人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と正義と勧誘

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 家にやって来た突然の来訪者。その正体――うん、間違いなくあいつだな。

「な、なんでシンプル・グリーンが緑の家に来るのだ!」
「それは俺が知りたい!」

 いやほんと、何で通普が俺の家に来るんだよ。何で俺の家知ってんだよ。

「おい緑! おぬし玄関の鍵くらいきちんとかけておけ! 不用心ではないか! これではあやつのように不審者が入ってきてしまうぞ!」
「それ、お前の言えた言葉じゃないからな?」

 まるで元空き巣が空き巣対策をレクチャーしているかのようだ。

「ままま、まずいぞ……っ、今の姿を見られるわけにはいかん……!」
「ココア・ブラウン?」
「緑! われはもう行かせてもらう! くれぐれもわれのことをシンプル・グリーンに言うでないぞ!」
「何を言って……っておい!」

 慌てた様子のココア・ブラウンは、止める間もなく外に飛び出していった。
 ……玄関からではなく、窓からだが。

「うおぉおおおお緑ぃいい! ようやく、ようやく……助かったぞぉおお!」
「うわっ!? おいくっつくな!」

 ココア・ブラウンと入れ違うようにして、ドアが開き全身タイツの格好をしたままの通普が飛び込んできた。男にくっつかれても嬉しくない!
 しがみついてくる通普を引っぺがし、なんとか落ち着かせる。冷静になった通普はリビングを見渡すと、テーブルの上に置いてある食器に目を止めた。

「ん? 誰かいたのか? 緑の親御さんか?」
「いや、さっきまでココア・ブラウンがいたんだよ。お前が来た途端、逃げたけどな」

 ココア・ブラウンには口止めされているが、それに従う義理もないだろう。

「なにぃっ!? 緑無事かぁああああ!?」
「ああうっさい! だから離れろ!」
「ぐべっ!」

 またしがみついてきた通普を無理矢理はがして突き飛ばす。

「いったたた……ひ、ひどいじゃないか緑」
「自業自得だ。で、なんでお前まで俺の家に来たんだよ」

 壁に衝突し、よろよろと立ち上がりながら、通普はその理由を言った。

「どうしても警察を振り切ることが出来なくてな。逃げている途中、緑の家の近くまで来たから緊急避難させてもらったのだよ」

 こいつまだ追われてたのか……よく捕まらなかったな。むしろ俺がこいつを警察に突き出すべきか? 不法侵入してきた変態として。

「ところでなぜココア・ブラウンは緑の家にいたんだ? 緑よ。何かあったか?」
「あー……いや、特に何もされなかったよ」

 勧誘はあったが、後はココア・ブラウンのワンピース姿を堪能して夕飯を食べただけだ。

「ううむ、ならばいいのだが。ココア・ブラウンの目的が分からない以上、楽観視するわけにもいかないな」
「そうか? そこまで警戒するような奴だとは思えないんだが」
「何を言っている緑! あいつは人を洗脳している悪だぞ! ならば正義である私が警戒するのは当然のこと!」
「そ、そうか」

 通普は自分なりの正義感を持っているようだが、やはり俺にはよくわからん。特に正義の味方として活動するのにこんな変態の格好しているところとか。

「そうだ緑! いいことを思いついたぞ!」

 少しばかり引いてる俺の一方で、通普はそんなことを言い出した。
 今の話の流れで一体何を思いついたのかは知らないが、一つわかるのは、絶対に俺にとっていいことではないことだ。

「緑! 私の仲間になるんだ!」
「それの! どこが! いいことなんだ!」

 やっぱりろくでもないことを思いついていたようだ。俺は今日一日で何回仲間に勧誘されるのだろう。

「ままま、落ち着けって若き少年よ」
「なんかすごい腹立つ言い方だな」
「これは緑にとっても悪い話ではないのだぞ?」
「……何だと?」

 変態の仲間になることが、俺にとって悪い話ではない? どういうことだろうか。俺にはデメリットは思いついても、メリットは何一つ思いつかないのだが。

「まず、ココア・ブラウンは私が来て逃げたと言っただろう? それはつまり、私を警戒しているということだ!」

 あいつが逃げた理由は通普を警戒しているからじゃないと思うが……まあいいか。

「それで?」
「緑が私の仲間になることで、奴は緑のことも警戒するようになるだろう」

 確かに、通普の考えが正しければその通りかもしれない。

「つまり?」
「結果、ココア・ブラウンはそう簡単には緑に近づいてくることはなくなる! 今日のように家を襲撃されることもなくなるということだ! どうだ? 悪い話ではなかっただろう?」
「別に襲撃されたわけではないんだけどな」

 だがまあ、通普の言うことにも一理ある。また今後ともココア・ブラウンが家に押しかけてくるのは避けたいからな。

「けどなぁ……」

 しかしそのために変態の仲間になるのかと言われると、迷うところではある。

「まあ緑、私も嫌がる相手を無理矢理仲間にするほど心のない男ではない。あくまでも名前だけ、名目上、建前で、先っちょだけ仲間になるということでどうだ?」
「んむむむむ…………」

 そ、それならまだセーフか? 俺が仲間になるのは変態から身を守るためであり、俺自身が変態になるわけではないのだし。名目上の仲間なら……。

「……はぁ、わかった。お前のその提案に乗ってやるよ」
「本当か! それはよかった! では麦茶で乾杯するとしよう!」

 上機嫌の通普に俺という仲間ができた瞬間だった。

 ……い、いや! 仲間じゃない! 名目上だから! 仲間じゃないから! だからセーフ、セーフだ! もうすでに後戻りできないところまで来てしまっている気もするけど、セーフなんだ!

 通普の笑い声を聞き流しながら、自分の中で必死に言い訳をする。
 そんな通普の笑い声は、すっかり深まった夜の街に響いて溶けていった。

「ところで、なんでお前って『俺』と『私』で使い分けてんの?」
「正体を隠している正義の味方っぽくてかっこいいからだ!」
「め、めんどくせぇ……」
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