人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と公園と聖なるエロ本

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「出会い頭にボクサー顔負けのボディーブローを撃ってきた理由を聞いてもいいかな?」
「自分の胸に聞いてみるんだな」

 足元の息も絶え絶えな通普に、突き放すように言う。

 公園にやってきたとき、俺を見つけた通普が腹立つくらいのいい笑顔(仮面をしているため予想)で出迎えたため、ついうっかり手が出てしまった。

「人類洗脳機も破壊できそうな威力だったぞ」

 そう言って、ふらふらになりながらも通普は立ち上がる。
 現在、俺と通普は公園の入り口にいる。通普がここで待っていたということは、ココア・ブラウンが現れるよりも前に到着できたようだ。

「さて緑、人類洗脳機を探すにあたって、注意しなければならないことがある」
「え、なに? 何か危険なことでもあるの? だったらもう帰りたいんだけど」

 通普に聞いた詳しい説明によると、変態タイツを仮面から靴まで全て身に着けた状態で洗脳機に十秒間触れ続ければ洗脳機を破壊できるとのことだった。だが、それのどこに注意することがあるのだろうか。

 いいや待てよ、通普は洗脳機を『破壊すること』ではなく『探すこと』の段階で注意を促した。ならば考えられるのは、この公園に罠が仕掛けられていることくらいか?

「この公園の奥の方には崖があってだな。しかもその下には流れが急な川もあるから、落ちないよう、気を付けるように」
「おい、なんでこんな街中の公園に崖なんてあるんだよ。小さい頃ここに来たことあるけど、全然知らなかったぞ」
「いいか緑、ぜっっっったいに! 落ちないように気を付けるんだ」
「何で念を押して言った! 強調するな念を押すなフラグを立てるな! それ絶対に落ちることになるだろうが! しかも俺が!」
 崖には近づかないでおこうと心に決めた瞬間だった。
「さあ緑、いやノーマル・グリーンよ! 捜索開始だ!」


 ○


 探すとはいっても、この公園はそこまで広いものではない。

 公園全体を確認するのに、さほど時間はかからない。
 しかし滑り台の下や植え込み、ゴミ箱の中などを探しても見つかるのはエロ本だけ。洗脳機どころかココア・ブラウンに関係していそうなものすら見つかることはなかった。

 だが、倉庫の中を捜索し始めた時、俺はとんでもないものを発見する。

「なっ!? こ、これは!?」

 倉庫の中、床の上。
 そこには、ポツリと孤独に、だが確かな存在感を放った『それ』があった。
 まるで選ばれし勇者を待つ伝説の剣のように、己を必要とする誰かを待ち続けているように、そこに君臨していた。

 俺は恐る恐るそれを手に取り、そこに書かれた、俺の目をさっきから吸い寄せているその文字を読んだ。

「『ワンピース好き必見! エロスなワンピース特集!』だと……っ!」

 な、なんてことだ! まさかこんな魅惑のフレーズが記載されているエロ本が存在したなんて! これは一大事だ! 今すぐに中身を熟読、もとい安全を確認しなければ!

「えっと、なになに……?」

 ふむふむ『今年はライトブルーのキャミソールワンピースが流行り』か。キャミソールワンピースと言えば、肩紐がキャミソールのように細く、Tシャツと重ね着をして春っぽく見せたり、そのまま着て夏っぽく見せたりなど、着こなしを要求するワンピースだ。今はまだ春だし、その色がライトブルーとなると……そうか! 冬から春へと移り変わる雪解けを表現しているんだ! ならば中に着るシャツは白色一択だな。清楚さと可憐さ、そして触れようとすると雪のように解けていってしまいそうな儚さを表現するなら、これ以上の組み合わせはないだろう。背景は日の沈む夕暮れよりも快晴の青空の浜辺……いやここはラベンダー畑でファイナルアンサーだ! ラベンダーの時期は夏だけど。
おっと、ついつい熱くなってしまった。続きを読まなければ。

「……うんうん、なるほど」

 このエロ本、敢えてキャミワンピだけに焦点を絞ってエロスを追及している。モデルの女性に貧乳と巨乳の両方を採用することにより、両者ともに違った魅力を引き出してはいるのだが……この聖書、一つだけわかっていないことがある。
 それは演出の一つに、ライトブルーキャミワンピを着た女性が着衣状態で水に濡れ、ワンピースが肌に密着している写真があることだ。
 いや『濡れた服が肌に密着している』という状況が非常に素晴らしいものであることは十分にわかっている。だが、俺が問題視しているのは、それをライトブルーのキャミワンピでしていることだ。先ほど述べた通り、このワンピースは冬から春に移り変わった季節を表現していることは間違いない。だがそんな服で全身濡れた状態など、拝見しているこちらが肌寒さを感じてしまうではないか。ワンピースに限らず、このような『ゆったりとした服装の女性が、何かの拍子にボディラインがくっきりと見えてしまう』というシチュエーションが素晴らしいことに異論はないが、実演するに至ってそこにリアリティがないのであれば、それは読み手に『あ、これは本の中だけのフィクションなんだな』と思わせてしまう要因になる。我々紳士は些細な日常の中に隠れる、さりげないリアリティのあるエロスに心を震わせるのだ!

「――はっ!」

 ……俺はいったい何を言っているんだ。

 興奮しすぎてつい本来の目的を見失っていた。
 とりあえず、この聖書はいったんこの倉庫に隠しておいて、後で回収しよう。
 エロ本を棚にそっと置き、別のところで捜索をしている通普と合流する。

「俺のほうは何もなかったぞ。通普、そっちは何か見つかったか?」
「こっちも残念ながら成果はないな」

 やっぱりか。

「捨てられたエロ本しか見つからなかった」

 やっぱりか。

「うーむ、まさか何も見つからないとは……」
「お前の勘違いだったんだろ? 何もないならそれでいいだろ。さっさと帰ろうぜ」
「しかしなぁ……」

 いまだに納得していない様子の通普を急かす。タイツ姿を誰かに見られたくないし。
 こんなタイツを着せられ、公園に連れてこられ、それで何もなかったということには文句の一つや二つ言いたくもなるが、それ以上の面倒が起きなかったのは幸いだ。

 そんなことよりも、今の俺には誰かに見られる前にこの公園から脱出するという、重大なミッションがある。

「ほら帰るぞ。そんなところでぼーっと突っ立てるんなら、俺は先に帰るからな」

 顎に手を当て考え込んでいる通普をそのままに、公園の外へと足を向ける。
 すると、公園の入り口に人影が見えた。

 うっ、しまったな。誰か入ってきたよ。

 誰にも見られずに帰る、ということはできなかったけど、でもまあ今の俺は仮面をつけているし、すぐに立ち去れば何も問題はないだろう。こんな格好しているのを見られるのは恥ずかしいが、俺が誰かということがばれなければ大丈夫だ。

そう、大丈夫だ。その人がこちらに向かって何かを言おうとしているが、大丈夫のはずだ。例えばそれが――


「な、なぜおぬしらがこんな場所にいるのだ!」


 ――ココア・ブラウンとかじゃない限りは。
 ……問題、大ありだよチクショウ。
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