人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と遭難と連絡手段

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「ぜぇっはぁっ……し、死ぬかと思った……」
「さすがにわれも同情するぞ……」

 頭に思い浮かんだ質問に、思わずノーを連打しそうになったが、それをぐっと堪えて二人を助けるために川に飛び込んだ。
 そんな再び命がけの水泳をした俺に、仮面を被り直したココア・ブラウンは同情するかのようなに言ってきた。

「おい、一応聞いてやるが、なんでお前まで流れてきた?」
「はっはっは! そんなの緑たちを助けるために決まってるじゃないか! なかなか勇気が必要だったが、私も覚悟を決めたのだぞ!」
「ふざけんな! お前まで来たら誰が俺達を助けるんだよ!」

 まさか後を追ってくるとは思わなかった。しかも通普だけじゃなく、鈴ちゃんまで。

「バカな……魔法少女であるこの私が飛べずに落下するだと……きちんと『マジカルフライ』を使ったはずなのに……」

 ぶつぶつとそんなことを呟く鈴ちゃん。
 洗脳されている間の記憶は残るのだが、果たして鈴ちゃんは洗脳が解かれた後、正気でいられるのだろうか。

「お、落ち着くのだ緑よ! 何か連絡手段を持っているかもしれない!」
「……そうなのか?」

 二人がそんな気の利いたアイテムを持っているとは思えないが一応聞いておこう。

「鈴ちゃん」
「任せろ。星と交信して助けを呼んでやる」

 駄目そうだ。

「安心しろ。どんなに距離が離れていたとしても、心の愛の呼びかけに、きっと星たちは答えてくれる」

 これっぽっちも期待できなさそうだ。

「鈴ちゃんはダメのようだの……」

 両手を上げて『まじかる回線、思いよ届けー』とやり始めた鈴ちゃんを見て、ココア・ブラウンすら諦めた。

「結局遭難者を二人増やしただけかよ……」
「ふっふっふ、どうやら私の出番のようだな」
「さて、どうしたものか。ここで待ってても救助は来なさそうだしな」
「そうだの、やはりジャングル脱出に向け歩いてみないことには始まらんであろう」
「あの、お二人さん? 私は? 私には聞かないの? 私、実はすごいアイテム持ってるんだけど。救世主になりうるんだけど」

 しかし、安全の確保もしないままに、進んでしまってもいいのだろうか。このままでは助からない可能性のほうが高いが、だからと言って闇雲に動くのも危険がある。

「ここがどこかもわからない以上、下手に動かないほうが賢明ってこともあるよな」
「しかし、われたちはこの川に流されてここにたどり着いたのだ。ならば川に沿って歩いていけばよいのではないかの」
「あー、ここにいいもの持ってる人がいるんだけどなー、ちらっ、そんな人に話を聞かなくていいのかなー、ちらっ」

 ココア・ブラウンの言うことも一理ある。
 というよりも、その方が助かる可能性は高いだろう。

「まあ、ひとまず休憩して体力を回復しておくか。さすがに二回も命がけの水泳をしたからへとへとだ」
「うむ、われも賛成だ」
「私を無視しないでくれぇえ! 話を聞いてよぉおおお!」

 ついに通普が我慢できずにすがり寄って来た。うざかったから出来れば最後まで無視したかったが、こうなってしまったら聞いてやらなければいけなくなった。

「はぁ……わかったから引っ付くな」
「そうか! そんなに私の話を聞きたいか!」

 こうなるからお前には聞きたくなかったんだよ。

「……で、期待せず、一応、万が一のことがあるから聞くけども」
「私のこと信用しなさすぎじゃない?」
「お前は何か助かる策を持っているのか?」
「もちろんだとも」

 自信満々にうなずく通普。正直くだらない道具でも取り出すのかと思っていたが、こうも自信のある態度をとってくるということは、本当に何か使える物を持っているのかもしれない。

「まあただ私の携帯が防水性ってだけなんだけど」

 ああなんだ、やっぱそんなもんか。引っ張った割に、取り出したのは何の変哲もない防水携帯だったが、まあこの状況はそれで解決するし、十分だろう。

「じゃあ親でも警察でも学校でもいいから連絡してくれ。ここがどこかわからないけど、川沿いに探してもらえば見つけてくれるだろうし」
「了解だ! 待っててくれ!」

 そう元気に返事をすると、通普は少し離れて携帯を操作し始めた。
 ふう、通普と鈴ちゃんまでもが流れてきたときはもう駄目だと思って泣きそうにもなったが、どうにか助かりそうだ。

「ん? あいつは何をやってるんだ?」

 通普の連絡が終わるのを待っていると、さっきまで星と交信していた鈴ちゃんがこちらに来た。もう交信は終わったのだろうか。

「星は答えてくれたのか?」
「駄目だった……いくら待っても妖精の声が聞こえてこない」

 知ってた。逆に交信出来たなんて言われた方が対応に困った。

 今でさえこの場には、緑色のタイツを着た変態が二人、怪しげな衣装を身にまとった変態が一人、魔法少女のコスプレをしたアラサーの変態が一人いるんだ。ここにさらにその星の住人だの妖精だのが増えたら手に負えない。

 ……というか、これ助けてもらうよりも先に捕まらないよな? 大丈夫だよな?
 ……深くは考えないでおこう。そろそろ通普も連絡が取れただろうし。

「なあ、助けは呼べたか?」
「………………」

 しかし、話しかけても通普は返事をしない。なぜか携帯を持ったまま固まっている。

「おい、聞いてるのか?」
「………………」

 まだ動かない。

「シンプル・グリーンよ、何を固まっておる」
「………………」

 ココア・ブラウンが話しかけても、やはり通普は動かない。
 何だろう、嫌な予感がする。俺には通普が絶望しているようにも見える。

「……緑よ」
「何だ?」

 やっと反応を示した通普。だがやはり嫌な予感が消えることはない。

「いくら私の携帯が防水であろうと、どうしようもない状況というものがあってだな」

 そう言って通普は携帯の画面をこちらに向けてきた。通普から携帯を受け取り、その画面を確認する。
 その左上、そこに通普が絶望している理由と、どうしようもない状況というのが簡潔に二文字で表示されていた。


 ――《圏外》と。


「「はぁ…………」」

 俺とココア・ブラウンは同時にため息をつく。
 この瞬間、通普が役に立たないことが確定した。
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