5 / 9
5 それが素ということか?
しおりを挟む雑談しながら二人並んで歩いた先に、大きな湖が見えてきた。
「どうやら着いたようだ。転移地はあの湖の上にある。」
「…」
聞き間違いだろうか。湖の上って聞こえたような…
「…くくっ、面白い顔になってるぞ?まあわからなくもないが」
「…そんな風に言うってことは、冗談ではないんです…いやないんだな?」
雑談の最中、名前の呼び捨てから、遂に敬語も取れとルイスに頼まれた飛鳥は、
年上だからと無意識に出てしまう敬語を何とかとどめながらため口で話していたのだが…
今もやはりスルッと敬語が出てしまい、またルイスに睨まれて口調を直したのだ。
「そうだ。確かに湖の上に転移のための入口がある。
まあ心配することはない、いくら湖の上に橋もなにもないからと言って、水の上を歩けなんて言わないさ。」
「…まあ、別に歩けなくもないんだが…」
「ああ、そうだろう。…って、え?歩けるのか!?」
今度はルイスが面白い顔をしている。
「…フフ、ルイスもそんな顔するんだな。」
「!!…っ、人をからかうんじゃない。なんだ、冗談か。」
「いや、本当に歩ける。」
そう言って飛鳥は橋の上から足を伸ばし、
「お、おい!?」
ルイスが驚いて慌てて飛鳥を止めようと腕を伸ばすが届かず、
そのまま飛鳥はスイスイと水の上を歩いて見せた。
飛鳥の足元には小さな波紋ができ、足を動かす度に広がったり増えたりしている。
「…すごいな。どうやってるんだ?アスカ、魔術が使えるのか?」
「魔術は使える。だが今は魔術は使ってない。」
「魔術でないなら何か別の力でも使ってるのか?」
「チャクラ…と言ってもわからないか…
この世界で言うなら魔力が近いか?
自身に巡る力を足元に集中させて、それを元に水面での歩行を可能にしているに過ぎない」
「自身に巡る力…なるほど、それは誰でもできるのか?」
「…そうだな、力を持つ者なら訓練次第でできるだろう。ルイスなら直ぐにでもできると思うが」
「そうか!では試してみるか。アスカ、やり方を教えて貰えるか?」
「それは構わないが…別に教える程の事でもない、
さっきも言ったが、己の中にある力を足元に集中させるだけだ。
魔術を使うルイスなら、おそらくその魔力を足元に巡らせればできるだろう。
ただ、その力が強すぎてはいけない。水面上を歩いても水に小さな波紋が出来るくらいの力で巡回させるんだ。」
「…魔力を足元に…、強すぎず、弱すぎず…なるほど、何となくコツを掴めて来た気がする」
そう言ってルイスは水面に足をのせ、そのままゆっくりではあるが飛鳥のいるところまで水の上を歩いて来たのだった。
この水面歩行、そんな簡単にできる事ではないはずだが…やはりルイスは魔術の長なだけあって、才能があるということなのだろう。
飛鳥の目の前までたどり着いたルイスは飛鳥を見てニヤリと笑った。
「それにしてもアスカ、お前、さっきから口調が変わっているの、自分で気付いているのか?」
「…?」
ルイスは一体何を言っているのか。
「…敬語をやめるように言ったのはルイスだろう」
「そういう意味じゃない。なんだ、本当に気付いてないんだな。ということはそれが素ということか?」
アスカ…、やはりお前は…
「…?なんだ?」
最後のルイスの言葉は小さすぎて聞き取れず、聞き返した飛鳥だが、
「いや、気にするな」
そう言うとルイスは今までで見たこともないような、慈しむような、本当に愛しい者でも見るかのような表情で微笑んだ。
「…ルイス、今自分がどんな顔をしてるかわかってるのか?
何を思ってそんな表情をしているのかは知らないが、私はルイスが思うような人間じゃない。」
「いいや、、、アスカ、お前は…、いや、今はよそう。おそらく精霊に逢えばアスカが自分でわかるはずだろうから」
とりあえず、今は精霊の地へ行く事が先決だからと、ルイスは話を打ち切った。
確かに今話す事ではなかったかもしれない。
腑に落ちない所はあるが、目的を忘れたわけではない。まずは自分が何者なのか、はっきりさせなければ。
それはきっと、精霊の地で明らかになるだろう。
この時点で、私達は完全に油断していたのだろう。
不穏な気配が近づいているのに、ルイスもそういう事には敏感そうなのに気付いていない。
何事もなく無事に転移の入口のある湖へと着いたことで安心してしまったのかもしれない。
飛鳥も、気配には敏感な方なのに、自分の今後の在り方に考えを巡らせていたせいか、周りに気を配ることが出来ていなかった。
まさか、精霊の聖地へと着く前にあんなことが起こるとは誰も思っていなかっただろう……
つづく
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる