誘拐犯と僕

5

瞼が下がる。非日常の連続で体は限界を迎えていた。

「圭一郎くん、こっちおいで。」

佐藤がベッドに座り、隣をぽんぽんたたく。働かない頭のまま佐藤の隣に座った。

「圭一郎くんは嫌だろうけど、ちゃんとぐっすり眠れるようになるまでの辛抱だからね。」

「…うん。」

佐藤は一度きょとんとした顔を見せてから微笑んだ。

「もし良かったら遊んでから寝ようと思ってたけど…今日はもう寝ちゃおうか。」

「んー、やだぁ。」

「でも眠いんでしょ？」

「……眠くない。」

少し息を吐いてから佐藤は僕を抱き寄せた。

「俺はねぇ、圭一郎くんに無理させたい訳じゃないんだよ。ね？」

今日はすごく楽しかった。今までにないくらい楽しかった。初めて、誰かと過ごして幸せを体感した。

佐藤は僕を幸せにしたいと言った。僕は今日、たくさんの幸せを知った。
明日起きたら、佐藤はいなくなってないかな。また家に戻ってたりしないかな。佐藤はまだ、僕の隣にいてくれるかな。

もっと佐藤といたい。

「…圭一郎くん。俺は、圭一郎くんが望む時までずっとそばにいる。」

佐藤が僕の頭を撫でる。

「それに今日圭一郎くんが知った幸せなんて、序の口だからね。まだまだだよ。」

その言葉に安心して僕は目を閉じた。

 *

｢寝た？｣

ぽつり、と声に出してみる。耳を澄ますと小さな寝息が聞こえた。

良かった。寝てくれたみたいだ。

圭一郎くんをベッドに寝かせて、俺も隣に寝転んだ。

年齢に合わない体を眺め、少しだけ抱きしめた。小さな体。

家で食べるご飯は3日に1度。それすらない日だってある。それ以外の食事は学校の給食しかない。

風呂に入る時には水だけ。お湯を使うなんてもってのほかだった。時々お湯を浴びる時は耐え難い熱いお湯だ。そんなもの、温かさなんて感じるわけもない。痛みだ。

そんな環境にいた圭一郎くんが、俺を求めてくれている。頼ることを知らなかった圭一郎くんが。

それがどんなに喜ばしいことか、圭一郎くんは想像もつかないだろうね。

……さて、圭一郎くんが寝てしまえばあとはもうすることがない。俺も寝よう。

｢また明日。圭一郎くん。｣

すやすやと眠る圭一郎くんをなでて、俺も眠りについた。