【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

女性を甘く見ると痛い目を見る3

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「…お元気そうですわね、殿下」

「ああ…久しいな」

「まあ、そのような言葉を殿下から言われると思いませんでしたわ。何しろ目障りだと思われてましたもの」

「そういう嫌味を言うのをよせ。お前は許していないかもしれないが、私はお前に謝罪しただろう」

「はっ、あんな上っ面だけの謝罪で殿下に費やした6年間と、蔑ろにされ続けた3年間が帳消しになると思うのでしたら、余程頭の中がおめでたいのでしょうね」

「お前はまたそういう…!」


 一発触発な雰囲気で会話をしている二人を周囲はハラハラとした様子で遠巻きに眺めているのがわかる。
 だが二人の隣に立っているエラディオとローデウェイクだけは、なぜか楽しそうにナディア達を眺めていた。
 どうやら助け舟を出すつもりも注意するつもりもないらしい。


「それで、サブリナさんはお元気ですか?まだ牢に入れられているのでしょう?」

「それは…そうだが…」

「本当は愛していらっしゃるのでしょう?毎日でもお会いになられているのでは?」

「いや…もう愛しては…」


 そもそも数日前にナディアに復縁を迫ったのだ。今ここでまだ彼女が好きだと言えば、どんな反応が返ってくるかわからない。
 そう思って言葉を濁したのだが、それすら予想通りだったのか、ナディアがフンと馬鹿にしたように鼻で笑った。


「まぁ…随分と薄っぺらい愛を盾に私を冤罪で貶めたのですね。本当にがっかりですわ」


 心底どうでもいいが、彼女のせいで公衆の面前で婚約破棄を言い渡されたのだ。
 ナディアも聖人君子ではない。実際にはめちゃくちゃ根に持っている。


「サブリナさんの手作りのお菓子、本当は料理人が作っていたと知ってました?」

「は?え、いや、あのお菓子はサブリナが…」

「作ってませんわよ。事実確認しましたもの。ちなみに、本当は料理は全くできないそうですわ」

「はあ!?」


 サブリナが料理上手だと信じていたジョバンニの顔色は面白いくらいに悪くなる。
 溜飲が下がる思いでナディアはジョバンニを見つめ、そしてフンと鼻で笑って見せた。


「まあ、貴族令嬢が料理をするなんて事はほとんどありませんが、彼女はお母様が平民でしたわよね?確かお母様に料理を教わったと言ってましたけど、それも嘘だったようですねぇ」

「くっ…サブリナ…」


 どうやらまだ何処かでサブリナを信じたい気持ちがあったようで、ジョバンニは非常に悔しそうだ。
 後から聞いた話だが、ジョバンニはサブリナとの面会を禁止されているらしい。
 理由は、ジョバンニと同じくサブリナの手作り(?)のお菓子を食べていた他の三人が、サブリナの顔を見たとたんに禁断症状のようにお菓子を求めたとの事だ。
 その様子に彼らの両親が危険だと判断し、元凶であるサブリナへの接近禁止令が出されたそうだ。

 その時ふと気になった事をナディアが口にする。


「そう言えば殿下」

「…何だ?」

「サブリナさんと再びお気持ちの確認をしたら、フェリッリ男爵家に婿入りするのですか?」

「そ…」


 そうだと言いい切れない自分がもどかしいが、どうしても喉から声が出てこない。
 あれから一度もサブリナに会っていない為、彼女の気持ちを確認できていないのも理由の一つだ。


「殿下は他の方達と比べてあの時の罰が軽いですわよね。こうしてパーティーにも出席してますし、フラフラとサルトレッティ家の領地まで遊びに来てましたものね」

「あれは遊びに行ってのではないだろう!それに今回のパーティーも、ヴェロニカがまだ成人していないから代わりに…」

「だから?普段の生活のままの殿下が反省しているようにも見えませんし、何かを失ったようにも見えませんので、やはり謝罪を受け入れるのはまだまだ先だと思っただけですわ」

「お前…本当に可愛くない…」


 ナディアを憎々し気に睨みつけたジョバンニだったが、ふと視線をナディアの後ろに向ける。
 ジョバンニの視線を不思議に思いナディアが振り返ろうとしたその時、フワリと背後から誰かに抱きしめられた。


「ナディが可愛いのは俺だけが知ってればいいんだよ。そろそろ返せ」

「エディ様…!」

「エラディオ、邪魔をするな。それにこの女のどこが可愛いんだ。お前の感性を疑う」

「存分に疑ってくれていいぜ。それよりも俺にすればあんな阿婆擦れ女にまだ気持ちを残しているお前の方が感性を疑うがな」

「サブリナは阿婆擦れでは…!」

「阿婆擦れじゃねぇか。何人の男と関係持ってたんだったか?お前も調書を見たんだから知ってるだろうが。複数人と関係を持っている時点で王族の相手としては不合格だ。そのくらい知ってるだろ」

「…わかっている」


 誰の子を産むかわからないような女性を王族の伴侶にはできない。
 それは当たり前の事だというのに、サブリナは王妃の座を狙っておきながら複数人の男性と関係を持っていた。
 そしてその事を上手く隠していた事も関心するが、当人たちにすればたまったものじゃないだろう。

 そんな一発触発の二人の間に入ってきたエラディオは、魅惑的な笑みを浮かべてナディアを抱き寄せる。


「さあ、婚約者殿。俺と一曲踊ってくれ」

「勿論ですわ」


 フワリと微笑んだナディアはエラディオの腕にそっと手を添える。
 二人はホールの真ん中まで移動し、お辞儀をして踊りだした。


「ナディ、カイラモ大公がこっちを見てるぜ」

「そうなんですか?気付きませんでした」

「よく言う。今回の事が終わったら、せいぜい覚悟しておくんだな」

「え」


 ニヤリと意地悪く笑いながらステップを踏む。
 ぐいっと腰を引き寄せられ、体が密着した。


「もっと俺に夢中になれ」

「なっ…」


 耳元で囁かれ、ナディアが顔を真っ赤にする。
 どんなに虚勢を張ってもナディアは男性との接触は殆どないまま今に至るのだ。
 婚約者のジョバンニにも蔑ろにされていたのだから仕方がないが、つまるところ男性の免疫がない。
 だからこそ、時々こうしてエラディオに攻撃されると、とっさの反撃ができずにただ顔を赤くするだけになる。

 けれど、そんなナディアを見てエラディオは「失敗した」と呟く。


「あー、ヤバイ。ナディアの顔が可愛くなりすぎた」

「は!?あっ…」

「っ!」


 エラディオのセリフを聞いて驚いたナディアは、思わずエラディオの足を踏んでしまう。
 不意打ちだったせいでエラディオも間一髪声を抑え、二人は同時に顔を見合わせた。


「…ふっ」

「…くくっ」


 なんだか急に笑いがこみあげてきて、二人はクスクスと笑いだす。
 その様子は周囲から見れば微笑ましいほど仲が良く、今まさに足を踏まれたとは思わない程に優雅に踊り続けた。

 そして一曲が終わる。

 曲が終わってお辞儀をすると、待っていたとばかりにマティアスが二人に近づいて来た。 
 こちらに向かって歩いてきていたマティアスに気付くと、ナディアはニコリと笑みを浮かべる。


「ナディア嬢、次は是非私と踊っていただきたい」

「あら、本当に?」


 マティアスの申し出にナディアが意味深な顔をする。


「それはどういう意味でしょう?」

「だって、カイラモ大公殿下はあちらの女性を気にされているようでしたので」


 そう言いながらフロアで踊っていたキャンディスに視線を向ける。
 視線の先にいるキャンディスは、ガブリエルを見つめながら幸せそうに微笑んでいた。
 そんな二人の様子を見せつけられ、マティアスは一瞬怯みそうになる。が、そこは腐っても王族だ。何事もないような笑みをナディアに向けた。


「ああ、彼女はコルト国の伯爵令嬢でして、私の友人なんですよ。一緒に踊っている男性も知人でしたので、あの二人が来ている事に驚いていただけです」

「そうなのですか」

「ええ。ですのでナディア嬢が気にされる事は何もありませんよ」

「そうみたいですわね。彼女、もう違う方にお誘いされたようですし」

「え」


 含むような笑みを浮かべながらナディアが告げると、マティアスが少しだけ驚いたように目を瞠る。そしてキャンディスの方へと視線を向けると、キャンディスはいつの間にかローデウェイクの手を取っていた。


「あらあら、ローデウェイク殿下もやはりあのように美しい女性がいれば踊りたくなるのですね」

「サーシス第一王子が…」


 何故キャンディスと踊っているのか。
 答えは簡単だ。コルト国王妃に頼まれたからだ。

 実はローデウェイクは今回のマティアスへのお仕置きを知っている、数少ない協力者の一人だ。
 事前にキャンディスと面会もし、このパーティーで彼女を褒めたたえる役目を担っている。

 勿論ガブリエルが彼女を手放すつもりがないので、あくまでもなのだ。

 ちなみにジョバンニはその辺は聞かされていない。
 とにかくローデウェイクと踊ろうとしているキャンディスを、マティアスは悔しそうな目で眺めていたのだった。

 


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