人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と緑色と変態タイツ

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 ついに変態の仲間になってしまった翌日である。

 昼、俺は弁当片手に学食を訪れていた。
 弁当を持参しているにもかかわらず、なぜ教室ではなく学食に来ているのかというと、通普に呼び出されたからだ。なんでも大事な話があるらしい。昨日のこともあるし、おそらくは例の変態行為に関する話だろう。どうしよう、すごく帰りたい。

「というか、通普のやついないじゃんか」

 学食をぐるりと見渡してみても通普の姿はどこにもなく、席に座って少し待ってもやって来ない。
 まったく、人を呼び出して遅れるとはどういうつもりだ。人を呼び出した方が先に来て待っているのが常識だろう。
 もう戻ってしまおうか。よし、教室に戻ろう。遅れた通普が悪いんだ。
 自分の中でそう決定し、腰を浮かせる。
 ……が、そのタイミングで運悪くそいつは姿を現した。

「いやーすまんすまん! 待たせたな緑!」

 口では謝っているが、まったく悪びれた様子もなく通普は正面の席に座った。

「…………めり込め」
「何だ!? 何があった緑! ご乱心か!? もしなにか悩みがあるのなら俺に相談するんだ! そして今にも俺の顔を握りつぶしてしまいそうなこの手をすぐにどけるんだ!」
「ええい黙れ! 変態の仲間になって悩みがないわけがないだろ!」
「ああっ!? 頭蓋骨から嫌な音がっ!?」

 こいつ……もう少しで逃げることが出来たというのに……!
 本当に握りつぶしてしまおうか……そうすれば俺が仲間になったこともうやむやになるだろうし……い、いや落ち着け緑。俺がこいつの為に手を汚す必要はない。

 ふぅ、オーケー落ち着いた。とりあえず手を離してやろう。

「い、痛かった……」
「で、わざわざ学食に呼び出してまでする話ってなんだよ」

 そもそも俺と通普は同じクラスなのだから、話すだけなら教室で話せばいいのだ。それなのに学食で話をするということは、できるだけ他の人に聞かれたくないのだろう。

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた。実は緑に渡したいものがあったんだ」
「渡したいもの?」
「そう、これだ!」

 通普はそう言って、バッ! と、手に持っていた袋から何か取り出し掲げた。
 緑色のひらひらとしたそれには、見覚えがあった。

「……それは?」

 嫌な予感がするのは気のせいじゃない。

「これは……『戦闘服』だ!」

 間違いなく、通普の着ていたものと同じ変態タイツだ。

「緑も知っていると思うが、俺がココア・ブラウンと戦うとき、つまりシンプル・グリーンとして活動するときには、この戦闘服を着ているんだ。緑も仲間になって一緒に活動することになったからな。緑の分も用意したのだぞい!」

 通普はとても上機嫌でそう言った。

「名付けてノーマル・グリーンだ!」
「…………めり込め」
「またか!? またなのか緑!? 落ち着くんだ! これ以上はお茶の間に放送できない顔になってしまう! モザイクが必要な正義の味方は色々とまずい!」
「そんな変態タイツを着ろと言われて落ち着いていられるか! それにお前はテレビに進出するつもりだったのか!?」
「タイツではなくスーツと言ってくれ! とにかく渡すから見るだけ見て!」

 そう言ってタイツを渡してくる。
 うん、どこからどう見ても通普の着ていたタイツと同じだ。絶対に着たくない。

「というか、これお前のタイツと色まで全く一緒じゃないか? 見分けがつかないだろ」
「それなら大丈夫だ。俺の戦闘服の背中には大きく『とうふ』と書いたからな」

 ……『とうふ』って書いたのか……『豆腐』って書いたのか。
 それでいいのか通普よ。お前の名前は『とうふ』じゃなくて『とおふ』だろ。

「それ、なんか罰ゲームみたいだな」
「どこが罰ゲームだ! かっこいいだろうが!」
「本当にそう思ってるのか?」

 聞いたら顔を逸らしやがった。おいこっち向けよ。

「で、でも! かっこいいところは他にもある!」
「へー、例えば?」
「伸縮性、通気性ともに抜群!」

 ……び、微妙!

「汚れても洗濯すれば簡単にきれいになる!」

 ……じ、地味!

「そしてこのタイツを着ることで、ある能力を得る!」
「おお! それはすごいな!」

 一気の話が胡散臭くなったが、もし本当ならすごいことだ。ココア・ブラウンが人類洗脳機なんてすごい装置を持っているのだから、こっちにもそのようなすごい機能があってもおかしくはない。

「これを着て仮面をつけることで、人類洗脳機から発せられる不思議電波を遮断し、着ている間洗脳されなくなるのだ!」

 本当にすごかった。

 まさかこのタイツにそのような機能が備わっていたとは。これを着ることで、ココア・ブラウンに洗脳される心配がなくなるのは、ココア・ブラウンと戦う上で心強いだろう。

「まあ実際に試したわけじゃないから本当に遮断できるのかは未知数だがな」
「意味ねぇっ!」

 この変態タイツを着て得られるメリットが汚れを気にしなくていいことだけにしか思えない。着て得るものより失うもののほうが大きい。

「はぁ……そもそも、どうやってこんなタイツ手に入れたんだよ」

 洗脳されない可能性がある、というだけだが、発明自体はすごいものだ。
 そんなすごいものを、通普本人が作ったとは到底思えない。

「実は天才発明家と知り合いでな!」
「身近にすごい人いた!」

 その人も変態なのだろうか。

「とにかく! 俺は着ないからな!」
「ほう? そんなこと言っていいのか?」

 タイツの着用を拒否する俺に対し、通普はなぜか諭すように話しかけてくる。
 いつものように駄々をこねてお願いしてくるわけではないその態度は、俺に一抹の不安を感じさせる。

「な……何だと?」
「そうか、気づかないのか……」

 まるで、着たほうがいいと、着なければ損をすると、そんな口調で語りかけてくる。

 何だ? 何が俺をここまで不安にさせているんだ?

「緑、君が戦闘服を着ないということは、緑だけが素顔をさらした状態だということだ」

 それは……確かにそうだ。
 だがそれが一体……はっ! まさかこいつ!

「緑を知っている人が見たらこう思うだろう。緑が変態を連れて歩いていた、とな」
「くそっ! やられた!」

 通普がまさか自分のことを変態だと自虐してまでタイツを着せてくるとは思ってもいなかった! 完全に意表を突かれた!

「それじゃ、後は緑の判断に任せるよ」

 そう言って学食から出ていく通普。

 俺はその後姿をただ黙って見送ることしかできなかった。くっ、まさか通普に言い負かされるとは……っ。
 結局、俺は授業の始まるギリギリまでタイツを握りしめその場に立ち尽くしていた。
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