龍の巫女は後宮でものんびり暮らしたい~翡翠の置物に宿る龍たちが最強すぎて、嫌がらせが効きません~

月冴桃桜

文字の大きさ
1 / 2

第1話:雨降る儀式と、翡翠に宿る神々

しおりを挟む
ーー瑞鳳帝国の北方に位置する白家の屋敷では、朝から喧騒に包まれていた。

「見てちょうだい、お母様! この紅の鮮やかさ。これなら私を放っておかないはずだわ!」
鏡の前で着飾った義妹だという麗蘭の声が廊下まで響いてくる。

「………ええ! ええ。まさしくその通りよ!!」
その後ろでは継母だという胡蝶が、我が世の春が来たかのように高笑いしていた。


ーー離れの自室で、白蓮華は窓の外のどんよりとした空を見上げながら、小さく溜息をついた。
「……まったくに、うるさいわね。……龍神様は、と思うわよ」
蓮華がチラリと視線を落としたサイドテーブルには、一対の翡翠の円盤と、その上に鎮座するが置いてあった。

すると、置物からふわりと煙のような光が立ち上り、手のひらサイズの「」が姿を現す。

『ーー)、またあの者たちが騒いでおるのか? ……まったく騒々しい。どうせなら、焼き尽くしてやろうか?』
真っ赤な鱗と体を持つ火の龍・焔(ほむら)が、不機嫌そうに鼻から火花を散らしている。

「だめよ、焔。……ここはなんだから。……それよりも、今日は雨が降りそうね?」
焔を宥めて、気をそらす。

『……ああ。貪欲に我らが加護を求める割には、人間共は天気の機嫌も取れぬらしい……』
冷ややかな声で答えたのは、水龍の雫(しずく)だった。

「………そうね」
思わず苦笑してしまう蓮華。
ーーふと、この異質な光景を見て、を思い出す。

ーーこのが蓮華の元に現れたのは、だった。


『龍の巫女選びの儀』

ーー本来であれば、の最中に、激しい嵐が襲った。

降り始めはさすがに踊りを続けていたけど、あまりの雨の強さに他の候補者たちが衣装が濡れて汚れるのを嫌って、騒ぎながら逃げ出した。
ただし、蓮華だけは、

と、
(……もし、やめて今以上に酷いことにでもなったら?)
と、本物の龍神の存在を気にしてやめることができずに、人もいなくなり、ずぶ濡れ泥塗れになりながらも最後まで舞い続けた。


ーーこれが三日三晩続くのか、とげんなりしていると、突然、天から巨大な黄金の龍が舞い降りて、地上の彼女と目を合わせたのだった。
その瞬間、
『………………』
頭の中で声がした。

ーー黄金の龍はその息吹を蓮華に吹き掛けた。

その瞬間、何かが体の中に入ったような感覚とともに、体の中から何かが溢れるような感覚がした。


ーー気がついた時、蓮華の黒髪は月の光を吸い込んだような銀に染まり、瞳は高貴な紫へと変わっていた。

戸惑う蓮華に黄金の龍は「)」を胸に刻むと、いつの間にか回りに集まっていた火や水などを身に纏った龍たちも、
『私たちも混ぜて!』
と言ってくるので戸惑いながら金の龍を見上げると、優しく微笑んでいた。
その間も龍たちに捨て犬のような目で見つめられていて、理由もわからずに思わず頷くと、
『やったぁぁぁ!』
意味がわからないままでいると、龍たちが順番に蓮華に息吹を吹き掛けていく。
その度に体の中に何かが入ったような感覚がしていて、終わってから、それがだったと聞かされたのだった。


「……あの日からよね。私の人生が少し……いえ、だいぶおかしくなったのは……」
あの時は確認できなかった自分の姿を鏡で見つめると思わず溜め息が出てしまう。


ーーあの日、すぐに屋敷に一人帰ったを儀式を理解していなかったま継母と義妹は「」だと思い込み、気味悪がって今まで以上に避けるようになった。

蓮華を心配する龍たちに、と頼むと、部屋に結界を張ってくれたお陰で、は誰も近付けなくなって、あの日、何が起きたのか正しく理解してくれたがこの部屋に入ることが出来て、蓮華を心配して、龍たちのために翡翠の置物を用意してくれたのだった。
そして、結界のお陰で継母たちがこの部屋の翡翠の置物を盗むこともできなって安心する蓮華。


ーーコンコン、と控えめなノックの音がした。
「蓮華、いるかい? 俊介だ」
幼馴染の商家の息子の俊介だった。
あの日、唯一最後まで雨の中で蓮華を見守っていたお陰で、龍たちも彼を気に入っている。

「ーー俊介。奥様の体調はどう?」
だから、同じくいい人だった彼の出産間近の奥様が気にかかる。
「ああ、お陰さまで順調にいけば、もうすぐ産まれそうだよ。……これ、龍さんたちのための新しい香木を持ってきた」
俊介は蓮華の髪や瞳の色が突然変わっても、蓮華の回りに龍が浮遊していても、驚きこそしたが決して彼女を蔑まなかった。
決して、態度を変えることもなく、いつも通りの幼馴染みとして接してくれている。
かけがえのない存在だ。

ーーだけど、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。


ーーその日、突然に屋敷の門前に、を掲げた馬車が到着した。

「ーー使である! ーー『』を迎えに参った!」

門の外から男がそう宣言すると、何を勘違いしたのか、麗蘭と胡蝶がパッと明るい笑顔になり、

「……ついに来たわ!」
と感極まった声を上げて、二人は玄関へと飛び出していく。


ーーしかし、馬車から降り立った武官——鋭い眼光を隠し持ったは無礼にも駆け寄ってきた普段から派手な化粧と衣装を身に纏った麗蘭には目もくれなかった。

「……違う。この女からは、など微塵もしない」
銀髪の青年の呟きに麗蘭たちは戸惑いの表情を浮かべ、隣の母親を見つめる。

ーーそう、は、自ら武官の一人に変装して、「番」を探しに来ていた。
龍炎は屋敷を見渡しながら、をじっと見つめる。
ーーそう、離れがある方向だ。

次の瞬間、誰の制止も聞かないように龍炎は屋敷を突き進むと、数名の護衛も後を追いかける。


「ーーーーーー
部屋にいた蓮華が呟くと、俊介が警戒するように蓮華の前に立つ。

ーー次の瞬間、部屋の戸が勢いよく開かれた。
先頭で中に入ってきた龍炎のが、部屋の隅で座っていた蓮華の紫の瞳と衝突する。

ーー待っていましたとばかりに、部屋の中に鎮座していた翡翠の龍たちが、一斉に歓喜の咆哮を上げる。

「……見つけたぞ……。
武官に扮したままの皇帝の口角が、蓮華を見つめながら、獲物を見つけたかの肉食獣のように吊り上がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

処理中です...