人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と茶色と悪の目的

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 何だ? なぜココア・ブラウンはこんな笑顔なんだ? 何でそんな嬉しそうな表情を……?

 家に来たのは俺に用があるから。そしてその用を聞いたらこの表情になった……はっ!
 ま、まさか! まさかこいつ!

 俺のことが好きなのか!? だから家まで来たのか!?

 そう考えればすべてに説明がつく。今日だけではない、昨日のことからのすべてに。
 まず初めて会った時からココア・ブラウンが俺のことを知っていた理由。それは一目惚れ! おそらく、ココア・ブラウンはどこかで俺を見かけたことがあるのだろう。その時俺に惚れたココア・ブラウンは俺のことを調べたんだ! だから俺の名前を知っていたんだ! 俺のことを調べたんなら家の住所を知っていてもおかしくはない!

 なるほど、そういうことだったのか……まさかこいつが俺のことをなぁ……。
 そう思うと、なんだろう、なんだかココア・ブラウンが可愛く見えてきた。少しストーカー気質があるようにも思えるが、言い換えれば恥ずかしがり屋で健気だということ。細かいことは気にしないのが俺のいいところだ。

 まあつまりそういうことだ。
 謎はすべて解けた!

「喜べ緑! おぬしをわれの仲間にしてやる!」
「真面目に考えてた時間を返せ!」

 全然違った。よかった口に出さなくて。口に出してたら恥ずかしさのあまり死んでしまうところだった。
 しかし、こいつも通普と同じことを言うのか。通普は知り合いだったからという理由があるし百歩……いや千歩くらい譲ってわかるとしても、ココア・ブラウンに至っては何で俺を仲間にしたがるんだ。

「われの目的、悲願……われの犯してしまった過ちを清算するためにも……緑、おぬしがわれに協力してくれれば簡単になる」
「意味が分からねぇよ。お前の目的って何なんだ。なんで俺を仲間にしたがる」
「うぇ……だ、だっておぬし、シンプル・グリーンの仲間になるって……だったらわれの仲間に……」
「さては失礼な勘違いをしてやがるな!?」

 どうして俺が通普の仲間になることが決まっているような言い方をするんだ。
 俺が変態の仲間になるわけがないと、何度言えば変態達はわかるのだろう。

「俺はあいつの仲間じゃない!」
「そ、そうなのか?」

 意外そうな顔をしてこちらを見てくるココア・ブラウン。驚きたいのはこっちだ。鬼ごっこの時の様子を見て俺が通普の仲間になったと思う要素がどこにある。俺はただ通普と一緒になって小学生を追いかけまわしていただけだぞ。

「ならばよいのだ! ならば緑、ご飯にしよう。安心したら腹が減ってきたぞ!」
「いや帰れよ。お前に食わせる物なんて米一粒ねぇよ」
「カレーとハンバーグが食べたい!」
「話を聞け!」

 まさか本当に夕飯を食べるまで帰らないつもりじゃないだろうな。

 いや待てよ……それなら、そうだな。
 ……よし、用意してやるか。

「ちょっと待ってろ」

 本来であれば追い返そうと躍起になっているところだが、俺は少し考えた。
 こいつら変態は基本的に人の話を聞かない。ならば、それに正面から抵抗するのではなく柔軟に受け流すことが重要だ。そうすることで変態は満足し、俺も無駄に疲れることもなくなる……まさに一石二鳥! それにちょうど必要なものもあるしな。

「ほらよ」
「おお、ずいぶんと早かった……ん?」

 大した手間もかけずに用意したそれを見て、ココア・ブラウンは首をかしげる。

「おい緑、これはいったいなんだ」
「おいおい、見てわからないのか?」

 やれやれしょうがない、心優しき俺が教えてやるとしよう。

「(レトルト)カレーと(冷凍)ハンバーグだ」
「そんなことは見ればわかる! われが言いたいのはそういうことじゃない! おぬしこれインスタントであろう!」
「食わせてもらえるだけありがたいと思え! 俺だって疲れてるんだ!」

 まさか一目で見抜かれるとは。見た目お子様なこいつなら簡単に騙せると思ったんだけどな。

「……まあ、普段であればわれも作り直させるところではあるが、今日のところは勘弁してやろう」
「なんだよ、態度は大きい癖に物分かりはいいな」
「おぬしが疲れているということは、先の一件で知っているからの」
「……あっ! お前な、あの後大変だったんだぞ!」
「だから知っている。警察に追われておったのだろう?」
「……なんでお前がそのことを知ってんだよ」
「だってあれ呼んだのわれだし」
「犯人は貴様かっ!」
「いや、どちらかというと犯人はおぬしらであろう。さすがに放置するにはひどい光景だったぞ」

 な、何のことやら。

「俺としてはあんな子供まで洗脳しているお前のほうが、放置するには危険な存在だと思うんだけどな」

 こうして食事を共にしているとついつい忘れてしまいそうになるが、ココア・ブラウンは人を洗脳することが出来る。その手段を持っている。

「あ、あれはわれも流石にやりすぎたとは思っておる……あの時はサンプルをとるために必死だったのだ……」
「サンプル?」
「何でもない、忘れろ。まあとにかく、洗脳に関してわれはわれなりの自重と自制をしているからな。これでも安全第一なのだよ」

 洗脳に自重もくそもないと思うんだけど。

「それは……この地域周辺でしか洗脳をしていないことと関係しているのか?」
「そんなことまで調べておるのか! 調査したのはシンプル・グリーンかの? ふざけた見た目とは違って、意外と情報収集能力があるようだの」
「で、実際どうなんだよ」
「確かにわれはこの辺りでしか行動をしていないのは事実だが、それは関係ない。そもそもわれの目的からして、ここ以外で行動する意味がないのだ」

 ここ以外で行動する意味がない、か……。つまりはここで行動することがココア・ブラウンの目的に深く関係しているということ。通普と話した時には考えすぎだと思ったが、まさか当たっていたのか。
 だがココア・ブラウンの行動範囲を知ったところで、肝心の目的が分からなければ意味がないだろう。どうしてここでしか行動しないのか、ではなく、どうして人を洗脳しているのかを知らなければ意味がない。

「じゃあココア・ブラウン。お前の目的ってのは一体何なんだ?」
「そこまで教えてやるわけがなかろう」

 ココア・ブラウンはごちそうさま、と行儀よく手を合わせて食事を終える。彼女の前に置かれた皿は、食べ残しなくきれいに完食されていた。

「知りたいのであればわれの仲間になることだな、緑よ。言ったであろう? おぬしが協力してくれれば、われの目的を達成するのが簡単になると」
「それは……」

 確かに言っていた。ココア・ブラウンの目的、悲願、犯してしまった過ちの清算。俺が協力することで、それが簡単になる。
 ……うん、まったく意味が分からんな。協力って、一体俺に何をさせるつもりなんだ。

 しかし俺だって何度も言っているように、通普の仲間にもココア・ブラウンの仲間にもなるつもりはない。残念だが地道に頑張ってくれたまえ。

「俺ももう一度言おう、お前の仲間にはならない」
「ならば、やはり教えられんな」

 話は終わりだとばかりに、ココア・ブラウンは立ち上がってリビングから出ていこうとする。

 しかし、本当にいいのだろうか。

 俺は仲間になるつもりはない。だけれども、このままココア・ブラウンを帰してしまって、何もわからないままでいいのだろうか。出来る限り引き留めて、少しでも多く情報を得るのが賢いのではないだろうか。

 だが俺には、ココア・ブラウンを引き留める言葉も、情報を聞き出す方法も思いつかない。うだうだと考えている間にも、ココア・ブラウンはドアノブに手をかけ――


『おぉーい! 緑ぃー!』


 ズザザァッ、と俺の近くまで下がってきた。

 ……今の声、もしかして。
 心当たりのあった俺は、その顔を思い浮かべ、思わず頭を抱えた。
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