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【晦 成楓】
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今日も修行をする
手馴れたように頭の中で生々しい光景をシミュレーションする。
何度も行っているせいで感覚が麻痺し、以前のように途中で放棄するようなことは無くなった。
なんせ自分は正しいことを行っているのだから、躊躇う必要は無い。
修行を通しての多くの葛藤は全て「正義」の名の元に判断され、その葛藤もまたこれから生きるための糧となる。
「成楓様 今日の修行 お疲れ様 です」
いつも通り部屋に閉じこもっていた俺は、外の新鮮な空気を吸いながら部屋の前で待機していたひいなを見下ろした。
彼女の瞳は相変わらず感情が無く、愛想笑いの一つもしない。
「......君もこんな修行をしているのか?」
「?」
俺の問いに彼女は表情一つ変えず小さく首を傾げた。
幼い顔に纏う艶やかな漆黒の髪が微かに揺れる。
「いや、なんでもない。君も君なりの事情があってここにいるのだろう?」
あまりとやかく聞くのも大人気ないと思い、歯切れの悪い言葉で一方的に話を切り上げる。
気まずくなってすぐにその場から立ち去ろうとした時だった。
微かに装束の袖を引かれた気がしたひいなの方を振り返る。
案の定、彼女は俺の袖をきゅっと掴んでいた。
白くて小さな細い手が、微かに震えながら袖の繊維に指を食い込ませている。
いつも一定の距離でしか接して来なかった彼女がそのような行動に出るとは思ってもみなかったため、俺の方が逆に戸惑った。
「カイジツ様 言った。成楓様を 兄弟と おもいなさいと。だから わたし 成楓様と 仲良くする。だから 成楓様も わたしと 仲良く して ください」
自分より年下の女の子にこんなことを言われるとは何とも複雑な気分だ。
妹よりも幼いひいなの背丈に合わせるよう屈む。
背丈を合わせた彼女はどこか怯えたように俺を見ていた。
「『私』が怖いか?」
「......」
かつての自分と比べて随分穏やかな口調で俺は尋ねた。
強がっているのか、少し黙り込んだ後ひいなは弱々しく首を横に振った。
「無理に仲良くなろうとしなくていい。例えそれがカイジツ様の言葉であっても、君はいつも通りのひいなでいい。時間をかけて仲良くなろう」
◆
皮肉な話だ。
人間関係で上手くいった試しがない俺が人間関係のことでアドバイスするなんて。
あれこれと深く考える時間が出来たお陰で物の見方が変わったのだろうか。
変わったところでどうということは無いが。
ひいなは俯いたまま黙り込んでしまった。
僅かに口をすぼめて、足元に影を落とす。
「......わたし。いつも通りの わたしは どれで なに ですか」
何かを問われていることだけは分かった。
ただ、何を問われているのかは分からなかった。
「わたしは どこに あるですか。成楓様 言った いつもの わたしは どこに いるですか」
ひいなの真剣な眼差しが向けられる。
真っ暗な彼女の瞳の中に俺が映りこんだ。
返答に時間を要していると会話に釘を刺すような声が飛んでくる。
「相変わらず変なことばっか言ってるな。そんなんだから人形とか揶揄されるんだぞ」
じゃりじゃりと小石と砂を踏みしめる音が耳朶を叩く。
ひいなとひいなの背丈まで屈んだ俺を見下ろすのは、見慣れない少年だった。
前髪に隠れていない左目の下には薄らとクマがあり、への字に結んでいた薄い唇は俺を見た瞬間不敵に引き上がった。
「アンタ、カイジツ様が言っていた新入りだろ?」
少年の態度はどことなく相手の心を不必要に煽ってくる。
見た目は中学生か高校生くらいだろうか。
そのくらいの年頃なら不安をカムフラージュするためにあえて大きな態度を取ることもあるだろう。
俺にもそういう時期があったからその行動に関して多少共感出来るものの、実際やられると結構生意気だ。
「成楓だ。君は?」
「俺は断罪人さ。アンタも俺に斬られたくなきゃここから逃げようなんて思うなよ?まあ、あれだけ有名になれば逃げたとしても地獄だろうけど」
嘲笑うように『断罪人』と名乗った少年は鼻を鳴らす。
彼に気を取られている間、いつの間にかひいなが忽然と姿を消していた。
「あれ、ひいな?」
「ほっとけよ。元々あいつ、カイジツ様以外の奴らには近寄らないんだ。あいつにあんましつこくしてやるなよロリコン犯罪者」
「ろっ...ろりこっ...!?」
手馴れたように頭の中で生々しい光景をシミュレーションする。
何度も行っているせいで感覚が麻痺し、以前のように途中で放棄するようなことは無くなった。
なんせ自分は正しいことを行っているのだから、躊躇う必要は無い。
修行を通しての多くの葛藤は全て「正義」の名の元に判断され、その葛藤もまたこれから生きるための糧となる。
「成楓様 今日の修行 お疲れ様 です」
いつも通り部屋に閉じこもっていた俺は、外の新鮮な空気を吸いながら部屋の前で待機していたひいなを見下ろした。
彼女の瞳は相変わらず感情が無く、愛想笑いの一つもしない。
「......君もこんな修行をしているのか?」
「?」
俺の問いに彼女は表情一つ変えず小さく首を傾げた。
幼い顔に纏う艶やかな漆黒の髪が微かに揺れる。
「いや、なんでもない。君も君なりの事情があってここにいるのだろう?」
あまりとやかく聞くのも大人気ないと思い、歯切れの悪い言葉で一方的に話を切り上げる。
気まずくなってすぐにその場から立ち去ろうとした時だった。
微かに装束の袖を引かれた気がしたひいなの方を振り返る。
案の定、彼女は俺の袖をきゅっと掴んでいた。
白くて小さな細い手が、微かに震えながら袖の繊維に指を食い込ませている。
いつも一定の距離でしか接して来なかった彼女がそのような行動に出るとは思ってもみなかったため、俺の方が逆に戸惑った。
「カイジツ様 言った。成楓様を 兄弟と おもいなさいと。だから わたし 成楓様と 仲良くする。だから 成楓様も わたしと 仲良く して ください」
自分より年下の女の子にこんなことを言われるとは何とも複雑な気分だ。
妹よりも幼いひいなの背丈に合わせるよう屈む。
背丈を合わせた彼女はどこか怯えたように俺を見ていた。
「『私』が怖いか?」
「......」
かつての自分と比べて随分穏やかな口調で俺は尋ねた。
強がっているのか、少し黙り込んだ後ひいなは弱々しく首を横に振った。
「無理に仲良くなろうとしなくていい。例えそれがカイジツ様の言葉であっても、君はいつも通りのひいなでいい。時間をかけて仲良くなろう」
◆
皮肉な話だ。
人間関係で上手くいった試しがない俺が人間関係のことでアドバイスするなんて。
あれこれと深く考える時間が出来たお陰で物の見方が変わったのだろうか。
変わったところでどうということは無いが。
ひいなは俯いたまま黙り込んでしまった。
僅かに口をすぼめて、足元に影を落とす。
「......わたし。いつも通りの わたしは どれで なに ですか」
何かを問われていることだけは分かった。
ただ、何を問われているのかは分からなかった。
「わたしは どこに あるですか。成楓様 言った いつもの わたしは どこに いるですか」
ひいなの真剣な眼差しが向けられる。
真っ暗な彼女の瞳の中に俺が映りこんだ。
返答に時間を要していると会話に釘を刺すような声が飛んでくる。
「相変わらず変なことばっか言ってるな。そんなんだから人形とか揶揄されるんだぞ」
じゃりじゃりと小石と砂を踏みしめる音が耳朶を叩く。
ひいなとひいなの背丈まで屈んだ俺を見下ろすのは、見慣れない少年だった。
前髪に隠れていない左目の下には薄らとクマがあり、への字に結んでいた薄い唇は俺を見た瞬間不敵に引き上がった。
「アンタ、カイジツ様が言っていた新入りだろ?」
少年の態度はどことなく相手の心を不必要に煽ってくる。
見た目は中学生か高校生くらいだろうか。
そのくらいの年頃なら不安をカムフラージュするためにあえて大きな態度を取ることもあるだろう。
俺にもそういう時期があったからその行動に関して多少共感出来るものの、実際やられると結構生意気だ。
「成楓だ。君は?」
「俺は断罪人さ。アンタも俺に斬られたくなきゃここから逃げようなんて思うなよ?まあ、あれだけ有名になれば逃げたとしても地獄だろうけど」
嘲笑うように『断罪人』と名乗った少年は鼻を鳴らす。
彼に気を取られている間、いつの間にかひいなが忽然と姿を消していた。
「あれ、ひいな?」
「ほっとけよ。元々あいつ、カイジツ様以外の奴らには近寄らないんだ。あいつにあんましつこくしてやるなよロリコン犯罪者」
「ろっ...ろりこっ...!?」
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