。アレイスさんを部屋の中に案内して、そのまま仕事に戻ろうとしたけどアレイスさんが私を呼び止めた。
「エルナもここにいて」
「私も? でも……」
アメリアさんに視線を送ると、彼女も「残ってちょうだい、エルナ」とアレイスさんに同調した。私がここにいても何もできないけど、二人がそういうならと部屋の片隅に立っていることにした。
「支団長、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
アレイスさんは机の上で手を組んでいるアメリアさんに頭を下げていて、申し訳なさそうにしていた。アメリアさんは笑顔のまま首を振る。
「面倒事が嫌なら、最初からあなたをうちのギルドに誘ったりなどしないわ。ルシェラ嬢は私が思うより行動的だったというだけね」
「まさかミルデンまで追ってくるとは思いませんでした。今彼女はあなたの自宅にいるそうですね?」
「ええ。昨日はここであなたを待つと言って、私の部下たちをこき使っていたものだから、仕方なく私の家に移動してもらったと言うわけ」
「そうですか……」
アレイスさんは呆れたようにため息をついた。
「あのお嬢様は、あなたと会うまでは家に戻らないと言っているわ。でも私の考えとしては、あなた達は会わない方がいいと思っているの」
私はアメリアさんの言葉に驚いた。アレイスさんも彼女の言葉が意外だったようで「どういうことですか?」と聞き返す。
「会って話した所で、彼女が大人しくあなたを諦めるとは思えないわ。アレイス、依頼から戻ったばかりで申し訳ないけれど、このまま次の依頼を受けて出発なさい。時間を稼ぐ為にできるだけ遠い場所へ。エルナ、手続きをお願いできる?」
私は慌てて「わかりました!」と返事をする。アレイスさんは戸惑いながら口を開いた。
「ですが支団長……」
「ルシェラ嬢は私が説得します。必ずアインフォルドに帰しますから、心配しないで」
アレイスさんは無言のままうつむいていた。彼の後ろに立っていた私は、アレイスさんがぐっと拳を握りしめているのを見た。彼はきっと悔しいはずだ。逃げるしか選択肢がないということが、もどかしいに違いない。
「……支団長。僕は彼女と話します。逃げるつもりはありません」
顔を上げ、きっぱりと言い切ったアレイスさんをアメリアさんは目を丸くして見ていた。
「アレイス。今は彼女と会うべきではないわ」
「いいえ。そもそも今回のことは、きちんと話さずにアインフォルドから逃げ出した僕のせいでもあるんです。彼女と話し合うのは僕の義務でもあります」
アレイスさんの意志は固かった。アメリアさんはこめかみに指を当てて「ふう」とため息をつくと顔を上げた。
「……分かったわ。ならば、話し合いには私も同席します。それならいいわね?」
「ええ、お願いします」
「それなら、早速今から私の家に向かいましょう。エルナ、家に連絡と馬車の用意をお願い」
「は、はい!」
私は急いで支団長室を出た。アレイスさんとルシェラ嬢の話し合いがどうなるか心配だけど、私には何もできないから、二人が上手く彼女を説得できることを祈るしかない。
「アレイスさん、アレイスさん!」
飛行船乗り場から受付に戻ってきたアレイスさんの姿を見た私は、思わず片手をあげて彼を呼ぶ。怪訝な表情を浮かべながらアレイスさんは私の所へやってきた。
「どうしたの? エルナ。随分慌てているね」
私はカウンターから身を乗り出し、小声で彼に囁く。
「昨日、ルシェラ嬢がうちのギルドに来たんです」
「えっ?」
穏やかな笑みを浮かべていたアレイスさんの顔がすっと真顔に戻る。私は彼に昨日の出来事を説明して、ルシェラ嬢がアメリアさんの自宅に滞在中であることを話した。
「アレイスさんが帰ってきたらルシェラ嬢に知らせると、アメリアさんが約束しているんです」
「そうか……分かった。支団長と今、話せるかな」
「すぐに連絡してみます」
アレイスさんをその場で待たせ、私は急いでアメリアさんを呼びに走る。今の時間なら彼女は支団長室にいるはずだ。
♢♢♢
私は受付に戻り、アレイスさんを連れて支団長室へと急いだ。最上階の一番奥に支団長室はある。討伐者さんがここへ来ることは殆どない。
「アレイスさんをお連れしました」
「ありがとう、エルナ」
机に向かって書き物をしていたアメリアさんは顔を上げ、笑顔を見せた。アレイスさんを部屋の中に案内して、そのまま仕事に戻ろうとしたけどアレイスさんが私を呼び止めた。
「エルナもここにいて」
「私も? でも……」
アメリアさんに視線を送ると、彼女も「残ってちょうだい、エルナ」とアレイスさんに同調した。私がここにいても何もできないけど、二人がそういうならと部屋の片隅に立っていることにした。
「支団長、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
アレイスさんは机の上で手を組んでいるアメリアさんに頭を下げていて、申し訳なさそうにしていた。アメリアさんは笑顔のまま首を振る。
「面倒事が嫌なら、最初からあなたをうちのギルドに誘ったりなどしないわ。ルシェラ嬢は私が思うより行動的だったというだけね」
「まさかミルデンまで追ってくるとは思いませんでした。今彼女はあなたの自宅にいるそうですね?」
「ええ。昨日はここであなたを待つと言って、私の部下たちをこき使っていたものだから、仕方なく私の家に移動してもらったと言うわけ」
「そうですか……」
アレイスさんは呆れたようにため息をついた。
「あのお嬢様は、あなたと会うまでは家に戻らないと言っているわ。でも私の考えとしては、あなた達は会わない方がいいと思っているの」
私はアメリアさんの言葉に驚いた。アレイスさんも彼女の言葉が意外だったようで「どういうことですか?」と聞き返す。
「会って話した所で、彼女が大人しくあなたを諦めるとは思えないわ。アレイス、依頼から戻ったばかりで申し訳ないけれど、このまま次の依頼を受けて出発なさい。時間を稼ぐ為にできるだけ遠い場所へ。エルナ、手続きをお願いできる?」
私は慌てて「わかりました!」と返事をする。アレイスさんは戸惑いながら口を開いた。
「ですが支団長……」
「ルシェラ嬢は私が説得します。必ずアインフォルドに帰しますから、心配しないで」
アレイスさんは無言のままうつむいていた。彼の後ろに立っていた私は、アレイスさんがぐっと拳を握りしめているのを見た。彼はきっと悔しいはずだ。逃げるしか選択肢がないということが、もどかしいに違いない。
「……支団長。僕は彼女と話します。逃げるつもりはありません」
顔を上げ、きっぱりと言い切ったアレイスさんをアメリアさんは目を丸くして見ていた。
「アレイス。今は彼女と会うべきではないわ」
「いいえ。そもそも今回のことは、きちんと話さずにアインフォルドから逃げ出した僕のせいでもあるんです。彼女と話し合うのは僕の義務でもあります」
アレイスさんの意志は固かった。アメリアさんはこめかみに指を当てて「ふう」とため息をつくと顔を上げた。
「……分かったわ。ならば、話し合いには私も同席します。それならいいわね?」
「ええ、お願いします」
「それなら、早速今から私の家に向かいましょう。エルナ、家に連絡と馬車の用意をお願い」
「は、はい!」
私は急いで支団長室を出た。アレイスさんとルシェラ嬢の話し合いがどうなるか心配だけど、私には何もできないから、二人が上手く彼女を説得できることを祈るしかない。
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